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魔王、専属を増やす!

 僕達の住む世界とは違う異世界ーーー


 人間と魔物は長い戦いを繰り広げていたーーー


 たがある時、その戦いは一人の青年によって終わりを告げられたーーー


 青年は勇者と称えられ、戦いは人間が勝利したのだーーー


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 見つけたっ!ついに見つけたっ!この緒方こそ、先代様の託された我等の希望!


「いたぞ!あそこだ!」

「逃すな、殺せ!」


 風切音を鳴らし降り注ぐ矢と魔法。不規則な動きをして、ローブ姿の人影はそれらを全てかわす。


「あぶ〜」

「ご安心下さい、若様。貴方様には血の一滴も出させません」


 茂みの中を高速で移動し続け、その手に抱いた赤子に笑いかけた。

 やがて茂みは終わりを告げ、開けた視界には樹海が映る。広大に広がる青臭い森を眼下にし、たん……と、軽やかに崖を飛び降りた。


「……ここまで来れば、人間は追って来ません。もう大丈夫です」

「うきゃきゃ、うへぇ〜」

「楽しそうで何よりです」


 屈託の無い笑みを浮かべた赤子は、全身で風を受けるように手のひらを開ける。

 そこから何か黒いオーラが滲み出たかと思うと、それは赤子達を包み……そして。


「ありがとうございます、若様。久々に本気で飛べそうです」


 ローブの背中を突き破り、人影から出たのは巨大な翼。赤子のオーラをその翼に受け、人影はどんどん速度を上げていった。

 いつの間にか樹海の森には霧がかかり、奥に行けば行くほどそれは濃くなって行く。


「……あぁ、見えましたよ若様」


 翼の生えた人影は、いい加減ローブがうっとうしくなったのか、頭の部分だけ取る。のぞかせたのは、鴉のように黒い顔で眼は紅。側頭部からは曲がった山羊のツノが生えている。


「あちらが、今日から若様の住まう魔王城です」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 ーーー数百年後。


「魔王様!我等はいつでも出撃出来るよう、準備しておりました!今こそ人間共に復讐を!」


 何度、このやり取りを繰り返しただろうか。

 樹海に住む魔物達が、俺の下に……魔王アスラの軍下に入りたいとやってきたのは。


「………お前達、確か種族はモノアイだったな?」

「はい!」


 アスラの隣に立つ、黒顔黒羽黒服の男が尋ねる。彼の名はムクロと言い、俺の一番の『友達』だ。


「……すまないが、モノアイ達。若様は…」

「いいよ、ムクロ。俺が言う」


 禍々しい玉座から立ち上がり、先代のマントをばさりと、なびかせる。何度も繰り返した歓迎の作法だ。


「君達がどんな気持ちで戦いに挑み、負け、今一度戦いに挑もうとしているのはわからない」


 ゴクリと、モノアイの誰かが生唾を呑む。緊張でもしているのだろうか。


「だからと言って、君達の事を否定するつもりも無いし、俺からあーだこーだ言うのもしない」

「…あ、あの、魔王様……それは一体どういう…」


 意味がわからないと、モノアイの少女が話を割った。隣の、父親だろうか?彼が凄い勢いで「申し訳ありません!」と少女の頭を下げさせる。


「まぁ、難しい話は全部ムクロに任せるとして、今は俺の気持ちを簡単に言おう」


 ちらりとムクロの顔を見れば、呆れた顔をしていた。仕方ないよね、難しい話は出来ないし。


「俺、人間皆殺しとか、世界征服とか、やる気ないから」


 ……沈黙。オークの人達がわめき散らした事があるってのを考えると、こっちの方がありがたい。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「……というわけで、今から面接を行う」


 モノアイの皆様は、半分ほどになっていた。血気盛んな世代はムクロの話を聞いて「もう時代は変わっているのだろうか…」と元の生活に戻り、若い彼ら彼女らは「魔王様に仕える事が出来るのなら」と残ってくれている。


「先程も言ったように、若様は世界侵略をする気は無い。全ての魔物が平和に暮らせるのなら、それで良いとおっしゃったのだ」


 言ってないけどね。面倒なだけだし、運動キライだし、そんな事より本が読みたい。


「だが、この魔王城にはまだまだ人手が足りず、絶えず人員を集めている」


 魔王城にいるのは、庭師のオーガ、畑番の人狼、料理長のアラクネ、掃除夫のゴブリン、門番のガーゴイル、執事長のムクロ、メイド長のリリスを筆頭に、多種多様の魔物が働いているのだ。


「今回要望があったのはリリスとガーゴイルからで、適当に見繕って欲しいそうだ」

「はいはいはーい!」

「……なんでございますか、若様」


 面倒を中断させ、俺はモノアイの皆の中から……一人の少女を指名した。


「あの子!確か俺の話の時に喋った子だよね?」


 びくりと、少女はアスラから目をそらす。別に怒ってないんだけどなぁ。


「……どうなさいます?」

「俺の専属メイドに任命!」

「またですか!良い加減に引き抜くのはやめて下さい!しかも、今度は面接中にですか!」

「楽しそうじゃね?」


 へらへらとムクロに笑いかけ、ア然とする少女の手を取った。


「名前は?」

「……あ、あの、アイコンと言います」

「そっか、アイコンか!俺はアスラ!好きなものは本を読む事、好きな奴は皆で、一番好きなのはムクロとアモンじいちゃん!……あ、二人だから一番じゃないか」


 状況が飲み込めないアイコンをよそに、アスラはムクロの方を見る。


「……その一人だけですからね」

「ヒャッホーウ!さすがムクロ!」

「何がヒャッホーウですか……あぁ、胃が痛い…」


 ムクロが何か言ってるけど気にしない。これで、俺の専属は遊び相手のデュラハン…ムナイトと、専属料理長のサキュバス…ホノヤクと、専属作家のウィッチ…ビマジョ。更に今回で専属メイドのモノアイ…アイコンが加わった。


「楽しくなりそうだよなぁ!アイコン」

「えっ、あっ、はい…そうですね」


 アスラはアイコンの手を取り、面接の行われる部屋を出る。掃除中のゴブリンを避け、ワゴンを押すリリスに道を譲り、食料を確保してきたアラクネに夕飯のメニューを尋ね、泥だらけでケンカするオーガと人狼を仲裁し、休憩中のガーゴイルに挨拶をする。

 そして、皆最後にこう聞くのだ。


「そろそろ、侵略する気になった?」


 そして、いつもの様に俺は答える。


「全然、侵略する気にならないね!」


 この魔王、世界侵略いたしません。

スローペース更新です。


ご愛読ありがとうございます。

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