大掃除 五日目
サハブ(金曜日)
ギリギリ授業が始まる時間に間に合ったが、汗だくで、滴り落ちる汗が恥かしくて悲しくて一時間目は俯いて過ごした。初めは頑張って走っていたけれど、すぐにバテてしまって結局は殆ど歩いてしまった。そんな自分が情けない。
しかも、今日の授業は歴史関係。……全く分からなかった。算数や数学、理科系なら前世の記憶が生きてくるが、歴史や地理、神話などとなると前世の知識は全く役に立たない。当然だった。メモを取る事も出来なかったので、必死に聞き取ろうとしたが知らない単語ばかりで頭の中をすり抜けていった。……歴史も地理も、ちゃんと頑張って覚えよう。
今日は、一度も眠ることなく授業を受けることが出来て、ホッとした。体調は最悪だ。顔色悪い気がする。夕食は早歩きで食堂へ滑り込み(混雑する時間帯のはずなのに人がいなくなった)、野菜全般を摂り、少しは肉を摂り、出来るだけ噛んだ。
その際、私は悟りを開いた。無心の悟りだ。
全力で、現在の自分の行動へ意識を集中する。そうすると、野菜の味が殆ど無くて、むしゃむしゃ草を食べているヤギになったような気分だったけれど、必死に飲み込んだ。身体にはいいものだし、そうすれば、周りの景色は目に入らない。それから「うわ、相変わらずの食欲……」「見てるこっちが食欲失くす……」なんて声は耳に入らないし気にもしな、気にもしな……き、気にしないもん! そんなの、今朝のいいことと比べたら、気にするようなことじゃないもん!
……前が霞んだのは、野菜が喉に詰まったからです。
帰りに事務室に寄った。ごみ袋は必要なかったが、ナタリアさんに歴史の勉強が出来なかった事を伝えて、助言をしてもらいにきたのだ。私が勉強をしたい、と言った時の純粋な驚きしかない表情には悲しくなったけれど、そこに関してはもう諦念している。
「そうねぇ。図書館が一番と思うけど……」
「図書館……」
ナタリアさんの口から出た単語に、驚く。
なぜ忘れていたのだろうか。
学校といえば図書室。王道学園ファンタジーだろうが、邪道学園ファンタジーだろうが、どちらにせよ、街や学園内に図書館・図書室、またはそれと同等のものが存在していた。
そもそも、学園でこれだけ広いのだからそれを思いつかなかったのは完全に私の失態だった。さすが、何も分かっていない私。
「種類や質は王都図書館よりも上ですからねぇ」
「……」
そうなんだ……。
首都であるはずの王都よりも、本があるなんて、どういうことなのかしら。
アルメリア学園は思っていたよりも、ずっと凄いところなのかもしれない。
少し疑問に思っていたら、それを感じ取ったのか、ナタリアさんは言葉を続けてくれた。
「アルメリア学園は研究所としての役目も背負っていますから。そういう意味でも蔵書は多いですよ」
アルメリア学園。
何だか、他にも色々ありそうだ。
もっと活用していきたい。
それから、色々なことを嫌な顔一つせずに教えてくださるナタリアさんには凄く感謝している。だから、何かお礼もしたい。
そんなことを考えて、寮への帰り道を歩いた。
*・*・*・*
「―――そうして私は、汚物達と格闘するのである。まる」
あともう少しですべてのごみはゴミ袋へと収納される。私はキッと何の部屋か分からない場所を睨みつけ、掃除を開始した。何だかやけにこの場所は食べ物関係が多い。腐った野菜とか病原菌の塊じゃないか。うわ、ぶんぶん生ごみに飛ぶ虫達が沢山いる。この場所はトイレか何かだったのだろうか。トイレは共同のトイレがあったのだが。それなりに、広いからトイレだったらそれはそれで可笑しい。
ちなみに、トイレは水洗ではなく、異世界式で、浄化魔法によって全て綺麗にするものだった。浄化魔法の便利性に私は驚きを隠せない。
「……なんてこと……なの……」
そうして、ごみがなくなったその場所を見つめ、私は呆然と呟いた。
なんと、このよくわからなかったスペースは……
―――簡易台所だった
流し台とコンロらしきスペース、その下に引き出しや棚があった。中には鼠などの糞や虫の死骸以外には何も入ってなかったけれど。
……ということは、私の部屋のほうのスペースも台所?
(やっっったああああぁああっぁぁぁああ!! これでイケる! 正直、この世界の食事じゃ、私のダイエット生活は大丈夫かなーと不安に思ってたの! 私自身が作っていいなら、ボリュームがあってお腹にたまって低カロリーの食事が作れるわっ……一ヶ月に一回、おやつパラダイスの日を作りたい。それでそれで……!)
この時、私は絶対にどうにかこうにかお金を作り出す決意をした。下働きだろうが何だろうがやってやろう。そうして、初めてのお給料は調理器具を買う。真っ先に買う。……いや、教科書とノートが最終的にどうしても見つからなかったら、先にそれを買うけれど。
もう、食堂で食べたくない……。切実な願いだ。
台所だったことで、少しだけ気分が上を向いた。一緒に顔も上を向く。白ではなく、灰色っぽい天井が見えた。天井の隅にはステキなハンモックがかかっているのを見つけ、目線を直ぐに下へ下げた。
気を取り直して、私の部屋のほうへ行く。台所だと思えば、片付けも早くなるものだ。私はゴミ袋30袋に台所にあったすべてのごみを詰め込み、口を縛った。
残りのゴミ袋はまだまだ続く大掃除に向けて大活躍すると思う。
ひとまず、明日はゴミ袋を貰いに行かなくてすむ。それだけでも私は嬉しかった。
だが、何より叫んで主張したいのは。
(やっと、殆どのごみが片付いたっっ!!)
―――思わず、涙を流してしまった。
おめでとう! ローズ! 大掃除終了のゴールテープが見えてきた!
感想でキッチンのご指摘を受けたときは、物凄く焦りました(。・ω・`; )
どう返信するか、迷いましたー!(笑)




