金の糸
世界樹からひとっ飛びで神殿へ到着した私は、少し乱れてしまった髪を整えてから、改めて神殿を見る。
森の神殿は、人間達が造る様な装飾の凝ったものではなく、大岩をくり抜いて造られている。
内部はかなり広いけど、最奥に聖水の湧き出る円形の泉があるだけだ。
人間が入っても面白いものなんてないはず。
はずだけど。
「…神殿の奥にいるのかしら?」
空気が少し人間くさい。
一本道だから、進めば直に会えるかな。そう思って私は歩き始めた。念のため、気配と足音は消しておこう。
ついに神殿最奥の泉まで来てしまった。
物陰にこっそり隠れて様子を伺うと、金髪の人間がいた。どうやら一人だけのようだ。
人間は泉の方を向いているから後ろ姿しか見えないけれど、レモナ様の御加護が強いせいか、光輝くサラサラの金髪が神々しく目に映った。
男の割に髪の毛は少し長めで、後ろに縛って纏めているみたいだ。
「太陽みたいね…」
私達妖精は清らかで美しいものが大好きで、特に光り物に目がない。
もしここに私の友達を連れてきたら、薄暗い中で光る金の糸に、私を含め皆そろって見惚れるに違いないだろう。
そんなことを考えていると、人間がなにやらごそごそと動きはじめた。
急な不審な動きに私はハッと気を引きしめる。
「泉になにかしたらただじゃおかないんだから」
ずっと昔、世界樹が結界を張れるくらいに成長する前は妖精達が神殿を守っていたのだ。
人間が何をするのか、しっかりと見守らなければならない。
しかし現実は、私の予想を遥かに上回ることを引き起こしたようだ。
「………え?」
人間は首飾りと腕輪以外すべて脱ぎすて、素っ裸になった。
カア、と頬が熱くなる。
なんて破廉恥な!?
見知らぬ男の裸を見てしまうという衝撃に私は動揺し、口をパクパクさせることしかできない。
しかも事はそれだけでは終わらなかった。
裸になった人間は…なんと泉に入ったのだ。
なんで、どうしてという言葉が頭の中でぐるぐる回ってる。
お、恐れ多くも聖なる泉に……レモナ様の神殿で…どうして人間が……!
「…っこの、無礼者ぉ!!」
「!?」
私の渾身の叫びは神殿中に響きわたり…当然、人間にも届いた…。