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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
一章

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9/10

数を重ねて一枚の絵となる

 それから何回も確認し、トイレに行くふりをして会場を抜け出し探してみたが、二人組の女性の姿はまったく見つからなかった。

 あれって、実はループする以前の記憶なのかな? とすら思えてきた。

 でも違う。野次馬がいたところを抜けた段階でシャッター音がしたから。


 ループ世界のことを散々繰り返して分かった事は、俺以外の人間は基本同じ行動をする。俺が異なる行動をしたら、リアクションとして違う行動をしてくる。このことは時雨結の小説の通り。


 胡散臭い眞光も例外ではない。


 何か11:11:11の現象について知っているのではないか?

 ここにえらくタイミングよく来たのはなぜだ?

 世間で騒がれている11:11:11の怪についてどう思っているか?


 かなりストレートに聞いてみた。明らかに何か知っている様子ではあるが、のらりくらりと交わされてしまった。

 逆に俺のことについて突っ込んで聞いてくる始末。

 油断ならない相手だが、1日が終わるとリセットされるので、俺がかなりヤバめなことを聞いても問題はなかったが、腹を割って話せる相手でもなかった。


 何も進展がないにもかかわらず、七星四季館に真面目に通う自分にも嫌になる。

 玄関を出る時に、すっかり癖になっている妻と娘の写真への挨拶。それをしながら苦笑してしまう。

 おそらく俺は赤い車に潰されて死んでいるというのに、亡くなった妻や娘のいる場所には行くことすらできないようだ。

 写真の横にある小皿に入った、まん丸な猫がついたキーホルダー。娘が俺の誕生日にプレゼントしてくれたもの。   彼女にとって大切な宝物なのに、俺と一緒に猫さんがいてほしいと渡してくれたもの。

 俺はそれを手に取り、スマホのストラップに付ける。

 少しだけ元気をもらった気がした。娘が一緒にいてくれているようで心強くも感じた。


 美術館に着くと、十和一絵がいつものように笑顔で近づいてくる。

 俺にスタッフタグを渡しながら首を傾ける。


「あら。可愛い猫さんのストラップですね」

 いつもと違う反応を返してくれたことが少し嬉しい。

「ああ、娘からプレゼントしてもらったものなんだ」

 十和一絵が笑みを深める。

「素敵ですね! 娘さんからのプレゼントなんて、もう宝物じゃないですか」

 俺も釣られて笑顔になり、楽しい気持ちになる。

「実はね、俺の娘もカズエって言うんだ。君と漢字は違うけど」

 少しハイになったためか、娘の話がすんなりできた。

「そうなんですか! 嬉しいです」

「といっても、娘は“数を重ねる”と書いてカズエなんだ。素敵な時を重ねてほしいという願いを込めて」

「ワ〜! 素敵ですね! お父さんの愛が詰まった名前で」

 こうして普通に話していると、娘がまだ生きているような感じで話ができた。

 明日は、娘と妻が一緒に選んで買ってくれたネクタイをしてくるのもいいかもしれない。そんな事を考えながら、いつもより少しだけ楽しい気持ちで展示場に向かった。


 そこからの展開はいつも通り。橘を交えて今日の打ち合わせをして、応接室で十和一絵とコーヒーをしばらく楽しむ。

 今日も事故を回避して、隣のエリアの女性をうまく避難させる。

 そしてやってきた眞光に、何を聞いてみようか? そんなことを考えながら展示室を歩く。


 何も変化ないのに、追悼コーナーをつい覗いてしまう。キッチンカーに壊される前の壁に飾られた時田の写真を見つめる。

 彼は今どうなっているのだろうか? 同じようにループに巻き込まれているのだろうか?

 そう考えると時田と繋がる道を探るのも手かも知れない。

 考えてみたら一緒に検証を進めるのに誰よりも最高の相棒になれるし、時雨結とも繋がれる。

 明日朝イチでアイツの家に行ってみるか?

 本によると過去のルーパーからしか繋げないから、まず会う必要がある。そうなると朝一で捕まえるのがいいだろう。


 追悼コーナーの手前で止まり、入ろうとしない俺を、不思議そうに見上げる十和一絵の視線に気がつく。

 俺は笑みを作り、時田との思い出を語る。ここまではいつも通りの展開だった。


 カラン


 小さな落下音が響いた。


「あっ 猫ちゃんが!!」


 十和一絵が叫び、走り出す。時田の追悼コーナーのあるエリアへと。

 俺のスマホのストラップから外れて転がる猫の人形を追いかけて……。

 猫の人形は、壁にぶつかり止まる。時田の写真のちょうど下で。


「十和ちゃん! ダメだ」

 俺の叫び声と同時に、遠くから不吉な破壊音が聞こえる。

 叫ぶ俺に、猫の人形を拾った十和一絵が立ち上がり、こちらを見て笑った。

 その瞬間、壁が壊れて赤いキッチンカーが十和一絵にぶつかり、嫌な音を立てて進み、その先の壁に押しつぶされて止まった。


 俺の靴に何かが当たる。下を見ると、赤く染まった猫の人形だった。


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