第8話 しごと?仕事?労働?
「ああ、もう朝か。魔物討伐に行かなくちゃ・・・・」
?見覚えないの天井・・・・・・ああ、そうか。ここはザハロニアじゃなかった。
私はもう聖女じゃないんだ。
聖女じゃなくなった私はこれからどうやって生きればいいんだろう?
そもそも、今日をどう過ごせばいいのか分からない。
「取り敢えず、市井に行ってみようかな。そこで仕事も見つけないといけないし。よし、起きよう」
さて、困った。ここの服は一人では着れない。取り敢えず、一人で着れる聖女の服を着ておこう。
「お嬢様、もう起きていらしたんですね」
侍女の方か。何をしに来たのだろう?
「お嬢様は随分と朝が早いのですね」
「聖女の務めを全てこなすためにはこの時間から起床しなくてはいけませんので」
「そうなのですね。お嬢様は大変な毎日を送ってらしたのですね」
「・・・・・っ。そう、かもしれませんね」
きっと何気ない一言なのだろう。でも、誰もそんなことを言ってはくれなかった。
どんなに大変で、どんなにしんどくても労わってくれる人はいなかった。
疲れても休むことは許されず、少しでもそのようなそぶりを見せれば「無能な上に怠惰だ」と叱責された。
「・・・・・お嬢様、今日のご予定はありますか?」
「市井に行きたいのです。いつまでも王弟殿下のお世話になるわけにはいきませんから」
「・・・・・・・えっ、それは?」
何を驚いているの?
私はよそ者だし、王弟殿下のご厚意でここにいるけど、いつまでも甘えているわけには行かない。ここに居ても何の役にも立たないのだから。
「市井で仕事を探したいの」
「王弟殿下はご存じですか?」
「これから話す予定よ」
「そうですか」と安心しているけど、さすがに私だって恩人に黙って出て行くような礼儀知らずではないよ。
「王弟殿下が朝食を一緒に摂られたいそうです。問題がなければ準備に入らせていただきますが?」
「問題はないですけど、準備って?」
侍女はニンマリと笑って私の体を色々と弄り始めた。
聖衣を着ようと思ったけど、ドレスを着せられた。その際もドレスで問題ないのかとか、どのドレスにするのかと聞かれた。ここは、誰でも私の意見を求めるのね。
慣れていないから少し疲れるわ。でも、不快ではない。
意見を聞かれず、いつも何に対しても勝手に決められる。それはそれで楽なのかもしれないけど、呼吸がしづらかったのだということが、ここに来て初めて分かった。
「まさか、朝食をするだけなのにメイクして、髪型もセットされるとは思わなかった」
六歳で聖女になったからどれも初めてのことでちょっと驚いた。
†††
「・・・・・し、ごと?しごとってなんだ?」
王弟殿下は低血圧なのだろうか?
朝食に誘われていたから、ついでに市井で仕事を探す旨を伝えたのだけど全く伝わらない。
それどころか「しごとってなんだっけ?」と私の後ろに控えている侍女に聞く始末。
本当、大丈夫?
ちなみに、後ろに控えているのは朝の準備を手伝ってくれた侍女であり名前はアリアさん。
アリアさんは慣れているのか「しごととは労働のことです、王弟殿下」と簡潔に説明していた。
「・・・・・そうか。労働か」と呟いてからなぜか深いため息をついている。かなり困らせてる?どうして?役に立たない私をここに置き続ける方が困るでしょう。
「ティファーニアは仕事が好きなのか?」
「いいえ、そういうわけではありません」
「何かしたいことはないのか?」
「したいこと、ですか?考えたことありません」
すべきことばかりで、そんなことをする時間はない。あっても日常の業務で疲れすぎてそんな体力は残っていない。だから必然的に考えることをしなくなっていった。
「趣味はないのか?好きなこととか?」
「ございません」
「そうか。では、一緒に探してみないか?もちろん、無理にとは言わない」
「そういったものを作った方がいいのでしょうか?」
「良いかどうとか考えない。ただ、あった方が人生、楽しくなると思う。今までがそういったものを作る時間もなかったのだろう?せっかく時間ができたのだ、何か探してみるのも良いと思うぞ。見つからなければ、それはそれで良いじゃないか。ただ、探すという行為自体が楽しいかもしれないしな」
人生を楽しむか。そんなことを言われる日が来るとは思わなかった。私が聖女になったこともそうだけど、国外追放はじめ、他国の王弟殿下に世話にあっていることもそうだ。人生ってつくづく何が起こるか分からないな。
こうやって振り返ってみると、私って結構濃いい人生を送っている気がする。
「仕事探しは、ここに環境に慣れてからでも遅くはない」
「ですが、ご迷惑では」
「迷惑なら、そもそもお前を連れてきたりはしない。最初にいった通り、この国に聖女がいたことはない。お前の国のように結界で守られていたこともないので魔物に関しては聖女抜きで対処できる。だからお前を聖女として働かせるつもりはない」
それは昨日言われた。だから、さっさと出て行こうとしているのにどうしてダメなのだろう?
この邸に、この国に私は不要なのでしょう?
「あなたが仕事が好きで、仕事がしたいというのなら俺が紹介する。でも、そうじゃない、迷惑になるからとかなら、気にしなくていい。別に、この邸に住人が一人増えたところで俺の懐は痛まない。ああ、忘れてた。一応、医師の診察を予定している」
「どこも悪くありませんが?」
医者にかかったことなんてない。これでも健康優良児だ。
「念の為だ。あなたは今まで働きすぎている。この国の騎士以上の働きぶりだ。体に支障がないわけがないんだ。自覚がないだけでね。まぁ、問題がなければ良かったで済むだけだ。受けて損はないだろう」
それもそうだけど、そんな贅沢な診察を受けて良いのだろうか?
この国では当たり前のことなのか?
「殿下、恥ずかしながら私、お金を持っていないのですが」
「知っている。こちらで支払うので気にするな」
と、言われても気にしないなんて無理。
かかった分は計算して、いつか返せるようにしよう。




