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シノッチャの終わり

 一週間が経った今も、私はまだ修練場で、寝起きしていた。

 というのも、ナタリアさんから「まだ無理なのよー」と言われ、寮へと帰れなかったからだ。だが、他のDクラスの人達は帰れているような会話をしていたので、どうやら寮へ帰れていないのは私のみ。

 ここでも、ぼっちとは……ぼっち化現象恐るべし、である。


 だが、それを気にする余裕はないまま、私は春休みに入った。

 今までは、朝の体操や散歩の後は授業で一日が終わっていたけれど、これから二週間、半日くらいが暇となってしまった。

 科目勉強は図書館で借りた本を読み、出来るだけ暗記する勉強ほうほうを取り、修練ダイエットは朝のラジオ体操から登下校の歩きを続けている。無理は禁物だが、そろそろ筋トレやヨガなどもやっていこうと思っている。

 春休み全てをそれらに費やすのも悪くないのだけれど、その前に私は、早急に手に入れなければならないものがあった。


 ーーーーそう、教科書だ。


 せっかくの纏まった休みだ。今のうちに、教科書を手に入れておきたい。結局、あれだけ掃除して見つからないのだ。もう、仕方ない。

 買った後で、見つかることは失し物のあるある法則だけれど、二冊あったらそれはそれで使うつもりだ。

 だから、私は新しい教科書を手に入れることを決めた。


 ……のだけれど。


(私には手持ちのお金がない……!)


 無一文。

 財布の中には閑古鳥が鳴いている私の寂しすぎる懐事情は、覚悟を決めさせた。


 すなわち。


 ーーー街へ出る


 これである。

 正確には、ギルドへ行く、というのが正しい。


 教科書を手に入れなければならないが、そのためにはお金が絶対に必要だ。が、それを私は持っていないのだから、稼がなければならない。


 本でもきちんと調べたのだけれど、冒険者達や傭兵達が彼らの情報を交換する場所がギルドの始まりらしい。それが、それぞれの実力にあった仕事を紹介するような団体に変化した。

 そこから、様々な過程を得て、今はアルバイトを紹介してくれる仲介所のようなところとなっているようだ。

 つまり、仕事をしてお金をもらえる!

 本で見た限り、普通のファンタジー小説のギルドと変わりはなかった。詳しくは、ギルドの受け付けで話が聞けるという。


(で、でででも、すでに心が折れそう……!)


 若干涙目の私は、今、ギルドの入り口前だ。街を歩いている間、ずっと私には街の人達の視線が突き刺さっていた。


「ちょっと、何あの身体……!」

「恥ずかしくないのかしら? 私なら絶対外になんて出れないわー」

「オイ、あれ……学園の生徒、か?」

「まさか……テリセン家の……」

「あの噂のかっ!!」

「今度は何をやらかす気だ……?」

「ゴブリンに襲われて、大人しくなったと聞いたんだがな……」


 聞こえてます皆さん聞こえてますからあああああ!!


 いたたまれなさに、下を向いて歩く。ホブゴブリンに私の最低最悪の馬鹿さによって襲われた話は、街にもかなりの噂になっているようだ。

 胃が、しくしくしてきた……。


 そんな私に、数十分後、更に追い打ちをかける出来事が待っていようとは……未来が視える訳ではない私に分かるはずがなく。


「……え?」

「ですから、当ギルドではチュベローズ・テリセン様のギルドでの新規登録をお断りさせて頂きます」

「な、なんで!?」


 緊張でぐずぐずとギルドの入り口をうろうろしていた私は、数分どころか入るのに数十分も費やした。

 そして、何もしていないのに汗びっしょりで受付へ行きーーー新規登録を頼んだ後に「申し訳ありませんが、貴女様の新規登録は出来ません」と言われ、先ほどの科白に続いたのである。


 思わず叫んだ私は、敬語を使っていなかったと慌てた。けれど、受付嬢さんはそんなことには全く気にした様子はなく、表情を変えないまま続けた。


「はい。五年程前の冒険者達、またギルドへの誹謗中傷にくわえ、三年前の器物破損や職員に怪我をさせたことにより、貴女様には我がギルドからの対応を通告させて頂いております。そこには『これ以上、何かあればギルドへの立ち入りを禁止させて頂く』とも書かれていたはずです」

「そんなの……っ!」


 知らない、と言おうとして、ゴミ屋敷だった部屋を思い出す。あれの中にあったのなら、可能性はある。自分が、お姉様やお兄様以外の手紙を読み、大切に取っておいたとは思えなかった。


「まだ貴女様は、立ち入り禁止にはなっておりません。しかし、学園から、貴女が新規登録にいらした時には断るようにと伝えられています」

「が、学園、から?」

「『チュベローズ・テリセンは未だクエストを行うに足る人物ではないため、ギルド登録は許可しない』とのことです」

「……それは、この間のこと、から?」

「はい。ですから、当ギルドでの貴女様の新規登録はお断りさせて頂きます」

「そんなっ! そんなの、ないわ! ギルドは……!」


 誰にでも開かれているものなんじゃ、と続けようとした言葉は大きな手によって阻まれた。


「そこまでだ。これ以上、職員へ近づくのなら強制的に出て行ってもらう」


 背の高い男性だった。腰に剣を差している。勿論、飾りではないのだろう……その体つきは本物で、


「……あ……」


 射抜く眼は、私への嫌悪感をはっきりと浮かべていて、私は前世を思い出してから始めての、真っ向からの悪意に怯えた。無意識に、じり、と後ろへ下がる。

 下がってから、周りの空気に気づいた。ギルド内にいた冒険者達か、じっ、と私を見ている。その眼に宿るのは、好奇心や嘲笑、見下しの、色。


「———お引き取り下さい」


 受付嬢さんの科白は、私への最終通告に聞こえた。





 *・*・*・*・*・*



(……まさか、学園からギルド新規登録拒否令が出てるなんて……)


 いや、自分が行ったことを考えれば可笑しくない。

 生徒達を何人も死の危険に晒した訳だもの、うん。学園からしたら、危なすぎると判断してもおかしくなんてないわ、うん。

 それに、受付嬢さんの言っていた話……五年前の誹謗中傷とか器物破損とか……覚えてないけれど、なんとなく暴れた気がするのはする。ギルドでのあの空気も、私が何かやったのだ、と、そう考えれば、納得出来る。というより、納得するしかない。これもまた、私の自業自得だからだ。

 だからと言って、がっかりした気持ちは払拭出来るものではない。かなり、期待していたのだ。

 これから、どうやって教科書を買うお金を集めればいいのだろうか。これからも、お金はずっと必要なのに、どうすれば。


(視線が辛いからって、表通りから逃げてきたらよく分からない道になっちゃったし……)


 視線の痛さに耐えきれず、裏通りに逃げ込んで足を進めていたら、もう知らない道を歩いている。来た道を戻ればいいので、さほど心配はしていないけれど、一人でとぼとぼ歩けば自然に思考は後ろ向きになるもので。


(ギルドからも受け入れ拒否されたら、私を受け入れてくれる場所なんて何処にもないわ……ギルドってファンタジー小説では、犯罪者じゃない限りは受け入れてくれて、それから身分を保証してくれるところでもあるもの。それなのに私は受け入れ拒否……何処にも私の居場所なんて……)


 考えれば考えるほど、自分は必要なのかと思い始めた。学園にも家にも街にも受け入れてくれる場所がないなんて、本当にいらないんじゃないかしら。


「はあ……」


 ため息を吐いて顔を上げた私は、目の前の店に気づいた。


「『ソラリス魔道具店』……?」


 裏通りの中でも奥まっているここに店を構えているからだろうか、店の外見は酷く廃れている。少し外から見ただけでも埃が溜まっているのが見え、昼なのに店自体も暗い。赤煉瓦で造られたその店には蔦のようなものが絡まっており、陰気くさい雰囲気と共に、何か怪しい雰囲気を感じさせた。


(―――魔女の、家みたい……)


 眼を精一杯見開いて思ったのは、そんなことだった。

 西洋にある魔女の家。

 日本人に「魔女の家っていうと?」と聞けば出てくる家の中に、目の前の家そっくりのものが一つ以上はでるだろう。

 魔法がない地球からしたら魔法という不可視の物が扱えるこの世界は本当にファンタジーだ。

 だが、残念な事に、魔法はあるが魔女という概念は無い。前世を知った私でさえ、その部分は変わらない。

 なぜなら、魔力は全員にあるのだ。魔女も魔法使いもない。日常生活レベルならば勉強をしなくても誰にでも扱えるから、女性は全員が魔女である。だから、大きな鍋をかき回したり、かぎ鼻を持っていたり、トンガリ帽子とマントなんていう魔女のテンプレは一切ないし、魔女に対する浪漫などない。

 つまり、何を言いたいかというと。


(うわああああ……っ!)


 一人、感動をしていた。

 さっきまでの暗い気持ちが吹っ飛ぶくらいに、感動していた。


 ファンタジーな世界でファンタジーに会ったのだ。わくわくしないでどうする。ここで冷静に慣れる程、達観した人間じゃない。どう見ても怪しいだろ、とか、裏通りにあるんだから裏の世界のお店じゃない?とか、そんな突っ込みをする人物はいない。

 ここにいるのは、”魔女の家”というファンタジーチックな建物にまともな判断が出来なくなっている少女がいるだけだ。そう、つまりは私。


 ファンタジー小説の定番であるギルドは、とても楽しみにしていたからこそ、深く深く落ち込んだのだけれど。そのおかげで、素敵な魔女(ファンタジー系の)家を見つけたのだから、プラスマイナスゼロだ。


 心臓をドキドキさせつつ、私はその店へと足を進ませた。

気に入らず、書き直すこと数度。結局、ボツにして泣く泣く、新たに書き直しました。


前半「うわ、またローズを愛鞭いじめやがったよ……!」と思った方がいらっしゃるかは分かりませんが、そんなことはありません。

今回はいじめてないですよ!最終的に、喜んでるじゃないですか!


A.(ちゃんとした名前のみ!)

チュベローズ・テリセン

アレク・カハール先生

ナタリアさん


皆さん、『リア』を気になさっていたようですね。ごめんなさい、『リア』は渾名です。あと、プロローグ的扱いだったので意識になかったのが本音です……(←

あ、実名は『リリア』です。いつか出ます。


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