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第16話 瑞希の目的

綾瀬瑞希、それが私の肉体に宿ったもう一つの魂の名前。

プリムローズの体を乗っ取った瑞希は私の中に入っている自分の魂を吸収しにここまで来た。

その時、彼女の記憶が見えたのだ。もちろん、これまで彼女の魂と融合され、魔物と戦わされて非業の死を遂げた聖女たちの記憶も。


瑞希はずっと見てきたのだ。彼女たちの中から。死ぬこともできずに。

そして、憎しみを募らせてきた。


「まだ、魔法が存在した時代では時折行われていたそうなんです」

「異世界から人を召喚するなんて。異世界という存在があることがそもそも信じられないが、無理やり異なる世界に連れて来るなんて非人道的すぎるだろ」


私も王弟殿下の意見に賛成だ。実際、瑞希の絶望や苦しみは相当なものだった。

吸収される時に彼女の魂に触れた際、擬似体験をしたから分かる。気をしっかりと持たなければ危うく彼女の持つ闇に飲み込まれるところだった。


「しかも、魂を肉体から無理やり引き剥がして、水晶に閉じ込めるなんて」

「聖女選定式は彼女の魂と相性の良い肉体を探すためのものだったんです。けれど、どんなに相性が良くても他人の体です。それに、肉体に魂が二つ入っていることになるので、拒絶反応が起こるんです。聖女が短命なのはそれが理由です」


「異世界から来る人間はみんな神聖力なんて特殊な力を持っているのか?」

「そこは私も詳しくは分かりません。私が持っているのはあくまで瑞希が見聞きした程度の知識なんで。ただ、瑞希の考えだと、異世界を渡る際の影響でそういったものが宿ると」

「なるほど、だからこそ聖女しか持っていない特別な力なのか。そう言われると納得するな」


「何度も肉体に宿り、そして引き剥がされを繰り返していたせいか今回の融合は上手くいかず、魂の一部だけが私の肉体に宿ったんです。そして、残りは妹のプリムローズに。魔物との討伐でプリムローズは心身に大きなダメージを負いました。そのおかげで瑞希は彼女の肉体を乗っ取ることができたみたいです」


「お前の体は大丈夫なのか?」

「元々、侵入者であった魂が排除されただけですから何の問題もありません。ただ、神聖力がなくなったので、もう聖女ではありませんが」


ただの人になった。ずっと、願っていた。ただの人間になることに。それが、ある日突然叶ったからまだ実感が湧かない。

それに、普通の人になることを願っていた反面、恐れてもいた。

私は聖女だった。それでしか自分の価値はないのだと、それ以外は無価値だと言われ続けた。


誰にも必要なくなる。そういう存在になるのが怖かった。


「そうか。良かったな」


王弟殿下はそう言って笑う。何の価値もない存在になって、それでもこの人は私がここにいても良いのだと言ってくれる。


ああ、本当に良かった。


「はい」

「暫くは経過観察が必要なので、今まで通り診察に伺います。それ以外でも何かあれば都度ご連絡ください。当然ですけど、こういったケースは症例も前例もないので何が起こるか分かりませんので」

「はい。アルセン先生、ありがとうございます」

「ティグル、アルセンを送ってあげて」

「はい、セレナ様」


先生が出て行って、これからどうしようかという話になった。

私に対しては問題ない。問題はザハロニアだ。

瑞希はザハロニアに復讐をする気でいる。まぁ、当然だし、自業自得ではあるけど。


実際、ここに来るまでに瑞希は騎士と教会関係者を殺している。それに、ザハロニアに張っていた結界を解いてもいる。


「ザハロニアからの避難民受け入れ態勢を整えておいた方が良いかもしれないね。リック、すまないけど暫くは国に留まり尽力してくれ」

「了解、エヴァン」

「エインリッヒは治安維持に尽力を、セレナもエインリッヒの指示の下、動いて欲しい。混乱に乗じて良からぬことを企てる連中が出てくるかもしれないから、いつも以上に注意をしてくれ」

「ああ」

「了解した」


エヴァンの指示を受け、殿下たちも部屋を出て行った。


ザハロニアは長い間、犠牲の上で成り立ってきた。魔物の脅威を忘れた国民、騎士、貴族、王家は生き残れない。頼みの綱だった聖女は自分たちで捨てて、新たに手に入れた大聖女は過去の亡霊に取り憑かれ、敵となった。


地獄に堕ちろと言い捨てて国を出てきたけど、まさか地獄が本当に訪れることになるとは思わなかった。でも、同情はしない。


たとえ、聖女誕生の秘密を知らなかったとしても、一人の人間が命懸けて平穏を守り続けていたことに変わりはないのだから。聖女の犠牲を当然と受け入れ、尚且つ聖女である私を馬鹿にし続けてきた連中がどうなろうが知ったことではない。

あの国に守りたい人もいないし。


「失礼します、エヴァン陛下。急ぎ、ご連絡が」

「どうした?」

「それが」

「?」


なんで、私を見る?


「ザハロニア国から聖女ティファーニア・エルドレット男爵令嬢の返還を求める書状が届いています」

「は?」


思わず、声が出ちゃった。だって、返還って何よ。私を捨てておいて、何が返還よ。どこまでも、ふざけてる。


「ティファーニア・エルドレット男爵令嬢は我が国にはいないよ」

「え、しかし」


目の前に私がいるにも関わらず、さらりと笑顔で嘘を言う陛下。

報告をしに来た文官は私をチラリと見てからもう一度陛下を見る。自国の王の言葉とはいえ、他国の王に嘘をつくことを躊躇っているのだろう。

当然ね。バレたら国際問題よ。エヴァン陛下はどういうつもりなんだろう?


「すでに男爵家からは籍を抜いている。エルドレット男爵夫妻も了承済みだ。加えて彼女はザハロニアではなく、アストラ国民だ。その手続きもすでに完了済み。ゆえに、ザハロニアの要求には応えれない。以上、分かったかな?」

「は、はいっ!」


にっこりと笑う陛下の後ろに魔王の姿でも連想させたのか、文官は慌てて部屋を出て行った。


確かに、ヴァイオレット公爵が用意した書類全てにサインをしたし、受けた説明にも了承をした。でも、手続きってこんなに早く完了するものなの?したことないから、よく分からないけど。

ここにいる人は陛下も含めて規格外な気がする。


「陛下っ!」


文官の次は騎士の人が入って来た。

朝から私が目覚めないという問題、次に聖女に関する問題と立て続けに起きているのでさすがの陛下もげんなりしている。


「今度は何?」

「そ、それが、スタンピードです」

「場所は?」

「ザハロニアです。ザハロニア国内でスタンピードが」


私はすぐに瑞希が何かをしたのだと思った。これは、瑞希の魂を体内に宿し続けた私の勘だ。


いつだって聖と魔は表裏一体。瑞希はいろんな人の肉体に宿って、たくさん聖女の仕事をする中で聖女の力を学んだ。そして、彼女は知ったのだ。魔の使い方を。

瑞希は、ザハロニアの全てを滅ぼすつもりだ。滅ぼした後、彼女はどうするのだろう?


「陛下、私はザハロニアへ向かいたいです」

「どうして?」


うわっ、なんか笑顔だけど凄みがある。


「元聖女として、ザハロニアの国民だった者として瑞希のすることを見届ける義務があると思うからです」

「危険だよ。聖女として魔物討伐をしてきたのなら奴らの脅威もスタンピードがどういうものかも分かっているでしょう。そんなところに行かせるわけにはいかない。君のためじゃない。弟のためだ。君に何かあれば弟が悲しむ」


・・・・・・エインリッヒ王弟殿下


「危険は分かっています。でも、けじめをつけさせてください。私は聖女でしたけど、でも、ザハロニアの民として聖女の犠牲の上で成り立っていた平穏を何の疑問もなく享受していた一人なのです。私にはザハロニアの末路を見届ける義務があります。それに、瑞希のこともこのまま放ってはおけません。復讐を終えた彼女がどうなるのか、復讐を果たせたことで消滅するのか、厄災となるのか確認しなくてはいけません」


「君の言うことは尤もだ。だから、一人では行かせられない。もちろん、エインリッヒを行かせるわけにもいかない。彼は王族で、俺に何かあった時の予備として必要だからね」


殿下は「エインリッヒに恨まれるだろうな」と苦笑していた。申し訳ないと思うけど、それでも私に行かないと言う選択肢はない。

このまま知らぬふりを通すことはできる。でも、それをしてしまったら私はきっと自分を許せないと思う。私の気持ちの問題だと言われればそうなんだけど。


「騎士をつけさせる。スタンピードの影響が我が国まで及ぶかの確認も必要だからね」

「ありがとうございます。必ず、帰って来ます」

「そうしてくれ。弟に恨まれたくはないからね」

「はい」


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― 新着の感想 ―
行くなら1人で行け。 自分のけじめに他人(騎士様)を巻き込むな。 死ぬかもしれない危険に、自分が雇っていたわけでもない他人を巻き込むな。 断るきすらなさそうだし。世話になるのも~とか言ってた聖女さま、…
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