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生まれ変わりました!

 ダイエットを決意したところで他に人がいないのかを私は確認し始めた。他のベットには誰かが寝ていた形跡があるので、近々誰か帰ってくるのだろうか。


「……あ」

「……」


 と思っていたら、ホブゴブリンのところへ連れて行ってしまったクラスメイトが入ってきた。ざっと見たところ怪我はなさそうだ。よ、よかった。いや、この世界には魔法がある。怪我も病気もパーッと治ってしまうのだ。大丈夫そうだと思っても、心の傷は残っているだろう。どうしよう、精神異常になってしまったりしたら。私はどうやっても責任をとれない。


「……怪我はあったのかしら」

「へ?」


 気まずげに視線を逸らし、沈黙していたが私が耐え切れなくなって聞く事にした。ひとまず、私の性格が大幅に変わってしまったのは仕方ない事として片付ける。前世の経験やら記憶が入ってくる事により、私の性格も随分と変わってしまった。平民は屑で下等な存在、などと思う自分は遥か彼方へ塵となって消え去り、伯爵家より農民生活のほうが安泰かも、と思う自分がコンニチハ状態の私にとって、今までの自分を突きつけられることほど辛いものはない。これはもう『黒歴史』と呼ばざるをえない。

 今までの私なら彼に怪我はあったのか、と気遣うはずもなければ、聞くこともない。平民は私に話しかけるな、が基本スタイルだったのだから。マジで滅びろ昔の自分。

 唖然とこちらを見てくる彼に次の言葉が繋げれなかった。しまった。よく考えなくても、彼にとったら天変地異だろう。今日一日でホブゴブリンに襲われ、私から心配される天変地異を味わったらそれこそ彼の精神を壊すかもしれない。……先生を探す事にしよう。


「……先生を知らないかしら。用があるのよ」

「――え、あ、もう少しで帰ってくると……思います」


 同級生に敬語を使われる辛さ。どう考えても倦厭されているのが丸分かりの表情、態度。

 ……生まれ変わった私な訳だけど、既に心が折れそう。


「おや、チュベローズさん。起きたんですね」

「あの」

「ああ、君はもう大丈夫ですからね。帰っていいですよ」

「そうですか!……それじゃあ……チェルベローズ様、お先に、失礼します」

「……ええ、さようなら」


(もう嫌ああああ!! そう言えば言った! 言ったわ! 「私のことはチュベロース様と呼びなさいよ!」って言ったわ! 撤回したい! 凄く撤回したい! しかも丁寧語オンパレード……! ちょっとぎこちなかったけどちゃんと敬語だった! 同級生なのに! クラスメイトなのに! 自分の『黒歴史』を突きつけられる現実! 非情! 非情すぎる! 私がやったことだけど眼を背けてしまいたい!!)


 ついでに「私を無視して先に帰るんじゃないわよ!」とか言った覚えがある。権力を思いっきり振りかざした。正直、精神年齢がどうなってんの状態になった私は今なら分かる。


(……私、寂しかっただけなのよ。本当に馬鹿すぎる。友達が欲しかっただけとか、子供か! いや子供だけど!)


 色々家庭環境もあって私は同年代の友達がいなかった。それにつけてのあの態度と勘違い振り。いくら心の広い平民さん達でも嫌いになる事、請け合いだ。それによって、当然の如く、倦厭・ぼっち。寂しさ倍増によっての言葉だったようだが、馬鹿すぎる。


「さて……チュベロースさん。身体の調子は大丈夫ですか?」

「……あの、カハール先生」


 アレク・カハール先生。

 アルメリア学園の医務室在住の先生だ。実力のある先生らしい。

 ……思い返しても殆どこの学園の事を知らないわね。今の私が知りたい情報の殆どが全く分からないって、どうやって生活していたんだよ、この馬鹿。


「何でしょう」

「私が連れて行ってしまった学生達は……どんな状態なのでしょうか。怪我や……その、誰か亡くなった、とか……」


 カハール先生の口がぽかん、と開いた。

 黒歴史を思い返すに当然の反応なのでスルーさせて頂く事にする。どう考えても私の責任だ。お金で人の命は買えないが、保障くらいはさせてもらわないとならない。どうしよう。子供なのに、考えたくないことだ。覆水盆に返らずとはこのことだ。自業自得の極み。


「……あの、カハール先生……?」

「え、あ、ああ……いや、その、ですね……。少し驚いただけです、ええ」


 私が他の生徒を心配するだけの頭があったことをですね、わかります。

 先生の気持ちにとてつもない同情のような共感を覚えながら、続きの言葉を待った。


「いや……心配することは、ありませんよ。幸いSクラスの生徒さん達が助けに来てくれていましたから。怪我といっても擦り傷程度で……いや、本当に、ホブゴブリンが出たのに君らのレベルでそれくらいなのは奇跡ですよ。無事で本当に……よかった」


 心からそう思っている様子のカハール先生に私は全くその通りだと思った。そして、そんな命の恩人に対して言った私の罵詈雑言を思い出して、自分の屑さ加減に今すぐベットに突っ伏して泣いてしまいたくなった。この馬鹿屑豚でさえ、ホブゴブリンは強いと知っているのだから、相当有名なはずだ。……はずだ。12歳で魔物・魔獣に関してのこの知識のなさは嘆くべきだと思う。明日から学校一の優等生になるために頑張る。運動だけではなく勉強も頑張る。この世界についても一から学び直しだ。


「先生、私はもう寮へ帰ってもいいのでしょうか」

「!? え、ええ……も、勿論。身体に異常などはありませんか? 君はホブゴブリンの投げた石を……軌道が反れたとはいえ、頭に、当たったんですよ?」


 もし元のままの性格だったら、守ってくださったあの先輩達を呼び出して感謝もせずに再び罵詈雑言をし、貴方達が私の代わりにホブゴブリンに殺されればよかったくらい叫びだしているはずだ。そして先生もそれをしっかり分かっている。

 先生……頭を打っておかしくなったって思ってるな。……間違ってはいないわね、うん。

 一生懸命記憶を遡ってみても、先生にさえ敬語を使ってこなかった私は現状が理解できすぎて泣きたい。カハール先生普段と様子が違う私を本気で心配されている。現在の私のほうが普通の態度なのに! 先生に恐れられる生徒になんてなりたくない。だから、


「はい……実は、とても頭の中がすっきりして心が晴れ晴れとし、生まれ変わった心地がしています」


 くらいは言っておこうと思う。先生、私生まれ変わりました。もうあんな事件は起こりません。叫びだしたり、癇癪を起こしたり、人を蔑んだりなんてしません。


「そ、そうですか? し、しかし、念のため、もう一度、検査をしたほうが……」

「いいえ、気分も悪くありません。治癒魔法をかけて下さったのでしょうか。頭にも身体にも怪我はありませんから寮へ戻りたいと思います。本当にご迷惑をおかけしました。もし責任をということでしたら私にあります」

「い、いや、それは、大丈夫ですよ……。君らへの注意を充分に出来なかった私達学校の責任ということになっています、から……」

「カハール先生、大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」

「ひっ!? え、ええ……悪夢を、みているような、良い夢をみているような、そんな複雑な気分が、しています、ええ……」


 私のせいですねわかります。ひって……ひっって……!


「……それは大変ですね。急いでお休みになられたほうがよいかと思いますよ」

「え、ええ……ええ」


 もう、ええ、しか話していないカハール先生は顔面蒼白で私を穴が空く様に見ている。先生、これは現実です。悪夢じゃありませんよハッハッハッ……はは。


 私は目の前が霞む想いをしながら、顔色が蒼白から土気色になりつつあるカハール先生を置いて医務室から外へと出た。




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