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第12話 これは真の聖女による復讐劇の始まり

side .ウィーラント


「・・・・・今、なんと言った?」

「大聖女様が、お逃げになりました、と。」


過去に自分の役目を放り出して逃げた聖女がいた。だから聖女の任務に騎士団が派遣されることになった。あくまで騎士は聖女が役目を果たせるか見守るためにいるのだ。

なのに、報告によると騎士たちは聖女を近くまで送り届けるだけ。聖女から離れた安全な場所で待機していたなんて完全な職務放棄ではないか。


「それと、殿下。もう一つ報告があります」


決して目を合わせようとしない補佐官の様子からしてその報告が良いことでないのは明らかだ。

聖女が逃げた、以上に最悪な報告などないだろうと僕は気軽な気持ちというよりはほぼ投げやりな状態で聞いた。


「大聖女様に同行していた騎士が一人を除き、皆死にました」

「は?」

「大聖女様は、全ての結界を解いてから逃げ出したようです。唯一、生き残った騎士も恐慌状態でとてもじゃありませんが話を聞ける状態ではありません」

「は?待て、待て、待て。今、なんと言った?同行していた騎士が死んだ?結界が全て解かれた、だと?」

「はい」


結果が全て解かれた?結界が?解かれた?全て?


「っ」


補佐官の報告が脳内をなん度も巡った。まるで理解を拒むようにそれがぐちゃぐちゃになるまで咀嚼して漸く僕の思考はクリアになった。それと同時に我が国を襲うであろう悲劇が目前に迫っている現実が見えたのだ。


「い、今すぐ騎士団を派遣し魔物討伐に当たれっ!それと同時に大聖女の行方を探して何としてでも結界を張らせろ。結界が張れるなら五体満足でなくても構わないっ!このことを教会にも通達しろ。それと、アストラ王国に信書を、今すぐ我が国の聖女返還を要求する旨を送れ」

「は、はいっ!」


聖女は、大丈夫だ。

仮に、ティファーニアや、プリムローズが戻らなくても教会に新たな聖女を用意して貰えばいい。聖女は、人であって人ではない。幾らでも換えのきく道具だ。

だから、大丈夫だ。この国は守られる。守られ続ける。彼女たちの、いや、彼女の尊い犠牲によって。


「殿下っ!た、大変ですっ!」


補佐官が教会に行くため部屋を出ようとすると、別の補佐官が神官を伴って入って来た。


「きょ、教皇、大司教、司教など、きょ、教会関係者が全員殺されました」

「何だとっ!?」


補佐官と入って来た神官の服には大量の血がついており、酷く怯えていた。補佐官の話しによればこの神官は王都にいる教会関係者唯一の生き残りだそうだ。

そこで僕は違和感を覚えた。


先ほど、僕に大聖女が逃げた報告をしに来たこの補佐官は何と言った?

派遣された騎士は一人を除き、みな死んだと言った。

そして、今神官と共に部屋に入って来た補佐官はこの神官が唯一の生き残りだと言う。

これは偶然か?いや、作為的なものを感じる。では、何のために一人だけを生かしている?目撃者を残す理由はなんだ?


「お前、犯人を見たのか?」

「ひっ、は、はいぃっ。は、犯人は、犯人は、だ、大聖女様です」

「っ、な、なんで」


目撃者を残す理由はただ一つ。真実を把握させるため。それは、何のために?


「それは、本当のことか?もし、嘘を言っているなら」

「ほ、本当です、殿下っ!神に誓って私は嘘など申していません」

「殿下、これ以上は」


補佐官の言う通りだ。この神官を責めたところで現状は何も変わらない。それよりも早く対処しなくては。


「プリムローズ、どうして」


どんなに虐げられても家族への愛情を求め、認められたいのだと悲しげに笑う彼女の儚げな姿が今でも鮮明に思い出せる。

自分の傷よりも他者の傷に涙を流す心優しい少女だった。彼女が大聖女に選ばれたのは嬉しくもあり、真実を知る者として悲しくもあった。


それでも、これで家族に認められると、みんなを守れるのだと笑う彼女を誇りに思っていたのに。どうして、こんな酷いことができるのだ。


「どうして、プリムローズ」


「殿下、お気持ち、お察しします。しかし、今は」

「分かっている。父上には僕から報告する。水晶は無事か?」


あれさえ、あれば何度でも聖女は生まれる。まだ、この国は終わっていない。大丈夫だ。


「聖女選定式に使う水晶さえあれば、次の聖女を選定できる。そうすれば最悪の事態は防げるはずだ」


そうだ。現役の聖女二人がいなくても、問題はない。


「そ、それが、大聖女様が破壊してしまいました」

「なっ」


ならばもう、この国に聖女は生まれない。どうすれば良いのだ?

この国の者たちは今まで聖女に、神の力によって守られてきた。誰も魔物と戦ったことなどないのだ。蹂躙される。この国は、魔物に滅ぼされる。

無辜の民が犠牲になってしまう。どうすればいい?


「で、殿下、どうしましょう」と神官は神に乞うように私を見る。


聖女が生まれる理由を知っているのはこの場では私と神官のみだからだろう。

この国の極秘事項だからな。


「アストラに、何としてでもティファーニアを返還してもらえ。それと、騎士団を集結させて魔物討伐に当たらせろ。時間を稼ぎ、できるだけ多くの民を逃す」

「しかし、殿下。逃すと言ってもどこに?逃げ場など」

「うるさいっ!そんなの僕にだって分からないよっ!でも、逃げないと仕方がないだろ。どこか、どこでも良いから逃げるしかないんだっ!死にたくなかったら」

「は、はいっ!」

「分かったら、さっさと出ていけ」


補佐官全員が出て行き、一人になった部屋で悪態をついたところで僕の体を巡るドス黒い感情が吐き出されることはなく、僕は逃げるように現状報告をしに父上の元へ行った。

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