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第1話 役立たずの聖女

「・・・・・また、魔物が増えてる。それに、結界も綻んでる」


私の名前はティファーニア・エルドレット。十二年前まではただの貧乏男爵家の令嬢だった。

ここ、ザハロニアでは身分に関係なく一年に一度、必ず教会に行き神聖石に触れなくてはいけない。これは聖女選定式と言い、神聖石が反応した者が次の聖女になる。


私も六歳の時に受けた聖女選定式で聖女として選ばれた。しかし、私が保有している神聖力は歴代のどの聖女よりも少なく、教会関係者の落胆は大きかった。


聖女の仕事は魔物が国に侵入しないように結界を張ること、結界が少しでも長く持つように、結界外の魔物の除去、そして教会にやって来る怪我人や病人に治癒術を施し、癒すことだ。


「先に魔物を討伐しよう」


聖女は神聖力を使って、魔物が纏う瘴気を浄化し、魔物を倒す。これが本来の討伐方法だけど、私は神聖力が少ないので魔物討伐に使ってしまうと結界が張れなくなる。

そのため、私は歴代の聖女がして来なかった武器を使用した討伐方法をとっている。


女の私でも使えるように特別に作られた剣の柄には魔法石が付けられている。

魔法石とは古代の人が作ったと言われる特別な石だ。

今では失われた技術で作られているため複製ができず、貴族であっても見ることすら難しいと言われている。


魔法石が付いていることによってこの剣は炎を纏うことができる。

そして、この剣で切られると、切り口が燃えるのだ。

私のこういう闘い方は聖女らしくないと非難されることが多い。でも、仕方がない。そうしないと私はこの国を守れないのだ。


守りたいと心から思ったことはないけど。

それでも私は剣を振るう。私は聖女だから。


「っ」


牛のような姿をした魔物の角が腕を掠めた。それにより体勢を崩した瞬間を見逃さず別の魔物の大きな手が私を叩き倒そうと振り上げられた。

私は咄嗟に剣の側面で防いだけど、勢いを完全に殺すことができなかった。

後方に飛ばされ、地面に何度も転がってしまった。


身体中が痛い。でも、いつまでも寝てはいられない。私は地面に手をついて飛び起きた。私がさっきまで寝ていた場所には鋭い蔦が刺さっている。


「所詮、植物でしょ」


なんて、強がってはいるけど体の震えが止まらない。あと少しでも起きるのが遅ければ、間違いなくあの蔦は私の体を貫いていただろう。

死ななくても、かなりの重傷を負っていただろう。そして、そんな私を助けてくれる人はいない。


時折思う。このまま死んでしまった方が楽なのではないかと。でも、その瞬間はとても怖い。きっと、私はまだこの世界に絶望をしていないからだろう。

大丈夫、私はまで生きていける。


怖がるな。怖がれば、体の動きが硬くなり、余計に危ない。


大丈夫。私は強い。こんな奴ら今まで一人で戦って、勝ってきた。


剣を握り締め、炎を纏わせる。そして、魔物に向かって走り出す。

魔物を殺すために。魔物たちも私を殺そうと向かってきた。



「・・・・・っ。結界、張り直さないと」


魔物を全て倒したけど、当然無傷というわけにはいかなかった。でも、聖女の治癒術を自分に使うわけにはいかない。

取り敢えず、魔物は湧いてこないうちに結界を張り直してから自分の治療だ。


一人で戦っているからいつだって無傷ではすまない。

だから救急箱は必須だ。

振りかけただけで一瞬で傷が治るような液体と誰か開発してくれたらいいのにと毎回思う。


まぁ、そんな都合の良いものあるわけがない。


だから、服の下は傷跡だらけ。男なら名誉の傷だけど女はその真逆だ。

この事実を知られれば非難の的だろう。何故付けられた傷なのか、そんな事実には一切目を向けられることもなく。


私には一応、婚約者がいるから結婚には困らないけど。ただ、その婚約者でも知らない。服の下の醜い傷を。知られたらどうなるだろう?きっと、私にも相手にもどうにもできないだろう。私との婚約は王命だから。

聖女は、聖女になった時点で王族との婚約が決まる。本人の意思とは関係なく。


それでも一生を共にするパートナーだ。できる限り良好な関係を築きたいと思っている。ただ、私もそうだけど私の婚約者はウィーラント・ザハロニア。

ザハロニア王国の王太子で多忙な方なのだ。そのため、月に一度お茶会を共にするだけの交流のみだ。


「この後はお茶会か」


正直、しんどい。怪我も負っているし。でも、月に一度のお茶会を断る訳にはいかない。ただでさえ、交流が少ないのだから。それに私は夜会などにも出席しないので、本当に交流がないのだ。


「お急ぎください、王太子殿下を待たせる気ですか?」


山を降りてすぐの所に馬車と騎士が待機していた。

聖女の護衛である騎士だ。魔物討伐は聖女の役目。騎士の役目ではない。では、彼らは一体何に対する護衛なのかと思ってしまう。


これは護衛ではない。護衛という名の監視なのだ。

私が逃げ出さないための。

だから余計に思う。私に逃げ場などないのだと。そして、同時に思うのだ。

聖女は人ではない。人のため、国のために一生を捧げる道具だと。

それを表すように聖女の心得が存在する。


「全く、これほど時間がかかるとは。さすがは歴代で最も神聖力の少ない、聖女」

「役立たずな聖女だな」


騎士はそう言って笑う。別に気にしない。いつものことだ。


聖女が見つかった時、民も教会も国も喜んだ。でも、どんなに修行しても私の神聖力は歴代のどの聖女よりも少ない。決して、増えることがなかった。

周囲の失望は大きかっただろう。

加えて私は男爵令嬢、それも借金まみれの貧乏男爵家の娘だった。だから、聖女である私を教会の所有物にする代わりにかなりの額が男爵家に流れた。


私は身売り同然でやってきた孤児のようなもの。

後ろ盾のない、神聖力が最も少ない娘を大切に扱う必要はないのだ。いくら聖女であっても。


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