第6話 代価なしの善意
「・・・・・ここに、私が?」
ヴァイオレット公爵がティグル殿と帰ったので私たちも解散となった。
そして私はなぜか王弟殿下の邸に連れて来られた。まぁ、泊まるところがないしお金もないから有難いけど。
・・・・そう、ないんだよね。お金。ずっとタダ働きだったから。
聖女の心得に我欲を持ってはならないとある。故に無報酬なのだ。
マジで、ふざけてる。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「バトラー、俺の客人だ。名前はティファーニア。丁重にもてなしてくれ」
「かしこまりました。お嬢様、お部屋にご案内させていただきます」
「また後でな、ティファーニア」
「あ、はい」
教会で用意されたのは物置小屋だった。男爵家ですら、これほど立派な部屋ではなかった。まぁ、いつ潰れてもおかしくはない貧乏貴族だったけど。
「お嬢様、この後は旦那様とお夕食になるのでその前にお着替えを」
すぐに侍女がやって来たが一つ問題がある。服がない。
今着ている聖衣と洗い替え用で同じ聖衣が二着あるだけ。
聖女は我欲を持ってはならないとは便利な心得だ。
「ありがとうございます。けれど、私はこの服しか持っていないのです。ですので、着替えは」
「問題ございません」
バトラーと後から入って来た侍女たちはとても初々しい恋人たちを見るように微笑ましい笑みを浮かべた。
そして案内されたドレスルームには何十着もの色とりどりのドレスが用意されたいた。
「・・・・・これは?」
「お嬢様のドレスにございます。旦那様から急便がありまして、至急ご用意するようにと。ただ、急でございましたので既製品しか用意できず申し訳ありません」
いや、気にするところはそこじゃないだろう。
「商人に声をかけていますのでご都合の良い日にドレスを仕立てましょう」
「さささっ、お嬢様」
「どれになさいます?殿下のお髪と同じ赤いドレスなどいかがです?」
「お嬢様はスタイルが良いので裾が広がるボールガウンよりもマーメイドやAラインがよろしいかと。いかがなさいますか?」
「いかがなさいます?」
いかが、と言われても。
目の前に広がるドレスの数が多すぎてどれを選べばいいか分からない。王弟殿下の意図も分からない。
冤罪とはいえ私の悪評が自国で広まっているだろう。それに、国外追放を受けた身だ。私にはもう利用価値はないのに。
「王弟殿下は、私がドレスを持っていないことに気づいていたのね」
それもそうか。いくらなんでも荷物が少なすぎる。
さて、どうすべきかな。
用意されたドレスを着ないのは礼儀に反している。でも、受け取れば何かの見返りがあるはず。
でも、いつまでも他国の聖衣を着るわけにはいかない。そもそももう聖女ではないのだから着るべきではないだろう。
「どうされましたか?」
「いいえ、何でもありません。多すぎて目移りしていましますね」
ここで、うだうだ考えても仕方がない。もう、なるようになるだ。どうせ、失うものなんてない。私はあの夜会で底辺まで落ちた。ならば、これ以上はないだろう。
落ちた場所から這い上がるか、底辺でのんびり過ごすか、どうすか後で決めよう。
†††
「ほぅ、よく似合ってるじゃねぇか」
「殿下、ドレスを用意していただきありがとうざいます」
王弟殿下に勧められるまま私は席についた。目の前に用意された食事はとても豪華なものばかり。
お肉なんて何年ぶりかしら。いつも冷めたスープや硬いパンばかりだったから。
「気にするな。俺が急かしたばかりに、碌に荷物を持ってこれなかっただろう」
聖女である前に男爵家の令嬢であるはずの私がどうしてカバン一つに収まる程度の荷物しか持っていないのかということには触れないのか。私の恥になるから。
彼はどうしてそこまで私に気遣うのだろう。もう、何の役にも立たないのに。
「あ、あの、私は何をしたらいいんでしょうか?」
ここまでしてくれるのだ。代価も覚悟しなくちゃ。
「したいことをすればいい」
「えっ」
したいことって、そんなことを言われたのは初めてだ。それに、何かさせるために私を連れて来たんじゃないの。
「ないのなら探せばいいし、無理に探す必要もない。ここでのんびり過ごせばいいんじゃないか」
「何かさせるために連れて来たのではないですか?」
「別に」
「でも、ドレスや食事、それに泊まる場所まで手配していただいてるのに」
「・・・・・・暫く休んだらどうだ?かなり無理をして働いてたんだろ。ああ、それと聖女の力?神聖力?とかいうのは使うなよ。悪いが、それだけは禁止させてもらう」
「えっ、でも、私にはそれしかありません」
「・・・・・」
子供の頃から聖女として修行、活動をしてきたから社交界デビューをしてないし、経験もない。だから貴族令嬢としての役割は担えない。
魔物討伐をするにしたって神聖力が使えなければできない。本当にこの人は何のために私を連れて来たんだろう。
「もう休め」
「お嬢様、行きましょうか」
「あ、はい。殿下、それでは失礼します」
「ああ。おやすみ」
「・・・・おやすみ」




