表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

JACKET フリーワンライ企画

紅にまつわる話

第151回フリーワンライ企画参加作品です。


お題


アカにまつわる話(アカは変換自由)

そんな話は聞いてない

マーブリング

君が死んでいく

進み始めた秒針


すべて使用


制限時間を7分オーバーでした。

「わたしは嘘をついていた」


 わたしの指の腹へと針を当てれば目を射るような清々しい青が零れ落ちることだろう。理解できたかい? つまり言葉どおりの意味で間違いないよ。ずっとありきたりの人間を装ってきたけれど、わたしはそうではなくありきたりな、一介の〈 造人アンドロイド 〉に過ぎないってことだよ。


「ばかばかしい」


 君は云うだろう。しかし考えてもみたまえ。この国の技術と予算で生産可能な〈造人〉は月にしてせいぜい1000台ほどか、だけど生産が始まってすでに15年は経っているからね、いちど造られれば血液を抜くまでは死ぬことのない〈造人〉は増えつづけていまや国全体の人口2000万に対して1%は下らないのだから。

 気味が悪いとは思わないかい? 自分で云うのも変な話だが正直ゾッとしてしまうのは分かってしまうのだから可笑しいよね。

 だって普通に人間だと思って日常的に関わり続けていた相手があたかも人間のフリをしてあの緑や青やあかや黄やの奇抜でど派手な血液が流れている〈造人〉として身近に暮らしていた、なんてことを知ってしまったら、〈造人〉であるわたし自身でさえも、棚に上げるみたいで按配が悪いが不気味で居心地が悪い気がするものだよ。

 ばかりか君はそのフィアンセなのだから……

 名前から経歴から全てを偽って近づき、関わり、深くなりやがて恋をして、とうとう生涯の契りを交わした関係にまでたどり着いてしまったというのに、こんな欺瞞が待っているのだからね。


「酷いわ、どうにしたってこんな目に遭わされる必要なんてないじゃないの」


 そうだね、それは大いに一理ある。だけど人間世界に染まりきったとはいえまがりなりにもこっちは〈造人〉さ。熱い血潮の流れている君たちとはそもそもが道理を異にしている存在だからね。 

 ほら、地面を見たまえよ、この世界に隈なく走っているあの細かい筋の意味を君はそろそろ理解したのだろうか。あれは死した〈造人〉たちの意識を運ぶレールなんだよ。まあ、誤って君たち人間の血潮を運ぶことだってあるがね。学校教育でご存じな通り我々〈造人〉の体躯は朽ちることがない。ただし意識、つまり〈造人〉の体躯を走る血液には限度があって、それが使用不可になってしまえばいったんもとの体を去って濾過湖にてリサイクルを施されなければならなくなる。


「あたしの話きいてんの、この狂人」


 そうか、しかしもう少し待ちなさいな。わたしの話はそもそも結論に向かって真っすぐ進んでいるのだからね。そうだね、詩的に命名するならばこれは『あかにまつわる話』とでも云えるだろうか、まあ、この場合わたしに流れている紅い血液に限定された話になってしまうから矛盾しているかもしれないけれども。

 さっきの続きだが。この世界の地面を覆う微細な無数の縞はふいに死んでしまった我々の同胞の血液を運んでいくためにあるのだよ、使用不可といってももぬけの殻になった体躯さえ抜けてしまえばカラフルな血液は自走することくらい難ではないからね、そして方々から濾過湖に集められていく。あれを湖と命名した同朋は誰だったのだろうか。今じゃそれこそが正式名称と思われているほどだけれども、始めは隠語でしかなかったというのも興味深い話ではないかな? まあ話が逸れてしまうからこれ以上追及はよしておくがね。

 あれがどうして透明な桶ではなかったのかと〈造人〉なら一度は考えることだろうね。まだ付き合い始めの頃だったよね、君を連れ訪れたあの鮮烈な個性的な湖は、わたしの心中では「ご先祖参り」というつもりだったが、あの時の君に知る由もなかっただろう。

 上から画用紙を落としてみたらとても芸術的なマーブリングが完成しそうなあの湖の表面の模様を見て並み居る人間たちは「とっても綺麗」と感じ入っていたけれど、君も同様だったのだからね。

 しかしあれは時間をおいたら比重により美しい色彩の層をなしていく、それを横から眺められないのだからとてももったいないこととは思わないかい?


「そんな話は聞いてない」


 そうだろう、わたし自身余談に流れているのを自覚しながらついつい喋りすぎてしまったよ。あの湖に時々人間たちの赤い血液が混じっていくということはあまり知られていないことかな。しかし実際そうなんだよ。あれはいけないね、リサイクル処理さえ施していれば理論上何度も復活する〈造人〉の血液の湖に、数日もすれば腐ってしまう人間の血液が混じってしまうのだから、とても美にそぐわないことだとわたしは考えるんだよ。実際あの美しい極彩色の芸術品を汚いヘドロのような醜悪な粘液が穢している光景は、とうの人間自身だっていい気がしないことだろう。


「さあ、見たまえ」


 君の脚もとには当然ながらその縞模様が走っているね。これから進み始めた秒針によってやがて君の血液はあの湖へと運ばれていく運命にあるよ。君はちょうど0の印に括り付けられていて、もうすぐ秒針は君の頸へと到達するのだろう。動き始めたことにより君が死んでいく運命にあることはすでに認識済みだろう。秒針は鋭く磨かれていて通過してしまえばザクッと切断面が現れる仕組みになっているのだから、その滑らかに美しい断面を垣間見ることができないなんて、君はなんて運が悪いことだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ