表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/19

第4話 自国の王子に捨てられたら、他国の王弟に拾われました。

何も変わらない。


少ない神聖力を掻き集めて、自分が死んだ時のために神聖石に力を込めていく。

歴代の聖女たちはどんな気持ちでこの作業をしていたのだろうか。


「・・・・自分が死ぬ準備か」


歴代の聖女で天寿を全うしたものはいない。

たった一人で魔物と対峙して死ぬ。それが聖女に定められた運命。

それに人が持ちえない神聖力の影響なのか、魔物討伐で生き残り続けても三十代半ばでみんな衰弱死している。

私も、そうなるだろう。だからって、どうすることもできない。

きっと逃亡しても国が総出で捜索を開始するだろう。もし、捕まればどうなるか分からない。


なんて、全部言い訳。ただ、勇気がないだけ。

六歳から聖女として生きてきた。それ以外の生き方も、この国以外も知らない。世間の常識も知らない。

金銭の価値観も知らない私が一人で生きていくことはできない。それも、国から隠れながらなんて。


だから今日も、いつものように一人で魔物討伐を行い、結界を張り直した。

でも、いつもと違うことが一つだけある。


「・・・・疲れた」


このままベッドの上にダイブしてしまいたい。でも、それはできない。

あのバカ王子は私の苦労も知らずに夜会に出席しろと言ってきた。

まぁ、この国に無能聖女の苦労を本当の意味で理解してくれる人なんていないけど。


「夜会に出ろと言うのならドレスぐらい贈るのが婚約者の礼儀ってもんでしょうが」


なんて、ぼやいても仕方がないので私は仕方なく聖女の聖衣で夜会に出席することにした。

そう、男爵令嬢である私の婚約者はウィーラント・ザハロニア王太子殿下なのだ。

本来ならあり得ないことだけど、この国独自のルールがある。

それは、聖女は必ず王族の誰かと婚約しなければならないというものだ。


「まぁ、見て。無能聖女よ」

「よしなさいよ。無能でもご立派な聖女様なんだから。クスッ」

「いいわよね。無能でも聖女って言うだけで殿下と婚約できて」

「本当、羨ましいわ」


夜会会場に行くとこちらを見て、聞かせるように囁かれる言葉にうんざりする。

だったら、変わってあげるのに。


聖女になりたいと言った覚えも、王太子殿下の婚約者になりたいと言った覚えもない。どこにも私の意思など存在しないのに、全て私が悪いように言われる。


「殿下が可哀想ですわ。いくら規則とはいえこのような無能を妃に迎えないといけないんなんて」

「本当に。あのような無能を王妃にしてしまえば国の恥になりますのに」


その無能が張った結界に守られているあんたらは何様なんだよ。

それって、無能な私よりも無能なんじゃないの。

って、言えたらいいのに。

そんなこと言ったら袋叩きに合うだろうな。味方なんて一人もいない敵地では大人しくしている方が利口なのだろう。


だから文句は言わない。

疲れているのに夜会に出席しろと命じたくせにドレスを贈らないどころかエスコートもしてくれない婚約者に。


どんなに理不尽な目にあおうと、どんなに理不尽な罵倒を浴びようとも私は文句を言ってはいけない。

なぜなら、私は人ではないから。聖女は人ではない。ただの道具だ。

道具は人間(使用者)に文句を言ってはならない。


「ティファーニア・エルドレット、あなたとの婚約を破棄します」


たとえ、公衆の面前で侮辱に等しい行為をされたとしても。


「あなたは妹のプリムローズが家で蔑ろにされていることを知りながら放置した。それは聖女にあるまじき行いです」


いきなり私に婚約破棄を告げた男が腰に抱いているのは癖のある桜色の髪に紺色の目をした可愛らしい少女だった。彼女はウィーラントの腕の中で急な展開に戸惑っているように見える。


プリムローズ、久しぶりに見たわね。

記憶にある彼女はまだ幼い子供の姿だから、知らない間にあんなに大きくなってちょっとびっくりした。

で、なんだって?彼女が家族の中で虐げられてた?

へぇ、あのバカ親は唯一残った後継者を蔑ろにしてたんだ。知らなかった。

何せ、金で教会に売られてから帰る家なんてなかったから。


「よって、あなたに聖女の資格なしとみなし、その称号を剥奪します」


ああ、そういうことか。


「で、殿下、それでは誰が聖女の役目を果たすのですが?」

「そ、そうですよ。こんな無能でも聖女。役目を果たしてもらわなければ、この国は魔物に」


「はっ。笑わせる」


もう、どうでもいい。どんなに頑張っても所詮は道具

結局、最後はゴミ箱に入れられるんだ。なら、もういい。我慢は止める。


「”無能、無能”と先ほどから言っておきながら、その無能がなければ自国も守れないの?」

「なんだとっ!」

「無能の分際で生意気な」

「そもそも、お前のような者が聖女などと」


誰もが私を罵り始める。ちょっと図星を突かれたからってここまで怒ることないのに。きっと彼らは私と違って悪意を向けられることに耐性がないのだろう。羨ましいことだ。


私なんて聖女になってから悪意を向けられてばかりなのに。それでも命をかけてこんな奴らを守らないといけないなんて。

聖女なんてなるもんじゃない。


「ティファーニア、あなたは本当に傲慢ですね」


どっちが。


罵声を浴びていた貴族は目上の者の言葉を遮ってはならないと教えられる。先ほどまで罵声を浴びていた連中はウィーラントが口を開いたことで息を合わせるように自身の口を閉じた。


「皆の不安はよく分かります。しかし、問題はありません。彼女の妹であるプリムローズが聖女として覚醒しました」と続けてウィーラントは私を睨みつけた。


「しかも保有している神聖力は歴代最高。数日後には教皇からは大聖女の称号を与えられることが決まりました」

「おおっ!」

「なんと素晴らしい」


先ほどとは違う意味で騒がしくなった会場をウィーラントは再び静かにさせて言葉を続けた。


「よってティファーニアとの婚約を破棄し、プリムローズと婚約をすることをここに宣言します。そして、大聖女であるプロムローズを虐げ、聖女とであることに胡座をかいて、傲慢な態度を取り続けたティファーニア、あなたを罰として国外追放とします」


これがこの国の現状、聖女の扱い方だ。

役に立たない道具はゴミ箱へ。何もおかしなことではない。いつだって人はそうやって生きてきた。


「せめてもの慈悲です、ティファーニア。一言くらいは許してあげます。最後に言い残すことはありますか?」


きっと彼はプリムローズへの謝罪を期待しているのだろう。やってもない罪を認めて謝罪しろと?

何が慈悲だ。彼はきっと、苦難に耐え続けていた可哀想な女の子を救うヒーロー像に酔っている。


いいな。ヒロインにはいつだって救ってくれる王子様が存在する。

脇役にも悪役にも存在しない。ヒロインにだけ存在する。


謝罪?冗談じゃない。

要らなくなったから捨てる奴らになんで謝らないといけないの?

私は何も悪くない。聖女としての役目を果たしていただけ。


「では一言」

「ほぅ、さすがのあなたも謝る気になりましたか。だからと言って国外追放の処分を取り消すことはありませんが」

「地獄に堕ちろ、クソ野郎」

「・・・・・・・・・・は?今、なんと?」

「地獄に堕ちろ、クソ野郎と言いました」

「なっ」


「ブハッ」


ウィーラントが怒りでわなわな震え、周囲の貴族が唖然としている中遠慮も恐れもなく大きな声で笑っている男がいた。

赤い髪に金の目をしたこの男は社交界で話題に上がっていたアストラ国王弟のエインリッヒ殿下だ。確か、外交でこの国に来ていた。


「あんた、最高だ」

そう言ってエインリッヒ王弟殿下は目に涙を溜めて笑う。


「エインリッヒ殿下」とウィーラントが怒りを滲ませた声で呼びかけても彼は意にも介さなかった。


「ウィーラント殿、彼女はいらないのだろう?ならば、このエインリッヒが貰い受ける」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ