乙女の悩み
ここはとある王国の一室、そこではまだ幼さが抜け切れていない王女・リリアが鏡を前に唸っていた。
「ど・・・どうしましょう・・・
と・・・とにかく行動あるのみですわ!!」
そして、何かを決心したようであった。
「よう、姫さん。ちょうどいいや今から・・・」
ある日の午後、廊下を歩いていた王女の婚約者である魔導士のレオルが王女を見つけ、声を掛けたが、
「ごきげんよう、レオル。
わ・・・わたくし急用があるので失礼しますわ~。」
一緒にお茶でもと言うレオルの言葉を聞く前に、リリアはそう言ってそそくさとレオルの前から去って行った。
「おい、姫さ・・・何なんだ?」
また別の日には、
「ちょうどいいや姫さん、今からお茶でも・・・」
「きょ・・・今日はお兄様と約束がありますの、ごめんなさいですわ~~」
と、こんな風になぜか自分の誘いを断るリリアにレオルは少しイライラとしていた。
そしてとうとうレオルは、リリアを捕まえて問いただすことにしたのである。
「姫さん、ちょっと話があるんだけどいいか?」
「?・・・何ですの?」
随分と神妙な面持ちのレオルに、リリアはキョトンと首を傾げる。
「まぁ、とりあえずお茶でも・・・」
飲みながらと言うところで、リリアは慌てたように、
「ご・・・ごめんなさいですわ!
わたくし急用を思い出しましたわ!!」
と言ってその場を立ち去ろうとする。だがそれを大人しく許すレオルではなかった。
「ちょーっと待った!」
しっかりと腕を掴まれてしまったリリアは、逃げることが出来ずに仕方なくレオルの顔を見る。
「一体全体、何があったってんだ?
ここ最近、俺がお茶に誘うと決まって逃げて行っちまうだろ。」
そう、この数日リリアがレオルの誘いを断るのは、決まってお茶と言う言葉が出た時なのであった。
「そ・・・それは・・・」
どう答えればいいのかと思案しているリリアに、レオルはつい先日耳にした噂を口に出してみた。
「もしかして俺の誘いを断るのと、ここ最近甘いものを食べてないって言うのは何か関係あるのか姫さん?」
「ど・ど・・・どうして知っていますの!?」
「ん?・・・あれま・・・噂は本当か。
ふむ・・・なるほどね。それで俺の誘いも断ってたわけか・・・」
一人何やら納得しているレオルであったが、一方のリリアは自分が甘いものを断っていることをレオルが知っていたことにまだ驚いていた。
「で・・・何でまた甘いもの断ちなんかしているわけよ?ん?」
「い・・・いえませんわ。」
リリアは言うものかと言うようにプイッと横を向く。
それを見て何を思ったのかレオルは口の端で笑い、そして、
「喋りたくないねぇ・・・そんじゃまぁ、喋らない口なら塞いじまっても文句はないよな?」
と言ったかと思うと、リリアの口を自分のそれで塞いでしまったのだった。
「!?んー!!!」
抗議の声は全て飲み込まれ、逃れようとジタバタとする腕さえもしっかりと抑え込まれていて、しばらくしてレオルの口付けから解放された時には、リリアはぐったりと全身の力が抜けてしまい、立っているのがやっとという状態だった。
しかし、そんなリリアにレオルは、
「さてと・・・言う気になったか、姫さん?」
と意地悪そうに聞くのである。
「い・・・言えませんわ・・・」
レオルに支えられるように立ちながら、それでも頑なに口を閉ざすリリアである。
これまた頑固としか言えないリリアなのであった。
「おやまぁ・・・頑固だねぇ。仕方ねぇなぁ・・・」
「きゃー!!何ですの!!おろして下さいましー!!!」
突然レオルに抱き上げられたリリアはジタバタとレオルの腕の中から逃れようと暴れるが、
「言いたくないなら、その口が言いたくなるように身体に聞こうと思ってね。」
と、抱き上げている方のレオルは平然と自室へと向かう。
「ななな・・・何を言っていますの!!おろして下さいましー!!!!」
「言う気になったか姫さん?」
「言います!言いますから、早くおろして下さいまし~!!」
自室へ入り、本気で寝室へと連れて行こうとするレオルに、仕方なくリリアは観念して甘いものを断っていた理由を話したのであった。
「・・・悪い、姫さん。・・・もう一回言ってくれるか?」
「ですから・・・その・・・ダイエットをしていましたの・・・」
「・・・・・・ハァー・・・・・・」
リリアのその聞こえるか聞こえないかの小さな言葉に、レオルは一つため息をついた。
つまりはこういう事であった。
リリアはレオルが趣味で作ったそれはおいしいお菓子や、お忍びで出かけた街の喫茶店などでお菓子を食べていた為に、ここ最近普段着ている洋服が少し窮屈になっていたのであった。
とはいえ、成長期であるリリアは別にそれほど太っていると言うわけではなかったのである(レオルにしてみれば、もう少し太ってくれてもと言ったところである)が、リリア本人にとってこれは一大事であった。
大好きなレオルに誘われれば喜んでお茶を一緒にいただきたいリリアである。
だがしかし、もれなくおいしくて甘いお菓子がついてくる。
更に言えば、砂糖とミルクが入った紅茶を好むリリアであったから、悲しいかな断るしかなかったのであった。
それも、目の前に出されてからでは誘惑に負けてしまうと解っていた為、お茶の誘い自体を何かと理由をつけて断っていたのであった。
兎にも角にも、全ては恋する乙女の思い込みから出た行動であった。
「・・・レオル?」
ため息の後黙ってしまったレオルに、怒ってしまったのかとリリアは恐る恐る声をかける。
「ハァ・・・あのな、姫さん。姫さんのどこが太ってるって言うんだ?
俺に言わせたら、姫さんはまだまだ肉が足りねぇよ。」
「でも、お洋服がキツクなりましたわ。」
「ったく・・・そういうのは、成長したって言うんだよ。」
そう、ため息混じりにレオルは言った。
そして、またもや何かを思いついたらしくニヤリと笑い、
「そんなに太ったと思うなら、俺が今から確認してやるよ。」
と、リリアを再び素早く抱き上げた。
「え?・・・きゃー!!レオルー!!何しますの~!!!」
リリアの抗議の声も空しく、レオルは暴れるリリアを抱きかかえてそのまま寝室へと向かった。
レオルにとっては別に、リリアがリリアでありさえすればそれでいいのだ。
少しくらい太っていようが、痩せていようが、リリアに違いはないのだから。
そしてこの後リリアは、散々レオルに身体を確認され、次の日の午後になっても身体を動かせなかったそうな・・・。
~ Fin ~
乙女の悩みは尽きないものです。