小説サイトの作者と読者が異世界転生
覚醒した際に見渡した周囲は、虚白とでも言うべき白一色の何も無い空間だった。
あまり目に優しくない空間だと思い、そういえば心理学では白色が緊張感をもたらすのだったと思い出す。
もっとも10年ほど前に大学で聞きかじった曖昧な記憶である。
その後に希望していた仕事に就き、今は概ね満足の人生を歩んでいるのだが……。
(…………ここはどこだ?)
自問に自答が続かない。
まず自分の姿を見て、身体と視力に異常が無いことを確認した。
次いで手を握って、神経に問題が無い事も確認する。
「……あー、あー」
発声や聴覚にも問題なし。
しかし本当に何も無い空間だ。
感覚が狂って、まともに立っていられない。
『…………覚醒したわね』
声を掛けられて振り向くと、そこには明らかにおかしな存在が佇んでいた。
おかしな存在……というのは実に曖昧な表現だが、第一印象としてはやはり「おかしな存在」だった。
何しろソレの背には純白の翼が生えており、髪は薄いブロンド、耳は物語に出てくるエルフのように長く、瞳は宝石のように澄んだ薄紫をしていた。
服装も繋ぎ目がどこにあるのか分からない群青色のロングドレスを基調として、幾重にも螺旋がかったフリルや装飾の斬新なデザインである。
アクセサリーは髪飾り、ブローチ、胸元の青白い花、右腕へ二重と左腕へ五重に捲かれた数珠のようにも見える宝石の腕輪などをいくつも身に付けている。
ハッキリ言って、この白くて何も無い空間に匹敵するくらいおかしな存在だろう。
違和感のいくつかに目を瞑って好意的な見方をすれば「十代後半くらいの天使らしき女性」のようにも見えるが、そもそも天使には男女の性別が無かったはずである。
但し、天使ガブリエルのみは例外で女性型らしい。
これには「聖母マリアに処女受胎を告知するから」や「ユダヤ教で主人の左に座するのが女性であるから」などの説があるらしいが、そちらについては本職の人に聞いて欲しい。
そんな他愛無い事を考えて、俺はようやく自分のペースを取り戻した。
『話を進めて良いかしら?』
暫く固まっていた俺に対し、再度彼女が声を掛けてきた。
「…………ああ、すまない」
俺は今の状況が不明瞭であるからこそ、相手を否定してはならないと思った。
いくら相手が女性らしき存在とは言え、羽が生えている時点で明らかにオカシイのだ。
この女がどれくらいの力を持っていて、どの程度で怒るのか皆目見当が付かない以上、なるべく交渉を継続して多くの判断材料を引き出さなければならないだろう。
『色々と考えすぎる人が多いみたいね』
「というと、俺の他にもいるのか?」
『ええ、貴方の他にも51万6,276人いるわ。一人一人を相手にしていると中々進まなくて』
「それは途方もない数だ」
夏と冬の年二回、同志達がお互いに聖書を持ち寄る祭典にも匹敵する人数だ。
そんな人数を一人一人相手にする事を考えると、確かに気が遠くなる。
『姉妹達で手分けをしているのだけれど、それでも沢山受け持たなくてはいけないの』
「それは申し訳ない」
『でも役目だから仕方が無いわ』
「そうか」
ここまでの話でもかなりの情報が得られたのだが、やはり注目すべきは『姉妹達』と言う単語だろう。
つまり彼女達は、明確な目的意識を持って集団行動している。
(交渉は無駄。と言う事だな)
相手が単独ならば、要求に何らかの対案を示す事で交渉の余地が生まれる。
だが集団では、人数が増える分だけ要求も大きくなるので交渉の余地が殆ど無い。
それにしても彼女達は、一体何の目的でこのような事をしているのか。
『それで、あなたたち「小説サイト」の作者と読者を異世界へ転生させる理由なのだけれど……』
彼女の唐突な話に、俺は相槌の言葉すら失った。
先ほど聞こえてきた小説サイトとは、もしかすると俺が登録している「作者が小説を書いて投稿し、読者がそれを自由に読む大人気サイト」の事であろうか。
確か登録者数は51万人くらいだ。
『最近だと「トラックに撥ねられて、神様がお詫びに異世界転生」が、良くあるでしょう』
「ああ……」
それは間違いなく、俺が知っているあの小説サイトである。
確か両手両足の指の数ではとても足りないくらい、神様が謝罪させられていたはずだ。
『それで「それほどまでに願うのならば、皆を異世界へ転生させよう」と主が仰せになられたのよ』
「…………そんな、アホな」
視界に映る世界だけでは無く、頭の中まで真っ白になった。
これは「皆の願いが神様に届いた」と言うべきなのだろうか。
それとも「悪くも無いのに神様に謝罪ばかりさせていた一部作者と、神への冤罪を当然の如く受け入れていた一部読者への天罰」なのだろうか。
「一応聞いて置くが、転生を拒否した場合はどうなるんだ?」
『ここで見聞きしたことを全て忘れて、元の場所で目が覚めるわよ。それと、もう二度と転生の打診をしないわ』
どうやら転生するか否かの選択肢はくれるらしい。
そしてその話を聞き、彼女達が個別説明をせざるを得ない理由も理解できた。
100人中99人が「異世界に転移したい」と言った場合、残り1人は自己の選択ではなく集団への追従を行うかも知れない。
あるいは誰かが「皆自分の家族が心配だろう」と言い出したら、転生したいと思っていても言い出し難くなる。
俺たちに選択させる事が役目である彼女たちは、他からの影響を排除するために非効率でも個別説明をせざるを得ないのだろう。
「仮に転生する場合、どのような形で転生するんだ?」
『そうね。まず転生者が元々持っていたステータスを、全て異世界のものに置き換えるわ』
「ふむ」
『それに加えて「作者は、投稿作品の評価ptと同じ分」だけ、「読者は、自分が付けた総評価ptと同じ分」だけ、転生ptが貰えるわ。あなたなら26,300ptね』
唖然とした俺を見た彼女は、説明を付け加えた。
『作者には、小説サイトに載せた「投稿作品」があるでしょう?』
「……ああ」
『沢山投稿している人も居るけれど、そのうち一番評価が高い作品と同じ分だけ「転生pt」が貰えるの。読者は、全ての作者に与えたのと同じpt分だけ「転生pt」が貰えるわ』
つまり読者様が200作品に10ptずつ入れれば、200作品×10pt=2,000pt。
150作品をお気に入り登録すれば、150作品×2pt=300pt。
両方同時に行えば、合計2,300ptを転生ptとして貰える訳か。
『そして自分のステータスにその転生ptを割り振ると、適合する身体に魂が送られて異世界転生するわ。適合する身体が見つからなければ、少し時間が掛かるかも。そして転生者だと自覚するのは、それぞれの年齢ね』
「なるほど」
善行を積み重ねられた心優しき読者様ほど大きなptが貰えて、異世界転生が有利になるという実に素晴らしい話のようだが……。
「…………誠に恐れ多き事ながら、その条件では読者様に厳しくはございませんか?」
『だって、読むより書く方が大変じゃ「わーわーわー!!」
なんて事を言うんだ、この悪魔は!
読者様には転生ptを十倍くらいサービスしやがれ。
作者と読者様はWin-Winの関係だ!
「ところで51万人の中には、1人で複数のIDを持っている不思議な人も居るって聞くぞ。そう言う場合はどうなるんだ?」
『IDと同じ数になるように魂を引き裂くわ』
世の中、悪い事は出来ないものである。
「分かった。話を続けてくれ」
『ええ。まずあなたのステータスを表示するわ』
・ステータス
【年齢】30
【HP】 9
【MP】10
【腕力】 8
【体力】 8
【耐久】 9
【知性】16
【知識】言語3、算術3、商学1、地学1、史学1、法学1、医学1
【技能】馬術1、泳法3
【属性】水3、光1、闇1
【魔法】水刃1、水壁3、水矢3、水弾3
【祝福】なし
【残りpt】26,300
【残り時間】18分43秒
【残り質問数】5回
最後に表示されていた項目を見た俺は愕然とした。
(どうして「残り時間」や「残り質問数」があるんだ?)
真っ先に思い付いたのは「彼女達も万能では無く、時の流れを止めたり巻き戻したりする事は出来ない」という可能性である。
51万人もの転生候補者に面談をしていたら、相当の時間が掛かるだろう。
だが一人一人の質問全てに付き合っていたら、最後の転生候補者に会う前にそいつが事故や病気で死んでしまうかも知れない。
(すると質問数の制限は、「一定の質問回数までで黙らせて、あとは強引に話を進める」ためか?)
これまでに俺が明確に質問し、回答を得られたのは5回。
「俺の他にもいるのか?」
「転生を拒否した場合はどうなる?」
「転生する場合、どのような形で転生する?」
「読者様に厳しくはございませんか?」
「一人で複数のIDを持っている人はどうなる?」
『51万6,276人』
『ここで見聞きしたことを全て忘れる。もう二度と転生の打診をしない』
『ステータスに転生ptを割り振ると、適合する身体に魂が送られて異世界転生する。適合する身体が見つからなければ時間が掛かり、転生を自覚するのはそれぞれの年齢』
『「検閲済み」』
『魂を引き裂く』
残り質問数が5回と言う事は、元々の質問数は10回だったのだろう。既に半分消費している。
そして残り時間だが、俺は10分くらい彼女と話していたと思うので、元々の時間は30分くらいあったのだろうか。
(……かなり無駄な事をした)
『話を続けるわね』
「ああ」
俺は時間を無駄にしないよう、短く相槌を打って話の続きを促した。
『年齢はそのままの意味よ。向こうでの成人は15歳で、結婚は日本と同じように未成年でも出来るわ』
「なるほど」
俺は今の言葉を心に深く刻み込んだ。
『HPや腕力などの数値は、人間の成人男性の平均が全て10。成人と同時に能力値は成長し切るから、向こうで上げるのは厳しいわよ』
人間の成人男性の平均値と言うことは、人間以外の種族も居るのだろうか。
いずれにしても身体能力が平均の8~9割しか無い俺は、結構なもやしっ子らしい。
『知識・技能は、異世界で国家や種族ごとに一定の評価基準がある物よ。これは日本での蓄積を異世界へ置き換えるわ。例えば、運転技術は馬術になるの。貴方達にとっては大きなアドバンテージね』
やはり異世界には、人間以外の種族も存在しているらしい。
知識・技能は、人間の国家やエルフ・ドワーフのような各種族にそれぞれ一定の理解や習得度合の基準があるという事なのだろう。
ところで俺のステータスには、知識「言語3、算術3、商学1、史学1、地学1、法学1、医学1」、技能「馬術1、泳法3」と表示されている。
確か小説サイトでは「1=段持ち、2=玄人、3=達人、4=名人、5=最高位」くらいだったと思うが、俺は自分が達人だなどとは全く思っていない。
すると「大きなアドバンテージ」とは、「日本での蓄積を異世界へ置き換える際には、転生者にとって有利な計算式」があると言う事だろうか。
(もしかすると言語3は、日本での経験年数÷10か?)
30歳の俺は、四捨五入で30年ほど日本語を使っている。運転免許は取得して10年強だし、他にも仕事で同じくらい拘わっている分野もある。
計算式が「経験年数÷10」であるのならば、俺が置き換わる数値の辻褄は全て合う。
だが知識が全て異世界に置き換わった場合、俺自身の自我や思考は一体どうなるのだろう。
もし俺が俺で無くなってしまうのなら、俺が異世界転生を選択する意味はない。
「質問する。俺が持っていた日本の知識を異世界に移すと、俺の自我や思考、記憶はどう変化する?」
『身体が転生年齢まで成長した時に、ここでの出来事を思い出して自我や思考が完全に一致するから保つわよ。但し、知識は異世界のものに変わっているから日本で覚えた理論や技術はもう思い出せないわ』
【残り質問数】5→4回
表示されている残り質問数が1つ減少したが、俺の疑問は解決した。
どうやら自我や思考は保てるらしい。
それと転生者の誰も日本の理論や技術を異世界へ持ち込めないと言うのなら、それはそれで良いのかも知れない。転生者多数で異世界を日本化されては、異世界に行く意味が薄れる人も居るだろう。
『属性は「火・水・風・地・雷・光・闇・無」の8種類で、数字の大きさは一度に使える属性ごとの魔力の大きさよ。その力を基に、様々な属性魔法を扱うの。転生者はあまり置き換えられる魔法を持っていないけれど、あなたはどうしてあるのかしら?』
俺には「水3、光1、闇1」の属性があるようだった。
そのうち水3は、俺が幼児から現在に至るまでずっと水泳を続けていると言う理由に寄るのでは無いかと思った。今でも健康のために週5~6回ジムに通っている。
光と闇も俺の仕事が関係しているのでは無いかと思ったが、そちらは数値が低いので他の可能性もある。
その一方で大地を歩いていたからと言って土属性が付くわけでも、電化製品を使っていたからと言って雷属性が付くわけでもないようだ。一般的な生活に比べて明らかに顕著な関わりを持っていなければ本人の属性とはならないのだろう。
ちなみに水の「魔法」をいくつか持っていた理由についてだが、泳げば波が発生するし、バタ足をすれば水飛沫が飛ぶ。
何の道具も使わずに自分の身体だけで長年生み出していたそれらが、異世界の魔法へと置き換わったのでは無いだろうか。
『祝福は主からの贈り物で、異世界で基準が無いものや、本来その種族が持っていないものよ。例えば異常耐性や、老化軽減など。本来その種族が持っていないものについては、異世界でそれぞれの転生年齢になった時に得られるわ』
「続けてくれ」
『ステータスの説明はこれで終わり。最後にptの振り方を説明するわ』
「ああ」
『年齢は1歳下げるごとに100pt必要で、最低年齢は15歳。能力値は1上げるごとに5pt。知識・技能・属性・魔法は1で100pt、2で200pt、3で400pt、4で700pt、5で1,200pt。途中まで身に付けていれば、その分だけ必要ptが下がるわ。祝福は、技能の2~20倍ptが必要よ。説明はこれでおしまい』
つまり1作品に10pt付けた読者さんは、体力などが平均値の20%分だけ上がる。
10作品で計100pt付けた優しい読者さんは、年齢が1歳若返ったり、あるいは資格試験や昇段試験に受かっちゃう。
20作品に計200pt付けた素敵な読者さんは、祝福の効果でお肌に潤いが出たり、病気になり難くなる。
それ以上のptを付けた慈悲深い読者様は、それらの恩恵を自由に組み合わせて得られる。
(神は、善行を積み重ねられた読者さんをきちんと見ておられた訳だ)
やはり善行は積んでおくものである。
読者様にはきちんと報いがあるようなので、あとで転生pt不足の人は、最寄りの場所でptを入れておくと良いかも知れない。どうせなら同時にお気に入り登録もしておくべきだろう。
なお剣道の経験が無い人がいきなり剣術スキル3を取得するなら400ptが必要だが、日本で10年続けていて元々剣術1を持っているような人は、400pt-100ptと言う風に必要ptが下がって300ptの消費で済むらしい。
『異世界転生する気があるのなら、ステータスに転生ptを割り振って頂戴。時間はあと7分22秒あるわよ』
さて、俺の質問数はあと4回ある。
だが「転生ptで取得可能なものを全て見せろ」と言っても、数分では到底読み込めないだろう。
小説サイトのベテラン作者や読者ならここで適切な質問をするのだろうが、俺は一体どうすべきか。
「質問。転生ptを転生後に持ち越した場合、どうやって使えば良い?」
『転生ptは、転生後に持ち越せないわよ。ここで使うしかないわ』
【残り質問数】4→3回
どうやら問題の先送りは出来ないようだ。
「質問。転生後に他者からステータスを奪って恒久的に自分のものにするには、どのようにptを割り振れば良い?」
『他者のptを奪って自分のものにする事が出来ないように、他者が割り振った力を奪って自分のものにする事は出来ないわ』
【残り質問数】3→2回
真面目に生きなさいと諭された。
「質問。先ほど説明していた祝福の『老化軽減』を5に上げるよりも長期間、己の意思と肉体を若いまま保つためには、どのようにptを割り振れば良い?」
『老化軽減5で不老になるから、あとは年齢を下げるためにptを割り振れば良いんじゃないかしら』
【残り質問数】2→1回
よし、不老の方法は分かった。
これが得られるのならば、このまま日本で暮らすよりも多くの事が出来るだろう。
俺は今の回答を以て、異世界転生を決断した。
「老化軽減5を取得する」
俺がそう宣言すると、ステータス表示が変化した。
【祝福】0→老化軽減5(24,000pt使用)
【残りpt】26,300-24,000=2,300
「ぎゃあああっ!?」
俺が最初に選んだ老化軽減5の祝福と引き換えに、技能の20倍もの転生ptが一気に吹き飛んだ。
確かに「祝福は、技能の2~20倍ptが必要よ」とは言っていたが、いきなりこんな大当たりを引くなんて思っていなかった。
残っているのは2,300ptで、これは200作品に10ptずつ与え、同時に150作品をお気に入り登録しておられる読者様と同じ転生ptである。
(…………くっ、やむを得ない)
背に腹は代えられない。
それに読者様と同じ条件なら全然悪くないと思った俺はすぐに気を取り直し、残る2,300ptの割り振り方を考えた。
(ステータスが低いと、戦えば簡単に死ぬだろうな。だが俺は英雄になりたいわけじゃ無い。冒険者ギルドの職員にでもなって、他の転生者の冒険談を聞くか?)
彼女の話によれば、小説サイトから沢山の作者と読者が異世界転生するらしい。
冒険者ギルドの職員になれば、様々な冒険譚を労せずに聞く事が出来る。
俺は物語を読むのも好きなのだ。
「質問。今の俺の状態から中堅以上の冒険者ギルドの職員になるには、どうptを割り振れば良い?」
『技能の鑑定と魔法の鑑定、それに魔法鑑定を使うための属性の無。知識は魔法、魔物、動物、植物、鉱物、毒物。今言った全てが2まであると良いわよ。あとは冒険者としての実務経験もいるかもしれないけれど』
【残り質問数】1→0回
かなり詳しい答えが返ってきて、俺はこの質問をして良かったと思った。
自分でどんなに考えても、この答えには絶対に辿り着けなかっただろう。何しろ鑑定だけで、技能と魔法の2種類もある。それに鑑定の魔法には無属性が必要だということも知らなかった。
「では今聞いた全てを2まで取得する。それとHP・腕力・体力・耐久を全て10に上げる。あとMPは……24に上げる」
【HP】 9→10( 5pt使用)
【MP】10→24(70pt使用)
【腕力】 8→10(10pt使用)
【体力】 8→10(10pt使用)
【耐久】 9→10( 5pt使用)
【知識】0→魔法2、魔物2、動物2、植物2、鉱物2、毒物2(1,200pt使用)
【技能】0→鑑定2(200pt使用)
【属性】0→無2(200pt使用)
【魔法】0→鑑定2(200pt使用)
【残りpt】2,300-1,900=400
転生ptと引き替えにステータスが次々と変化していった。
残りは400ptで、能力1なら4種類、能力2なら2種類、能力3なら1種類が取得できる。
(残りは何に振るべきだ?)
俺の質問回数は既に尽きている。
目下最大の問題は、中堅冒険者ギルド員になるには冒険者の実務経験が必要な点だ。
果たして水魔法とMPだけで足りるだろうかと考え、足りない気がした俺は追加で技能を得る事にした。
「弓術3を取得する」
【技能】0→弓術3(400pt使用)
【残りpt】400-400=0
当てずっぽうで「弓術」と言ってみたが、どうやら馬術のように弓術なるものも存在していたようで無事取得できた。
世界に誇る日本の安全基準を持つ俺としては、小動物くらいの大きさの魔物を遠くから安全に狙い撃ちたいところである。
『時間内に割り振れたようね』
彼女が言った通り全ての転生ptを振り終わった俺は、変更後のステータスに目を通した。
・ステータス
【年齢】30
【HP】10
【MP】24
【腕力】10
【体力】10
【耐久】10
【知性】16
【知識】言語3、算術3、商学1、地学1、史学1、法学1、医学1
魔法2、魔物2、動物2、植物2、鉱物2、毒物2
【技能】弓術3、馬術1、泳法3、鑑定2
【属性】水3、光1、闇1、無2
【魔法】水刃1、水壁3、水矢3、水弾3、鑑定2
【祝福】老化軽減5(不老)
【残りpt】0
【残り時間】0分18秒
【残り質問数】0回
「時間ギリギリだったな」
『そうね。だけど、後悔が無いみたいで良かったわ』
やはり天使なのだろうか。
最期に見た彼女は、温和な表情で微笑んでいた。
俺の名前はフランツ・アイレンベルク。
正式にはフランツィスクス・アイレンベルクと言うのだが、それではあまりにも長いのでフランツと名乗っている。両親共に平民なので、フランツで十分だろう。
一応祖父が交易都市エイスニルで中規模商会を営んでいる。親父はそこの跡取り息子で、俺はそんな親父の次男坊として生まれた。
俺の身体能力に特筆すべき点は無かったが、幸いにして魔法の才能を得られた。
5歳の時、俺に水属性とそれなりのMPがある事が判明した。
属性は遺伝と環境で得られ、MP量は成人まで大きくなっていくと言われている。
その人が持つ属性とMP量の調べ方は簡単だ。
1.魔石に魔力を込める。
2.魔石を割る。
3.魔石の中に出来た結晶の色・大きさ・数で、属性・強さ・MP量が判明。
以上である。
属性は8種類あり、赤色は火、水色は水、緑色は風、土色は地、黄色は雷、白色は光、黒色は闇、その他の色は無となる。
属性の強さは1~5で、結晶が大きいほど属性が強いと見なされる。
出来上がった結晶の大きさを足し算すると、その者のMP量が判明する。
俺が魔力を込めた魔石には、大きさ1と見なされる青色結晶が8個出来ていた。
つまり5歳の俺には水属性1とMP8がある事が判明した。
水資源が豊富な交易都市エイスニルの子供は、先祖由来の遺伝要因と、港町故の環境要因の両方で水属性が発現しやすい。
内心で期待していた親父は大いに喜び、属性向上と魔法習得のために俺を水泳教室と水魔法の私塾に通わせた。
MPについては5歳で8なので、成人する15歳頃にはMP24くらいになるだろう。こちらは自然に任せるより他に無いと言われている。
6歳になった俺は、初等校へ通うと同時に弓を習い始めた。
我が国の初等校入学率は男50%で女20%くらいだが、卒業率はその半数だ。
これは最低限の識字と算術を覚えると退学して、家業や家事を手伝う者が多いからだ。きちんと通えば地理、歴史、魔法、生物など様々な事も教えてくれる。
俺は3年ほど通えば家業の手伝いも始めるのだが、中規模商家の出自なので学校には最後まで通わせて貰える。
それと弓を始めた理由だが、水魔法だけではMPが尽きた時に戦えなくなるからだ。
魔物が徘徊する世界で商いをするなら何かしらの武芸は必要であったが、俺は魔法の事もあって前衛より後衛の方が向いていると思われた故に弓術となったのだ。
武芸を1種類に絞って長く続ければ、それなりの形にはなるだろう。
9歳からは、門番の小僧を兼ね始めた。
商家の出として母国語だけではなく商売に有利な中央語や東海語も学ばされてきたのだが、そこへ丁稚が加わった形だ。
一般人としては相当恵まれた環境であっただろう。
俺は馬の手綱だって引かせて貰えるし、飼葉を与える事も出来る。金銭のやり取りや商品流通の流れ、それに地理だって大まかに学び始めた。
それと4年間続けていた水魔法には成果があって、小さな水矢が飛ばせるようになった。
これは武芸で弓を習っていた事も影響していたのだろう。コツを掴んでからは順調に水壁、水弾、水刃を発動できるようになっていった。
12歳で最初の進路選択があり、俺は中等校へ進むことになった。
これは俺が次男坊で独立を求められていたからだ。余所への修行の話は断って、ひとまず進学を選んだ。
家業は手伝い続けており、資格では算術1・馬術1・鑑定1と3つの資格を得たのだが、兄がいるので後継ぎにはなれない。
俺はそのことについて深く考えず、常に無心であろうと思った。
無心、無心、無心…………そうあり続けた結果、なぜか俺に無1の属性が発現した。
中等校卒業者は男10%で女4%程度。
そんな中等校では算術2と商学、地学、史学、魔法、魔物、動物、植物、鉱物、毒物などを本格的に学び始めた。これらは試験に合格する事で認定1が貰える。独学でも試験は受けられるが、やはり中等教育を受けた者に比べると取得が難しい。
女は中等女学校という選択肢も有り、そちらは家事や裁縫なども教えてくれる。通っているのは下級貴族や良家の娘、それと初等校の教師を目指す平民などだ。
中等校の間に弓道協会から弓術1、そして水泳協会から泳法1の認定を受けた。
また水属性が2に上がった事から水の親和性が高まり、水壁・水矢・水弾の認定1を得る事も叶った。だが俺に近接魔法の才能は無いらしく、水刃の認定試験には落ちた。
15歳で成人となった俺は、両親に無理を言って王都の上等校へ進ませて貰った。
家業の手伝いはお役御免となったが、最後に鑑定2と魔法鑑定1を取った。
いつお声掛かりがあっても良いように中央・東海の言語と識字も憶えたのになぁ……無心、無心。いつの間にか無属性が2に上がっていた。
上等校では法学や医学の認定1、中等校で学んだ各種教育の認定2、算術3など様々な内容を幅広く学べる。なるべく沢山の資格を取ろうと思った。
それと学生の間が習い事と水魔法塾を続けさせて貰える最後のチャンスだと考え、各試験に挑戦して弓術2と泳法2、そして水壁・水矢・水弾の認定2と水刃の認定1を得た。
まだ独立には心許ないが、世間的には俺も立派な成人年齢である。
なお各地では『転生者』を名乗る者たちが様々な種族に現れて大騒ぎとなっている。
転生者達に対する我が国の方針は定まっていない。
なぜなら転生者を名乗った者達の多くは、「神童だ」「天才だ」と讃えられていた子供達だったからだ。その子供達に今まで粉を掛けてきた権力者たちは、当然関係性を維持しようと図る。
誰かが「捕らえろ」と言っても他から横槍が入る訳で、収拾が付く気配は無い。
18歳にしてようやく就職し、ラシュタル王国の領地調査官となった。
領地調査官とは、戦争・魔物被害・天災・伝染病などに対する備えや有事の際の対策を組織的に行い、場合によっては他国や人類以外との連携も果たす仕事である。
世間では転生者に起因する争いが激しくなっており、俺に求められている役割もまた大きかった。
なお水属性が3に上がったので、泳法や水魔法塾は自費でもう少し続ける事にした。仕事優先でスローペースだが、弓も続けようと思った。
北の都市ガランス近郊で動物にまで転生者が発見された話が流れ、物議を醸している。
なぜ動物の転生者が発覚したのかと言うと、人間の数十倍の腕力を持ち、他種族と言語を交わす知的さを兼ね備え、体術に優れ、長物を振り回し、強い闇属性まで持つ恐ろしいゴリラが発見されたからだ。そんなゴリラはこの世界に居ない。
転生ゴリラには、危険生物として多額の賞金が掛けられた。
23歳で故郷エイスニルへ配置換えとなり、趣味に時間を費やす余裕が生まれた。
およそ4年を掛けて弓術3と泳法3、魔法は水壁・水矢・水弾の認定3と魔法鑑定2を得る事が叶ったのだが、そこで才能の限界を感じた。
4を取れる奴なんて天才か、死ぬほど努力を重ねた一握りの者だけなのだ。
ああ、俺も何か一つだけでも4が取れればなぁ……。
余談だが、例の転生ゴリラが下位竜を倒したとの噂が流れてきて討伐依頼が取り消されていた。
どうやら危険生物から、触れてはいけない生物へと昇格したらしい。あちらは才能の塊である。
28歳、ひたすら仕事に打ち込んでいた。
この世界は、民が思っている以上に希望と絶望に満ちている。
一般人は耳にしない方が良い事もある。それを聞けばまず事実を疑い、次いで耳を塞ぐか、強いストレスを大きな怒りに変えて発散せざるを得なくなるだろう。
支配者がそれを民に聞かせないのも仕方が無いのかもしれない。だが、それでも人はより良い未来を求めて前に進もうとする。
そして俺は、ある時には目を瞑りながら手を差し出し、またある時には声を大にしながら組織的な支援を行った。
歩みを止めるわけにはいかない以上、上手く立ち回らなければならない。看過し得ない事態に遭遇した時、自分が看過しないで済むために!
…………厨二病の2倍という年齢に達していた俺に、光1と闇1の属性が同時発現した。
今更この歳で一体どうしろというのか。今から神殿に通って、回復1でも習い始めるか?
世界では相変わらず新たな転生者が生まれ続けている。
噂に寄れば、リグレイズ王国にあるリーザレム大山脈周辺で転生竜が突然暴れ出し、大量の難民が発生してルーバント王国にまで押し寄せた事から、両国所属の転生者による大規模な討伐隊が組織されたらしい。
リグレイズ王国と言えば北の都市ツワロク辺りまでの広い領土を治める大国であるが、対するは大空を自在に舞う転生竜である。
間違っても近寄らないようにしよう。
30歳。
不意に自分が転生者だと自覚し、その瞬間に不老という祝福を得た事も悟った。
かつての記憶は失っていたが、天界のような場所でのやり取りだけは鮮明に思い出せる。
「…………確かに『転生先は人間に限る』なんて、言ってなかったけどさぁ」
人外な能力値を割り振った作者たちは、本当に人外の存在へと転生したらしい。
そして善行を積み重ねておられた読者様たちこそが、異世界転生できちんと報われたようだ。
皆様、異世界転生の準備はもうお済みでしょうか?
なお転生ptは、この世界のどこかで貯められるそうです。
























