04 ドザーク山脈の調査依頼
「魔物増加の原因調査?」
上薬草をギルドに届けてから一週間後、俺は真新しいランクDのカードを受け取った窓口ですっかり俺の担当となったシンシアからその話を聞かされた。
「はい。最近、ドザーク山脈周辺で魔物被害が増加しています。流通に悪影響が出始めたので、原因調査の依頼が領主様からありました」
ドザーク山脈とは、交易都市エイスニルから大河を挟んだ北側に位置する標高2,000m級の山の連なりである。
北側のドザーク山脈と、一週間前に上薬草を集めに行った東側のザイマール山脈とを結ぶ線が我が国とルーバント王国との目に見えない国境線にもなっている。
ドザーク山はかなり昔に作られた山道を通れば東西どちらからでも登頂できるが、魔物が多いために採取や猟目的以外の立ち入りは殆ど行われていないのが現状だ。
山を迂回する街道が整備されているため、両国としては山から下りてきた魔物が人里に近寄り過ぎれば倒すがそうでなければ放置している。
魔物の定期的な討伐などは一切行われていないので、この近辺を通る馬車商隊ならば冒険者の護衛を付けるのは当然という感覚である。
「バルデラス侯からの依頼か。ルーバント王国に弱みを見せたくないのかな」
バルデラス侯とは、先ほどシンシアが口にした領主のユーベル・フォン・バルデラス侯爵の事である。バルデラス侯爵家は代々この重要な交易都市エイスニルを任されており、王家からの降嫁もある由緒正しき家柄だ。
領地の流通に影響があるのであれば、領主としては放置出来ないだろう。
「確かドザーク山脈付近の護衛依頼はDランク評価で、馬車の台数や積み荷によって護衛の数や質を増やしていくのだったか?」
「はい。もしも依頼条件が悪ければ、受注課の方で依頼日数を調整させていただく形で難易度はDランクです」
シンシアが言った調整とは、護衛の数が充分なら10日で1単位16点、不充分なら8日で1単位16点という形でギルドが調整をしていますという話だ。
需要と供給が合わないと契約は成立しないし、冒険者ギルドは冒険者の安売りをしたくないので、キツいならそれなりに報酬を上げて貰わなければならない。
但し魔物の強さに基づく難易度評価はそのような金に関係ないので、「難易度D」はドザーク山脈の魔物に対応する評価であろう。
だが人里離れた山奥を調査に行くのなら、最低でも1隊6名を作らなければ夜番に耐えられない。
「何人でどれだけの期間、どこまでの範囲を調査するんだ。それと依頼の達成条件、俺に求められている役割、報酬はどうなる」
「はい、ええと…………」
俺は冒険者免許証に失敗が付くような依頼を請け負うつもりは無い。
俺の質問が多すぎたのか、シンシアは依頼書の中身を覗き込みながら答えた。
「調査は3隊18名で、1ヶ月間の予定です。1隊は東から沢に沿って登頂し、西へと下ります。もう1隊は正反対の西から登頂し、東へと下ります。最後の1隊は出現報告の多かった街道付近を見回ります。依頼の達成条件は、各隊が定められたルートで発見した魔物の数や行動をまとめてギルドに中間報告する事です」
「ふむふむ」
「1隊にはランクB1名、ランクC2名、ランクD3名が配属されます。報酬はフランツさん達がD級1単位10日で計48点、Cランクの方々がD級1単位5日で96点、Bランクの方がC級1単位10日で192点です」
「ほほう」
この条件は悪くないと思った。
むしろ「1ヵ月間、ルートに沿って魔物を見つけて報告すれば48点貰えますよ」というのはかなり楽な仕事である。
隊にBランクがいれば、Dランクの集団でも護衛が務まるようなドザーク山脈の探索で死ぬ事は無いだろう。そもそも戦う事を求められているわけでは無いので、危なければ隊が逃げると言う選択肢も採れる。
俺がCランクに上がるには残り375点必要だが、このような調査依頼を8回引き受ければそれで達成となるわけである。
「街道の移動と山道の荷運びに用いる馬については、ご自身の馬の持ち込みが可能です。ご自身の馬を使われないのでしたら領主様の側で用意されるとの事です」
馬の持ち込みを自由選択にしてくれるとは、侯爵も随分と気が利いている。
馬は冒険者にとって強みの一つで、それなりの収入を得ているランクC以上の冒険者ならば戦闘や移動用に専用の馬を持っているものだ。
なお馬を使えない長期依頼で家族や友人にも預けるアテがなければ、都市内の公共厩舎に預ける事も出来る。もちろん出費が嵩むし、馬も寂しがるのだが。
「よし、受けよう」
この仕事は競争倍率が高いはずだ。
俺が弓術3の技能を持っているとしても、戦闘技能3だけならば他のDランクにも所持者が居るだろう。
そしてそういう実力とランクが釣り合っていない冒険者を正しいランクに押し上げたいと思うギルド側にしてみれば、今回の依頼は有望者に対するランク上げの絶好の機会なのだ。
おそらく「元領地調査官という前歴の冒険者が調査に加わった点」が依頼主へ中間報告する際の説明に少しは役立つので俺にもお鉢が回ってきたのだろうが、俺が渋っていればすぐに他へ仕事が回されるに違いない。
「ありがとうございます。それでは受注課で詳細確認と契約をお願いします」
こうして俺はドザーク山脈の調査依頼を受ける事となり、それから4日後には出立した。
なお俺が仰せ付かったのは、ルーバント王国寄りとなる東側の沢から山脈を上るルートであった。
調査隊は出だしから快晴には恵まれたものの、メンバーの方には余り恵まれなかった。
調査隊のメンバーは、次の通りである。
ランクB アルセニオ・ブロイル 武器=ロングソード &ショートソード
ランクC セザール・クレランド 武器=クレイモア &イヤーダガー
ランクC ブライアン・カトラル 武器=ショートスピア
ランクD クルト・フォン・バールケ 武器=バスタードソード(予備剣有り)
ランクD チャールズ・コルケット 武器=直刀(二刀流)
ランクD フランツ・アイレンベルク 武器=短弓(騎射可)
恵まれていなかったのは戦闘力ではなく隊としての連携だった。
隊長のブロイルは、Bランク冒険者としての役割しか期待できない男であった。
Bランクとしての実力は十二分にあるが、隊長としては隊員の仕事に危険な部分があっても放置し、その結果隊員が怪我をしても自己責任と見なす無能な男であった。
副隊長のクレランドは冷めた男で、不干渉をスタイルとして確立していた
仕事は義務であり、パーティは一時的なものに過ぎず、各自が己の役割を果たせば他には関わらない。そのため副隊長として隊長のフォローをしようという意思は一切ない。
もう1人のCランクであるカトラルは、熱意が空回りしている男だった。
彼は無駄に調査範囲を広げたり、魔物に対して積極的な接触を試みようと提案する。余計なリスクは避けるべきであり、彼の手綱を握らなければ危険になる。
Dランクであるバールケは、下級貴族でプライドの高い男であった。
19歳の彼は当初俺が一回り年配なのに同ランクと言う事を見下して連携せず、仕方がないので事情を説明すると今度は張り合い、やりにくい事この上ない。
もう1人のDランクであるコルケットは、注意力散漫だ。
今年17歳になる彼には婚約者がおり、この戦いが終わったら結婚するのだと話していた。誠に結構だが、終始浮かれていて低い実力がさらに下がっている。
そしてDランク最後の冒険者の俺はというと、長期の野営に不慣れである。
冒険者経験が浅く、初の本格的な登山と毎晩の夜番に難儀している所へ熱意で暴走するカトラルと絡んでくるバールケが加わり、現状維持が己の能力の限界であった。
今回の冒険を以て、ギルドの冒険者に対する評価がランクや依頼達成率という絶対評価に基づいているのだと改めて認識させられた。
冒険者に求められているのは相性や人間性ではなく、仕事達成率という結果だけなのだ。
だが例えば、隊長であるブロイルの行動を好意的に解釈して「指摘されなければ自分で気付けない奴は冒険者に向いていない」という考えを持っているのだとすれば、その通りかも知れない。
また副隊長の「役割以外には干渉しない」というスタイルは、個性の強い冒険者同士が長期間行動を共にする場合に必要な事であるのかも知れない。
そう言う見方をすれば、彼らに対するギルドの評価は別に悪くないと言う可能性もあった。いや、むしろそう言う見方をしなければやっていられない。
もしもギルド受注課が隊長のブロイルと副隊長のクレランドを調査は出来る人間だと考えて集めたのだとすれば、後の隊員に求められている役割は戦闘力である。
ランクCのカトラルは槍術だけではなく、火属性2を持っていて火系2の魔法を使うことができる多才な男であった。
突っかかってくるバールケは19歳にして剣術3を持っている逸材で、この戦いが終わったら結婚するコルケットは男で二刀流という特技を持っている。
そして俺は、弓術3と水魔法3を持つ中長距離支援要員だ。
ギルド視点では、この調査隊は依頼条件のランク帯の中では最精鋭なのかもしれない。
なんとも泣けてくる話である。
「はぁ」
バチッ……
隊の者が寝静まった山中で、俺の溜息をかき消すように焚火の音が響いた。
真っ暗な夜空には、満天の星空がきらきらと輝いている。
俺たちは毎晩2人ずつの3交代で夜番を行っており、今は俺と隊長のバールケがその任に就いている。1隊6人という編成は、このように夜間の自衛を行いながら長期間野外で活動するために考えられた人数である。
他の連中はテントの中に引き篭もっており、馬は木々に繋いでいる。
ことドザーク山脈付近の魔物から身を守る点に限るなら、焚火の夜番を魔物に対する囮としておき、少し離れた窪地に寝る奴らを隠し、馬はその周囲に配置して襲撃を受けた際の壁と餌を兼ねさせるべきであろう。
だが山中を進むからには、条件に合う地形ばかりに巡り合えるわけでもない。
今日の野営に点数を付けるなら、100点満点中で62点というべきだろうか。なお生存率は、野営の点数と日々の運勢との合計点で定まる。
現在は行軍12日目で、そろそろ山頂が近くなっている。
帰路は山の下りなので、移動速度は登る時よりもマシになる予定だ。
沢に沿って作られた山道を登っていたものの、9日目を過ぎた辺りからは次第に渓谷が深くなってきたために水の確保が困難となった。
そこで俺が魔法で水を作っているのだが、俺が居なければ居ないで雨水を溜めたり、あるいは足場が泥化した部分の土を掘って湧水を得てそれを濾過するなど工夫の仕方はあるらしい。
(こういう山中での野営の仕方のように冒険者の常識を学べる点では、この2ヵ月の調査任務も悪くはないけどな。まあ俺が勝手に学ぶ形だけど)
領地調査官であった俺が主に知っているのは、あくまで人間の生息地だ。領民であろうと難民であろうと、とにかくそこには人間が支配する領域があった。
だがここは人外の支配領域であった。この地ではより原始的な弱肉強食が、全生物に適応されるルールとなっている。
もしも俺にもっと沢山の転生ptと質問回数があったのならば、ぜひ冒険に必要な能力も得ておきたかった。仮に冒険者ギルド員になっても、それはきっと役立つだろう。
そもそも学問を無駄にするか否かはその人の生き方次第であり、雑学の引き出しが広くて困ることなど無いのだ。
「おい、フランツ」
俺の溜息を切っ掛けに、隊長のブロイルが話しかけてきた。
彼は基本的に非協調的なだけで、何も言葉を発しないわけではない。
「何だ?」
俺は隊長に対する敬語など使わず、同じ30歳としての態度で聞き返した。
この隊で丁寧な言葉遣いを続けているのは最年少のコルケットだけで、残りは全員こんな口調だ。
力を示さなければ舐められるというおかしな雰囲気となっているが、この段階に至ってはもはやどうしようもない。
とにかく現状維持。そして次からは、もっと仕事を選ぶとしよう。
「お前は、転生者らしいな?」
「…………ああ」
俺が転生者だということは受付嬢だけではなくギルドにも伝えてある。そして隊長であるブロイルは、隊員の能力をギルドから聞いたか聞き出していたのだろう。
俺だって隊長になれば各隊員の能力は詳しく聞き出そうとするだろうが、こいつも中々抜け目のない男だ。
付け加えるなら転生者は冒険者免許証の登録番号でも知ることができる。
俺の登録番号は「RST-ESN-10300603-0007-D-T」で、これは「ラシュタル王国-エイスニル支部-1030年6月3日7番目申請受理-身分・正規国民-転生者」という意味となっている。
転生者は基本的に多芸で、冒険者免許証に資格表記できない『祝福』まで授かっている者が多く、冒険者免許証を見せるような場面では転生者を名乗れば若干有利な扱いを受ける。もちろん例外もあるが。
「お前の転生ptはいくつだった?」
「なぜそのようなことを聞く?」
俺はブロイルに疑わしげな目を向けた。
普通であれば「どんな能力を授かったんだ?」という風に即物的な事を訪ねる。俺も転生者だと自覚する前は「どんな能力がもらえるんだ」と思ったものだ。
転生者は「置き換えられた能力」と「転生pt」の二つで転生時の力が定まっているため、転生ptと現在の力はイコールではない。付け加えるなら転生の自覚後に新たな知識や技術を会得する事だって出来る。
そんな疑惑の表情を浮かべていると、ブロイルはあっさりと俺の疑問に答えた。
「俺も転生者だ」
「お前も転生者なのか」
まさかこんな身近に転生者が居るとは思わなかった。
天使との問答で教えられた転生候補者の数は、俺を含めれば51万6,277人。
しかも俺たちは世界を作っていた『作者』と、それに評価を与えていた『読者』と言う特異な存在で、前世の行為が認められて天界へ招かれ、神に力を持って転生をするか否かの選択肢を与えられたらしい。
この辺の知識は消えているので推察混じりだが、つまり俺たち作者と読者は世界を渡るに足る前提条件を踏まえた存在であり、一般人に問うよりも遙かに高い割合で転生したのではないだろうか。
だが仮に全体の4割弱にあたる20万人ほどが転生を選択したのだとしても、広い世界へ均等に散ってしまえば遭遇率は一気に下がる。
この大陸には沢山の国家があるし東には島大陸もあって、さらにその先の東の果てには俺たちの大陸に劣らないほど大きな別大陸まであるらしい。
20万人を大雑把に100国で割れば、1国につき転生者2,000人。
しかし割り振ったステータスに合致する身体が見つからなければ時間が掛かると言う事であるから、身体が見つかった者が現在5人中1人だと考えて1国につき転生者400人。
そして転生先が人間やそれに近しい妖精種や獣人だとは限らないので、半数は完全な人外と考えて1国辺りの転生者は200人。
今世の生活に満足して転生者である事を名乗り出ない者も半数居ると見積もれば、転生者を名乗る者は1国に100人。
「まさかパーティにまで転生者が居るとは思わなかった」
「転生者は力を持っている。冒険者になる人間は多いはずだ」
「いや、確かにそうだろうが」
もしも人口300万人の大国で民の1,000人に1人が冒険者であると仮定すると、国内には本業の冒険者が3,000人居る事になる。
その3,000人に転生者の半数にあたる50名が混ざっていると考えれば、60名中1名が転生者となる。
6人パーティが10個あればその中に転生者が1人いる計算になるので、10回パーティを組めばそのうち1回は転生者に遭遇するわけだ。
もちろんここまでの概算は、大半が全く根拠のない俺の想像である。世界が広すぎるので、誰にも統計なんて出来ない。
「まあ、理解できなくはない」
俺がパーティを組んだ中に転生者が居た事実は事実として受け止めなければならないだろう。
「それで、お前は何ptだった?」
「隊を組む冒険者として持っている技能や魔法はきちんと申告しているはずだが、それは重要な事なのか?」
「重要だろう。神にどれだけ力を与えられたかと言う事は、神にどれだけ認められたかに直結している」
「…………」
俺にはブロイルの話の意味が理解しかねた。
彼は自らが神に選ばれた民であるという選民意識でも持っているのだろうか。
確かに選ばれてはいるが、神に人間として転生させられた以上、俺たちはそれ以上の存在ではないだろうに。
「俺は2,500ptの作者だった」
「それは…………かなりのものだな」
つまりブロイルは、俺が不老以外に割り振った2,300ptよりも多い転生ptを自分の各ステータスに割り振れた訳だ。
ブロイルはその数値が俺よりも上だと感じ取って自尊心が満たされたらしく、それ以上の追求を止めて自らの話を続けた。
「ふん、この辺りは転生者でなければ通じまい。俺はそれをHP・腕力・体力・耐久に400pt振って全て30まで上げ、剣術4と体術3と馬術3と投擲2を1,700ptで覚え、祝福の疼痛軽減2を400ptで取った」
「確か冒険者免許では、剣術3のはずでは?」
「俺は出自が限定国民だった。剣術は4相当と言われているが、認定はされていない」
「そういう事は有り得るのか?」
確か天使は『知識・技能は、異世界で国家や種族ごとに一定の評価基準がある物よ』と言っていたはずだ。
ブロイルは『基準では剣術4相当の実力があると評価されているが、身分が低いので王国の資格は与えられていない』という状況らしい。
「転生者は神に認められた民だ。そして他の連中は総じて愚民だ」
「………………」
俺はようやくブロイルが周囲を見下す理由を理解できた。
どうやらブロイルは、剣術4相当の実力があると評価されているにも拘わらず限定国民という出自で資格を与えない人々が憎いらしい。
もしも彼に剣術4の資格が与えられていれば、剣術道場を開くだけでかなりの弟子が集まった事だろう。
だが剣術は武芸の代表格とも言える花形の技能であり、限定国民のような賤業の者をその頂点に据え置く事など許されない。これが明確な判定基準のある魔法や弓ならば試験さえ受ければ通っただろうが、剣の技量には試験官の主観や裁量が入る。
限定国民が名誉を欲するならばそれなりに名の知られた竜でも倒すか、不遜な態度を権力者に詫びて取り入るだけの立ち回りを見せるくらいはやらなければならない。
(…………はぁ)
俺はブロイルの苦労を慮って溜息を吐いた。
我が国の身分制度は社会システムを維持するために不可欠なものなので、そう易々と崩すわけにはいかない。
転生者であっても、身分は生まれで決められている。
転生者には魔物も居る事から、ブロイルのような「我々は高貴な民である」と言った選民思想は人々に否定される。よって彼の願いが叶う事は無い。
このような隊長では、隊員へ目配りして助けろとも言えない。
俺に突っかかってくるクルト・フォン・バールケは、その名前に『フォン』が付くとおり先祖が貴族で本人も下級貴族の称号を持っている。彼は余程の事が無い限り死ぬまで下級貴族の扱いだ。
17歳のコルケットは今度結婚するそうだが、限定国民であるブロイルは限定国民としか結婚出来ない。冒険者の間に稼いでおけば複数を妾にする事が出来るかも知れないが、正規国民との結婚は認められない。
(それはさぞや憎いだろうな)
俺は、副隊長であるクレランドの対応が正しいのだと理解した。
冒険者は互いに不干渉で、個々の事情に深入りしない。
もう聞いてしまったからには今更だったが。
ようするに、みんなハーレムとか逆ハーが良いのだ。
いや、違うだろうか。
俺はその様に無駄な思考を織り交ぜつつ、夜番の交代時間までブロイルが語る選民思想に生返事を返し続けた。