カラケの森
世界樹から落ちてきた特大の何かが頭に直撃して、私は目を覚ました。
「ふわぁっ、えっ?なに?もう朝…?」
突然の出来事に驚いて、ただ周りをキョロキョロ見渡す。普段の私ならもっとちゃんと冷静に対処するけど、生憎そこまで朝に強いわけではないのだ。
そもそも起きてすぐ冷静な判断ができる妖精は少ないと思うの、私は!
…こほん。とにかく私は周囲の様子を伺った。だけど周りにはなにもない。
「あれ…?なんだったの、って、きゃあ!」
にゅるりにゅるりと、私のお腹から腕に巻きついている銀色の細長い物体、これは…!
「おはよ、アルフィナ」
「ハルテ!?もう、朝から驚かさないでよ…大体、世界樹から落ちるなんて、あなたそれでもレモナ様の使いなの?」
銀蛇は神の使いというのはこの世界では常識だ。レモナ様がこの世界を作った後、争いを始めた人間達に神の御意思を伝えるべく使わされたのが銀蛇なのだ。
「ごめんごめん。ぼんやり森の景色を見ていたんだ」
「もう、鈍臭い銀蛇ね…」
呆れつつも、自由気ままなハルテのことだし、大方なにか考え事でもしていたのだろうと納得する。
「よっと。んー、はぁ…」
眠気覚ましに大きな伸びをすると、完全に体も起きたのか、なにか変な感覚がすることに気づいた。森がざわついている。
なんだろう、今日は特別な日ではなかったはずだけど…。
「ハルテ、森がざわついてる」
「ああ、人間が森に入りこんでるんだ」
「…人間が?」
「まあ、白の国だしそこまで心配はしなくていいと思うけどね」
ハルテは世界樹をチラリと見て、付け加える。
「世界樹の結界もあるわけだし」
神聖なるカラケの森に入るにはレモナ様の御加護がなければいけない。
御加護のない者は、結界によっていつの間にか森の外に出されるのだ。
たとえ世界一の数を誇る人間といえども、この森にはおいそれとは近づけない。
それにしても、人間なんて珍しい。普段は見ることができないだけに、私の中の好奇心が疼きはじめた。
「ねぇ、どこに行けば見れるの?」
「場所?僕より君の方が力が強いだろ?」
暗に自分でできることは自分でやれと言ってるのか。
最もだけど、ケチな銀蛇ね。これくら教えてくれても罰は当たらないのに。
まあ、しょうがないから自力でなんとかしよう。
これでも私はレモナ様の血脈のおこぼれに預かった身。他の妖精達とは格が違うのだ。
目を閉じて、森全体に張り巡らされた結界から情報を追う。これはレモナ様の血を引く者にしかできない特別な術だ。ふふん。
森の入口付近、サロ湖、カロッチ沼……いない。道に迷ってるわけではないとすれば、後行きそうな場所は…神殿?
「…いた」
金髪と茶髪の男二人組。
どちらも人間ではありえないくらいのレモナ様の御加護をいただいているようだ。比較的御加護の多い妖精達以上とも言える。
楽しくなってきた。
「ハルテ、神殿に行ってくるわ!」
「神殿にいるのかい?ってちょっと…行っちゃった」
颯爽と空を飛んでいったアルフィナを見て、やれやれとハルテは呟いた。