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第2話 分かり合えない存在

『           』


何かを叫んでいる。でも、何を叫んでいるのか分からない。

黒い髪と目、黄色の肌という神秘的な女性

きっと女神様なのだろう。

でも、彼女の目は絶望と怒りと悲しみに満ちていた。


†††


いつの間に寝ていたようだ。


聖女になってから時折見る夢。神聖力を使う時も見ることがある。彼女が誰なのか分からない。


「聖女様、お降りください」

「はい」


騎士道精神の賜物か、嘲笑対象でも一応令嬢扱いはしてくてるので怪我をした体でも問題なく馬車から降りることができた。


「お急ぎください。王太子殿下がお待ちです」

「はい」


迎えに出てくれたシスターに先導されて今回のお茶会の場となった中庭に向かった。

そこにはかなり苛立った婚約者殿が私を睨みつけていた。

予定時間を一時間オーバーしているので、明らかに私が悪い。


「殿下、遅くなり申し訳ありません」


聖衣の裾を摘み、頭を下げたが声がかからない。声がかからなければ、頭を上げることができない。ずっと、この体勢のままだろうか?


「あなたは予定通りに来たことがありませんね」

「申し訳ありません。魔物討伐に手間取りまして」

「騎士もいて、何を手間取ることがあるのです?」


騎士は魔物討伐に参加しない。それは以前、伝えたけど殿下は信じてくれなかった。それどころか、私のことを嘘呼ばわりした。

もしかして、歴代の聖女様の時は騎士も魔物討伐をしていたのだろうか?

いや、でも歴代聖女様が残した手記には一人で討伐をしていたと書かれていた。


教会も魔物討伐は聖女の役目だと言っていた。


聖女様が誕生してからこの国は一度も魔物の脅威に晒されたことがない。

つまり、聖女以外で魔物がどれほど恐ろしいのか知らないのだ。

平和を当然だと享受できることがどれだけ幸せなことなのか分からないのだろうな。


「教会の連中も言っていましたよ。病や怪我で苦しんでいる者を神聖力で癒すのも聖女の仕事なのに、あなたはサボってばかりだと」

「サボってなどおりません、私は」

「保有している神聖力が少ないのは知っています。それ故に救える人数に限りがあることも。だがっ!で、あるならば、それ以外で人を救うために何かすべきだろう」


魔物を討伐し、結界を張り、治癒術で人を癒し、それでも足りないとこの人は、この国の人たちは言うのか。


「あなたは、私とのお茶会の時、いつもそのように眉間に皺を寄せていますね」


いつも魔物討伐の後ですからね。

魔物討伐も結界の張り替えも日常の業務だ。そこに殿下とのお茶会を加えているから怪我の治療をする暇がない。今だってすごく痛い。それでも止血をして、応急処置をしているだけだ。これで機嫌よく笑えとはいくらなんでも酷すぎる。


「それに毎回、遅刻をしています。この婚約に不満があるのはあなただけではない」


つまり殿下も不満満載ということですか。


「聖女としての役目も碌に果たさないあなたをいつか、神も見放されることでしょう」


は?この人、何を言っているの?役目を果たしていない?誰が?私が?

何を聞いて、何を見て、そんな判断をしたの?

この人のこういう所が大嫌い。何も見ようとも、何も聞こうともせずに自分の正しさを信じて振り翳す所が。


「ならば、この国も見放されることになりますね」

「なんだと?」

「何を怒っていらっしゃるのですか?私は本当のことしか言っていませんよ。この国は聖女の張る結界に守られています。聖女なしで、どうやって国を守るのですか?」

「大言壮語を吐かないでいただきたい。まるであなたが、あなただけが国防の要だとでも言いたいのですか?」

「こと、魔物に関してのみで言うならそうでしょう」

「はっ、傲慢ですね」


傲慢?どっちが?

守られること享受し、安全な場所から命を捧げろと命じる。

結果、天寿を全うできずに死んでいった聖女は一体何人いるだろう?


彼らは言う。

国を守って死ぬことは名誉なことだと。聖女として崇高なことを成したのだと。


最も安全な場所から死を美化し、推奨する彼らこそ、この国こそ傲慢ではないか。


こんな男と一生を共にしなければならないの?


「見解の相違ですね。どうやら現状の把握や見方が私たちは違うようです。そして、それが一致することはないでしょう」

「私に歩み寄るつもりはないと?」


もう、笑いも出ないわね。


「たまには、ご自分から歩み寄ってみてはいかがですか?そうすれば、今まで見えていなかったものが見えるかもしれませんよ」


これ以上は限界だ。

かなりの怪我をしているし、応急処置のみ。言ったところで信じないし、お茶会をサボる口実だと言われるから黙っていた。

だからって負った怪我がなかったことになるわけではない。痛いものは痛いのだ。


「それでは失礼します」

「おいっ!まだ始まったばかりだろ」


いや、始まってすらいないだろ。

私も殿下も、一度も席についていない。そのため、テーブルの上にはお茶も菓子も置かれていなかった。これを見て、お茶会が始まっているとよく言える。


「申し訳ありません、気分が優れないので」


後ろで殿下が何か叫んでいるけど私の耳にはもう何も入って来なかった。

だって、本当に限界だったから。

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