前世蘇り
起き上がろうとしたのに起き上がれず、頭痛にうめき声をあげた。一度、目が覚めた際に物凄い頭痛で意識を失ったのは覚えている。今はあの時ほどではない。しかし、身体を動かそうにも何だか重くて動かせなかった。
待って。
待って、落ち着いて。
私は一先ず息を吸い込んだ。先ほど、恐ろしい事が自分の身に起こった。普通の人間では理解できない、信じられないことだ。それというのも、私―――チュベローズ・テリセンは前世の記憶と言うものを思い出してしまったらしい。
意味が分からない。と自分で突っ込んでは見るが、何度思い返してみても私には前世の記憶があった。
日本という国で生まれ、生活していた人間一生分の記憶だ。
どうやら自分はいっぱしにきちんと大学に行き、結婚し、出産、孫も出来、幸せに死んでいったらしい。仕事は色々と手を出していて随分博識な様だ。この世界にはない概念が多くあるし、私だけでは絶対に考え付かないようなものが頭の中にあるのだから間違いなく、これは前世の記憶だ。この前世という概念も記憶の中から掘り起こしているもので、こちらの世界にはない。
ゆっくりと身体を起こした。
どうやら自分は医務室に運ばれたらしい。
そこでどうして医務室に運ばれたのか――考え出し、そこから芋づる式に自分が過去に行った数々の行為を思い出し、リアルにorzの形をとることになった。
(私、何をやっているの!? 命の恩人に向かって、何で助けなかったとか平民を先に助けるなんてとか……!!! 馬鹿の極み! 愚かの極み! 伯爵家としてやっちゃ駄目な行いベストワン! そもそも、あんなところにいたのでさえ、全部私のせいなのに!)
ホブゴブリンに襲われたのは、全て私が原因だった。馬鹿で愚かでクズの私は、自分はSクラスに勝る実力を持っていると多大なる勘違いをおこし、周りのクラスメイトを何人かと元もとの取り巻きたちを無理やり引き連れてDクラスは基本行ってはならないとへ言われていた〈アルメイト〉へ無断で入った。取り巻きたちはともかくとして、クラスメイト達は私の家の関係上、どうしても断る事が出来ず(というか、来なかったら家を取り潰すと私が脅した)、泣く泣くついていき、ホブゴブリンに襲われたのだ。
(……怪我した人とかいたら……どうしよう……!)
一瞬にしてもしかして死人も!?と思い、ガクガクブルブルとなる。
怖くなって、誰か先生がいるかもしれないと探す事にした。元々も前世も酷く活発なためか、立ち止まっているのは性にあわない。
「ひ……」
掛け布団から出た足に引きつった悲鳴をあげた。
見回して全身鑑を見つけて、必死にそこまで走る。数メートルもないのにそれだけでぜーぜーと息が上がっている。嫌な予感――というにもおこがましい気がするものに苛まれ、映った姿に鑑を素手で叩き割りたくなった。
制服だろうボタンがお腹の肉ではち切れている。下へ見下ろすと、胸よりもお腹のほうが出ていてつま先が見えない。足はさっきベッドから出る分に見たがどう贔屓目に見ても大根。二の腕にはたらーんと暖簾が出来ていて、首はない。肉にうずまっている。同じように眼も鼻も口も肉によって小さく……豚だ。豚にしか見えない。というか、これは女なのか? 髪の毛が長く伸びているところが女、か……?と辛うじて言える部分だろうか。
(成程これは……確かにあの美少女が『豚』と言う訳よ。間違いなく、私は『豚で腐った頭』だわ。むしろ、あれほど的確に罵れるなんて凄いとしかいいようがないくらいね)
変なところで感心してしまうが、心の中はズタボロだ。前世を思い出した身としては、これは超肥満だ。高血圧で脳内出血になって死んでしまう典型の体型だ。これが私だと認めたくないが、現実は非情である。今までの食生活を鑑みても、普通なら手に入らない甘味と肉しか食べていない。どうりで肌とか髪とかがべたべたすると思った。気持ち悪い。
―――ダイエットだ
私は決意した。
そもそもこの世界は死と隣り合わせで命が日本より軽い。
12歳のこの身でこれはまず間違いなく、すぐに死ぬ。
ひとまず、人並みにならなければならない。
チュベローズ・テリセン。12歳。
異世界?にてダイエットを決意した。