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第5話 「ROM ロム」

『あって伝えたかったけど、本当はキミに』

『うたってほしい』

『キミの言葉で、僕のために』

 >――12:30


 スマホを操作する指が止まる。文字通り思考も停止して三点リーダーが点々と宙に浮く。あまりの衝撃に頭が真っ白になった。


「……ふ゛えっ?」

 この文面を友達に見せればキャーキャー騒ぐだろうし、何らかの手違いでネットの海に流出でもしようならばゴシップ好きな世論はスキャンダルとして騒ぎ立てるだろう。


 だってこれどう見ても私に気があるよ⁈ 『僕の為に歌って』だなんてさ⁉ 

 私ずっと好きだけど、これ彼も好きになりかけてるよね⁈ それで私はもっと好きになるわけ。もう好きの連鎖でどうにかなりそうや。


「これはもう……いくしかないのでは? ワンチャンス……ありますよね?」

 とはいえ『はじめて曲聞いた時からファンでしたッ! 付き合って下さい!』なんて直球すぎな返し方はしない。こういうときは焦らすんや。少女マンガで読んだことがあるぞ。


『私なんかでいいんですか⁈』

 <――12:32


『リアルで超すきなんだキミの言葉』

『おねがい!』

 >――12:33


「キターキマシタワー好きです頂きましたぁああ~フぉぉおぉッッ」


『歌い手にアルバムつくろうっていわれちゃってさ』

『でも最近スランプで……。泣』

 >――12:33


『だから今度は』

『全部キミの言葉で』

 >――12:33


「あっ、え? ちょっと、なに? つぎはなに言われちゃうの私っ⁈ あって伝えたいって……もしかして結婚? プププ、プロポーズきちゃうのお⁉」


『二人で』

『つくろう』

 >――12:33


「こ、子供⁉ いきなり⁈ それは少し考えさせてほしい、かなぁ……あぁでも彼となら……っでも、将来的には、もちろん欲しいけれども……」


『アルバム用の新曲』

『だめかな?』

 >――12:34


「゛ぁ~もう! 気がはやいよぉお……っ? ぇ……新曲?」

 うん。そういうことなんだぜ。はやとちりしたんだぜ。


「そっちかーい! で、ですよねぇ~……」

 いやね、さすがにね、ないだろうとは思ってたけど、やっぱりなかったわ。ショックは変わらないけれど、現実とはそういうもの……私みたいなエリート社畜のアラサーヲタクにはハッピーエンドなんて一生こないんだよ。


「はぁ……バカみたい私……いい年して、なに夢見てんだか」

 彼を話をまとめると、『新曲の歌詞が作れなくて困ってたところ、私の言葉を見つけて、気に入ったから、是非新曲の歌詞をかわりに書いて欲しい』ってことだった。

 そういうことだったのだ。付き合えると思っていたから、多少ヘコんだけれども、『うたってほしいと』は『歌をうたう』ではなくて『詩をうたう』方のことだった。


 そう分かったいまは、もう落ち着いて思考できる。

 自分の言葉が詩になる。誰かに見つけてほしくて、聞いてほしくて書いていた私の言葉が、世界中に広がるチャンス。それが私に舞い降りた、本当のワンチャンスだった。


 ワンチャンスありましたわ。このワンチャンスをモノにしない手はない。

 今回は飛びつきはしない……落ち着いて考える必要がある。私なりに考える必要があるから。


「あぁでも……そう言われてもなぁ……歌詞かぁ……」

 歌詞といったら歌詞なのだ。仕様もない愚痴をつぶやくのとはわけが違う。メロディが絵具なら、歌詞は筆筋とでも言えるかもしれない。

 どんなに色鮮やかな色彩だとしても、キャンバスに描かれた物語が薄っぺらくては、絵画は駄作に……作品が駄目になっちゃうんだ。

 素人の私が歌詞なんかを作っては、彼の楽曲を台無しにしてしまう。だから私の指は止まって言葉が詰まったのだ。


 私には……それが怖くて、不安で、逃げ出したくって。

 既読だけ付けて、スマホの画面を消した……。


 夕暮れが終わり、空には退屈そうな月が見え始めている。私はその日も、押し付けられた残業を済ませ、くたびれたヒールを鳴らしながら、終電で会社を後にした。


 あれから何日かが経った。未だ、私は彼からのオファーに対する、返事が思い浮かばないでいる。

 ……いや違うな。その事を考えないようにして、毎日同じような業務を淡々とこなして、気を紛らわせてきたんだ。


 だって、いくら考えたところで、答えはノーで決まっている。

 想像してみてよ? 例えば、会社で、他の部署の案件を、押し付けられた時以上にリスクが高く。同じように作詞の基礎知識もなければ、書いた経験もない私が、ハイやりますとは、口が裂けても言えない。それは言ってはいけない事だからだ。


 それでも、心のどこかでは、下心みたいなものが存在していて、ワンチャンスを捨てたくない、オファーを断りたくない、などと思っている。

 それが返事を考えない……そのことを考えていない本当の理由なんだ。


「ただいまぁ……」

 家に帰ってきた私は、玄関口のマーブル柄のガラス皿に部屋のキーを放り。近くのコンビニで買ってきたビールの缶をプシュッっと鳴らした。


「ッかぁ! うんめぇなぁ~オーイ!」

 こんな風に、私にとっては考えないようにすることは、慣れていて、辛くなんて感じないのだ。勘違いしないでほしいから説明すると、私にとっては、素直な気持ちを言葉にできないでいるってことの方が苦痛なんだ。


 実際、考えないようにするなんて大して難しい事ではないんだよな。

「ほれこうして、モニターの電源入れればぁ……ほれ、ゆーとぴあ~ってね」


 ネットつければそこは天国で、なーんにも考えなくて済むって素晴らしい。その上、私の心と体は疲れ切っていて、今にも死にそうで、ホントに天に召された気分が味わえる臨場感ね。

 毎日こんな臨死体験を繰り返している私にとって、考えないことや返信できないことなんて、どうってことない。些細な問題でしかない……ん……ぅ。


「うぅ、ウソだぁ……。つらぃよぉぉ……。どうしたら……いいの、か……。ぜんぜん……わっかんない……ょぉ……」

 嬉しいのに悲しくて、悲しくて辛い。せっかく彼に見つけてもらえたのに、それを自ら棒に振るなんてことしたら、それこそ本当に気が狂ってしまいそうだ。


 そんな、日常にあるものは、昔も今も、同じ私に、同じ世界。救ってくれるのはいつだって同じ。


 私が、スマホを充電器に刺したとき。アプリの通知が、SOSみたくチカチカと光っているのに気がついたのはその時だった。

…………。

……。

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