ごみ屋敷
先生に大打撃を与えた私だったが相応に私にも大打撃だったので、喧嘩両成敗だ。
今私はドシドシと普通ならありえない足音を立てながら、廊下を歩いている。三人は横に並べれる幅を私は一人で摂っているが、すれ違う同級生や先輩達が私を眼にした瞬間に顔をしかめて顔を背け、道を空けてくれたのでこの巨体でも進む事が出来た。……はい、嫌われ者です。自業自得とはいえ、結構辛い。今までは「下等生物どもが! 私を崇めてよけてくれるなんて……なんていい気分なのかしら!」などと常にDQNなことを考えていたので気にしなかったが(過去にさかのぼって自分に唐辛子inパイとかをぶつけて地面に埋めてしまいたい)、普通の感覚を手に入れた今の私にとってこれは辛い。視線が蔑みと嫌悪しかない。辛い。
「はあ、はあ……」
辛かったので早歩きで寮へと駆け込んだ。体力も筋力も無いので汗だくだ。しかし、身体的辛さよりも精神的辛さのほうが上だったので私は全く苦しくない。やっと寮へとついた。
アルメリア学園は実力制だ。
DクラスからSクラスまであり、成績によってクラス分けがされている。Sクラスは殆どが貴族や王族の血筋のもので占められている。一番下のDクラスは落ちこぼれというイメージと共に平民が多くいることが特徴だ。しかし、実力があれば平民であってもSクラスへと入れ、宮廷や研究所などへ就職できる。また、成績の良い者には奨学金制度がある。
それから、アルメリア学園は全寮制だ。部屋は基本二人以上。身分はない、と謳ってはいるがそれなりに貴族と平民は分けなければならないので、大体は貴族同士、平民同士の部屋割りとなっている。クラスごとに棟があり、クラスが上になるにつれて部屋も豪華に、一人部屋になるものも多くなってくる。Sクラスなど全員個室。寮の位置は成績の良い順に校舎から遠い。つまり、D棟が一番遠い。裏手は森だ。
(……なんてことを、私は知らなかったわけだ。基本の基本なんだからちゃんと覚えないとやっていけないと思うんだけれど……今までよく私は生活をしてこれたな)
全て学園のパンフレットのようなものに書いてあった。字は読める。それは私が尊敬しまくって憧れまくっているお姉様の教育の賜物で、こんなに馬鹿で屑で豚な私も本をそれなりに読んでいた。ただし、児童書だけだけれど。それでも、言動・行動などからその事実が受け入れがたい。思い出してみると、現代でいう国語はそれなりの成績をとっているのだが、それの方が信じられない。ちなみに、他の教科は二桁あるかないか。目も当てられない。パンフレットは途中、事務室のようなところで受け取った。
私の部屋は一階の一番奥だ。私の体が巨体過ぎて上に上がれなかったのが原因だ。クソが。二人部屋で、もう一人は……確か男爵家の娘だった気がする。
(気がする……そうなのよ。私、覚えてないのよ。どんだけ!?)
あまりにも他人に対して覚えが悪すぎる。同室なのに名前を覚えていない。クラスメイトなのに! しかも男爵家と伯爵家では当然身分差があるため、当然の如く、私は完全に彼女のことを見下し、蔑み、馬鹿にしていた。
(私が豚だろ! 私が蔑まれる対象だろ! 女なのかどうかも疑わしいくせに!)
私は本当にどうしようもない。というか、目の前の扉を開けることが恐ろしい。何が出てくる。私の私物とか全部汚物だな。ということは、汚物の固まりか。
ひとまず、同室の子に協力を頼めるのなら頼みたい。というか、仲良くなりたい。初めての友達くらい欲しい。学園生活をちゃんと満喫したい。一緒に学園の休みとかに食べに出かけてキャッキャウフフしたい。だが、自分と一緒にキャッキャウフフしている女の子を想像した時点でその考えはストップした。せざるをえなかった。
(……私と友達とかそれなんて拷問?)
どんな顔だったのかあまり覚えていないが、確かそれなりに整っていた気がする。というか、間違いなく自分より可愛い。そして今の自分を冷静に客観的に見て、性格を抜きにしたとしても、どう考えても一緒にいたいと思える人物ではない。だって、見ているだけで不快感を覚えるし、気持ち悪い。つか、風呂嫌いであんまり入ってないって私は本当に伯爵家の令嬢だったのか。私はお風呂なんか入らなくてもいい匂いがする天使なんだから!、ってなんだその考え。吐き気しか覚えない。気持ち悪い。埋まれ。
(結論。私と友達とか拷問で不快感しか与えないため、学園生活はぼっちで決定)
切ない。切な過ぎる。
なんだそれ。つらっ!
普通、前世を思い出したとか前世の性格がのっとったとか憑依したとかの場合、基本周りの人間は友達になって「うわ、実はあいついい奴だったんだ」的な空気が流れて恋なんかもしちゃってハッピーエンドなのに、私は……。
しかし、「うわ、実はあいついい奴だったんだ」というのは新しい学園生活だった場合だ。
現在、基本初等部からクラスメイトは殆ど変わらないアルメリア学園ではそれは無理だ。残念ながら初等部の頃からずっと通っているために、クラスメイトだけではなく先生方も私の性格を十二分に知りまくっている。中等部から新しく入る子も多いが、しかし、現在私は12歳。既に中等部1年半ばで、要するに、既に現在Dクラスのクラスメイト達は1年近くを通して私のことを知っているのでその展開はない。というか、ホブゴブリン遭遇事件の時に連れて行った中にはDクラスのメンバーもいたのだから、復縁フラグは絶対にたたないだろう。誰が命の危機を覚えさせた元凶を好きになるだろうか。絶対にありえない。
進級試験の際、成績に応じてクラス替えがあることにはあるが……正直、今から自分が頑張って成績が伸びるかどうか微妙だし、クラスが変わったとしても悪評が流れまくっている私の状況は変わらないに違いない。……私の学園生活オワタ。
(……なんて逃げている場合ではないわよ)
こんなことをつらつら考えているのは、目の前の扉を開けられないからだ。どんな視線を送られるのか、それを考えただけで胸が痛くなる。
「……仕方ないわよ。私が悪いんだもの」
もう全て、それで説明がつく。自業自得。覆水盆に返らず。この二つ、私の座右の銘にしようかな。
がちゃり、と扉を開けて中に入った。
―――誰もいなかった。
人の気配もしない。
少しだけほっとして、部屋へと足を踏みいれた。
「……もう、いや……」
小さな呟きが漏れる。肉にうずもれた眼から涙が一筋頬を伝った。涙腺が弱すぎるぞ、この身体。どうなってるの、これ。現実逃避に顔を背け、もう一度確かめる。
どう見ても部屋中に『汚物』が積み重なっていた。
洗われていない下着や洗濯物、何かの食べかす……全部自分のモノだ。
足の踏み場も無く、歩く事さえ困難。更に酷い臭いに鼻が曲がりそうだ。同室の子はどうなっているのだろうか、と嫌な予感をさせながら床からゆっくりと上へ視線を移し―――すぐに目を背けた。
「……ナルホド、オボエテナイワケダワ」
片言だが気にしない。覚えていない顔の同室の子の部屋は扉が開け放たれ、汚物が降り積もっている。同室の子が住めるような状態ではなかった。そして、同室の子がいるような雰囲気もなかった。つまり、彼女を恐らく私は締め出したのだ。覚えてないけど。どうでもよかったのだろう。
(どうでもよくないわよ! 馬鹿!)
自分がどこで寝ていたのかはわかっている。洗濯物が微妙に瞑れている場所だ。絶対に寝たくない。しかし、眠る場所はそこしかなかった。過去を遡ってみても、信じられない事に洗濯をこのクソ豚はしたことがない。もう自分が大嫌いだ。この世で一番嫌いなのは?
「私自身だわ!」
思いっきり叫んだ声は汚物たちへと吸い込まれた。
……そりゃあ、変な臭いがするわけだわ、このクソ豚ァ……!
しかし、仕方がない。
仕方がない。
もう夜で、バタバタしているわけにはいかない。
この体があまりにもクソ過ぎて、医務室から物凄く時間がかかってしまったのだ。
…………私は吐き気をもよおしながら汚物にまみれて寝るしかなかった。
ごみ屋敷だったのは主人公の部屋です。
……なんて可哀想。
伯爵家なら侍女とかメイドとかいるかって?
それはね、物語の展開事情によっていないんだよ!細かい事を気にしてたら将来、禿げるんだからね!
友達に彼氏が出来たって連絡が来ました。……寂しいです……(´;ω;`)ウッ…