答えを聞いて!
サブタイトルがさっぱり思いつかない。
漸く、頭にその内容が吸収された時には、おばあさんは次の話題へ移行していた。
「固有魔法が使えるんだから、生活魔法が使えないってのも分かるっちゃ分かるがね。あたしの魔導具が無力化されるっていうのはどういう理屈だい? 一瞬だけ、魔力を魔導具の周りに感じたが……」
「え? え、待って、待ってちょうだい。どういうことなの? 私が、魔法? 魔法を使って、え?」
理解できない事を言われても理解できないのは当たり前だ。私は魔法を使えない。それは、魔力を感じる事がこれまで一度も出来なかったからでもあるし、魔力操作を出来なかったからでもある。だから、魔法を使えたことはない。それなのに魔法を使っていたと言われた。
……さっぱり分からない。
混乱したまま、おばあさんを見ると、何故かおばあさんも驚いてこちらを見ていた。
「ど、どう……」
「あんた。もしかして、あれは無意識かい……?」
「は、えっと……」
私の様子におばあさんは何かを感じ取ったらしく、天井を振り仰いだ。
「……あたしから言うと、それこそあり得ない話だね。あたしの魔導具をあそこまで完璧に無力化させておいて、あれが無意識とは」
誓って言うが、私はおばあさんの魔導具なんて知らないし、彼女の魔導具を無力化させた覚えも全くない。理解できない、という想いを汲み取ってくれたのか、おばあさんは嘆息してからこちらを探るような目つきで見てきた。
「魔法を使った覚えはないんだね?」
念を押すかのように聞いてくる。口を引き結んで、頷いた。
「当然よ! ま、魔法を使えたことが人生で一度もないの。魔力操作も出来ないし、魔力を感じる事も出来たためしがないわ。だから、生活魔法も使えないのよ。それから……私自身の属性もよく分かっていなくて」
「……そうかい。そりゃ、この国じゃ難儀しただろうねぇ。あんたはね、あたしの魔導具を故障させる事なく、あんたが必要分だけ、魔導具を作動不可にしたんだ。それも恐らくは……あんただけに作用するようにね」
「それってどういう……?」
「さあね。あたしが分かるのはこれだけさ。一度なら、偶々ってこともあるかもしれないがね。3度となると、そうは言えない。と言っても、さっき言った事もあたしの推測が殆どだ。実際には色々実験でもしてみないことには……」
話の流れから、私がその魔導具を無効化させたのは昨日と今日、それからおばあさんに言われた3度ということだと分かる。それにしても。
「じ、実験……?」
背筋に寒気が走る。人体実験、とかだったらどうしよう。固有魔法なんて特殊そうな名前、私が持っていたとし。よくある話で解剖なんてされてしまったら―――ちゃんと内臓は戻してもらえるのだろうか。というか、その場合私は生きているのかしら。
自分の想像に恐怖を覚えて、おばあさんから身を離す為に少し後ろに体重をかけ―――
「あっ! ちょいとっ!」
「―――……ひゃ、ああああ!?」
ぐらり、と浮遊感。内臓が空中に投げ出されるのを感じて、必死に何かに捕まろうと手を伸ばすも意味なく、後頭部から背中にかけて何かの衝撃を受け、うずくまる事になった。
「~~~~ッッ!! ――――っ!」
「大丈夫かい!?」
喋る事が出来ないくらいに痛い。徐々に薄れていく衝撃と共に、ずきずきとした痛みは増していく。
涙目のまま、落ちた椅子を見ると五体満足で床とこんにちはしている。
どうも、私の体重を支えきれずに椅子はひっくり返ったようだ。
「実験って言っても、あんたが嫌がるなら別にしやしないさ」
何を考えていたのか、おばあさんはしっかり分かっていたらしい。呆れたように、というか、呆れて溜息を吐かれた。くぅ、と唸ってから立ち上がる。腰やお尻も痛む。色々と恥ずかしい。
身体を打ち付けたことによって、少し冷静さを取り戻した。魔法を使えたんじゃないか、なんて言われて舞い上がってしまったようだ。だから、こんな間抜けなことになる。
人体実験なんて、凄い力を持っていないとやらないことだ。
私にそんな力はないのだから、実験といっても人体実験はあり得ないだろう。それに、人体実験は犯罪だ……と思うし。多分。
「魔法、使ってみたいのかい?」
「―――へ?」
自身の頭の悪さに突っ込んでいると、いつの間にかおばあさんが私を覗き込んでいた。瞳は暗赤色に見えるけれど、店内にいるから、実際の色はもっと明るいと思う。おばあさんの瞳に私が更に引き伸ばされて映っている。おばあさんは左眉だけをくいと器用に上げた。
「あたしが固有魔法を使っていたって言った時、少し嬉しそうだったからねぇ。そうじゃないのかと思ったんだがね……」
違うかい?と問われて、頷きかけた。寸前で思いとどまったのは、自分の能力を思い出したからだ。
魔法は使ってみたい。使いたくないなんて、言えない。使いなくなかったら、グレなかった。反抗期になんてならなかった。黒歴史で現在苦しむことも毎日思い出されている過去に反省と謝罪を心で繰り返すこともしなかっただろう。
小さな頃の私にとって、魔法は憧れ、羨望、夢だった。お話の中でも、魔術師が出るとわくわくしたし、家族の誰もがステキな魔法を使ってベッドから動けない私を楽しませてくれた。私もいつか、家族に見せて楽しませてあげたいなんて考えていた事もあった。
けれど。
「……いいの。魔法が出来ないのは知っているから。だからね、おばあさん。魔導具が使えなかったというのは唯の偶然よ。三度というけれど、それも偶然。だって、私は魔力を感じた事もないのよ。魔導具を無力化なんて出来るはずがないわ」
どんな魔導具だったのか知らないけれど、私は魔法を使えないのだ。そもそも、私に未知の力が!なんて展開は起ころうはずもない。にっこりと笑って言った。
……なんだか、長居をしてしまった気がする。日の光が店の奥まで届かないせいか、どれほどの時が経ったのか、分かりにくい。時計があればいいのに。大きな時計台は学園内に存在するものの、個人の時計は見たことがない。時間の概念があるのだから、地位の高い人は持っているかもしれない。
私は足に力を入れておばあさんに顔を向けた。これでお暇しますね、と私は告げて学園へ帰るはずだった。
「よし。なら、あたしが魔法が使えるようにしてやろうじゃないか」
―――そんな言葉をおばあさんが言わなければ。
「……え?」
「固有魔法じゃないんなら、生活魔法も使えるかもしれないよ。それならそれであたしの魔導具の欠点が分かるだろうから損はない!固有魔法なら、それはそれで調べといた方がいいからねぇ。自分の能力は知っておくべきだよ」
「あ、あの、あの」
話の方向が可笑しなところに転がり始めた。おばあさんの眼は、きらきらと輝いているようにみえる。心持ち、おばあさんの頬が赤くなっている、気がしないでもない。
「未知の魔法っていうのは、どうしてこうも心が踊るのかねぇ……! 魔法を使ったことがないあんたが、どうやってあたしの魔導具を無力化したのか、絶対に突き止めてやろうじゃないかっ!」
握り拳を作って言われた。おばあさんを突き動かしているのは、好奇心というものか。ちら、と私を見てきたおばあさんは酷く残念そうに溜息を漏らした。
「……まぁ、今日は帰りな。流石に今日の今日はねぇ。そうさねぇ、よし。明日の午前に来るんだよ。分かったね? 返事は?」
「え、あ、あの、でも」
「返事は、はい、しかないんだよ!」
「は、はいっ!」
「よし、それでいい。じゃあ、明日から頑張ろうじゃないか」
断ろう、断ろう、と口を開こうとするも、おばあさんの勢いに押されて返事をしてしまった。満足そうに頷くおばあさんに、はっきりと断れない己の情けなさを自覚してしまう。
そのまま、おばあさんは私を店の外へと押し出した。この世界のご老人は、元気が良すぎる。私の巨体をこうも簡単に動かせるなんて、どういう鍛え方をしているのだろう。
「いいかい? 明日だからね、明日。魔法くらい、簡単に使えるようになるさっ!」
「———……あっ!」
と言う間に、最後に念を押していったおばあさんは店の扉を閉めてしまった。からん、と鳴る鈴の音は私を拒んでいるように感じる。
呆然とする。
少しの後に、はっ!と気づき、断りをいれなければ、と思うものの既に完全にタイミングを逸してしまっていた。
「うー、あー、うー……」
暫く、店の前をうろうろしたのだけれど、もう一度店に入る勇気は生まれなかった。
結局すごすごと、私は大通りへと向かうことになった。
……明日行ったら、ちゃんと断らないと。魔法は使えないのだ、ともっとはっきり言わないと。
上を見上げて、拳を握った。
「わ、私、負けないわ……っ!」
おばあさんの勢いに、負けない。
———きっと、出来る……はずっ!
ローズは押しに弱い子です。
この話の彼女が椅子から転げ落ちるシーンは「馬鹿だなあ……(生温い眼)」と思いながら書きました。馬鹿な子ほどかわいい。つまり……




