核はどこに?
フォローしてみたものの、ループするとそれはなかったことになる。
次の回で、その事実に気づいた。
そして田中稔は、八回目のループに入ってもなお、毎回同じ行動を取っていた。
赤いキッチンカーに乗り、あの時間に高速道路のあの場所を走行し、事故に遭い、美術館へと吹き飛ばされてくる。
【今日、首都高速の××エリアを11時ごろ通ってはいけない。
そこは大事故が起こって危険だ。生き残りたいなら、そこには絶対行くな】
さすがに我慢できず、朝起きた段階で田中稔にSNSへメッセージを送った。
気味が悪かったのだろう、返事はなかった。
そしてその日、田中稔は高速道路から落ちてこなかった。
高速道路では大事故が起こったものの、展示会場は無事だった。
トークショーも予定どおり行われることになり、逆な意味で慌てる。
予報どおり午後には晴れ、客足も問題ない。
俺の様子が少し妙だったこと以外は、特に支障もなくイベントは終了した。
冷や汗をかきながらトークショーを終え、控え室で冷たいドリンクを飲んでいたとき、田中稔から返事が来ていることに気づいた。
『あなたは何者?
なんで事故のことを知っていたんだ?』
何と返すべきか、一瞬迷う。
「逆に聞きたい。
君はなぜ、毎回あの道を通った?
あそこで事故が起こるのを知っていたんじゃないのか?」
そう返してみる。
『何言ってるんだ?
分かるわけないだろ! そんなこと』
その返事に、俺は首を傾げるしかなかった。
「君は……ルーパーじゃないのか?」
『は? 何それ!』
話が、どうにも噛み合っていない。
俺は改めて、田中稔についてネット上の情報を調べ直し、唖然とする。
『ヤロウだけど、今日が誕生日のオレ♪』
3月3日。
バースデーパーティーを開いてもらっている投稿だった。
田中稔は、ルーパーではなかった?
だから、記憶がない。
大型トレーラーの運転手や、亡くなった家族連れの運転手の誕生日も調べてみた。
だが、11月11日生まれの人間は見つからなかった。
彼らは毎回事故に巻き込まれ、同じように亡くなり、
ループして元どおりになり、また死亡する。
それをひたすら繰り返している。
なぜだ?
俺は、一回目のことを必死で思い返す。
あの時、誰か他にいたか?
少なくとも、時田の追悼コーナーには俺しかいなかった。
だとすると……。
田中の車の助手席に、もう一人誰か乗っていたのだろうか?
だがその場合、二回目か三回目の時点で、
知人が事故に遭うと分かっていれば、忠告するか、回避するよう動きそうなものだ。
訳が分からなかった。
十五回目のループの朝、俺は朝一でプロデューサーの佐々木に連絡を入れる。
「あのさ、作家の時雨結さんなんだけど、連絡をつけられないかな?」
『は? 何で突然』
同じ作品に携わっていても、原作者と監督って意外と会わないものである。
ほとんどがプロデューサーや編集者を介して連絡を取り合う。
なぜって? 直で製作陣と接触すると揉めがちだからだ。
脚本家の時田と時雨結が密な関係になっていたのは、時田の脚本に時雨結がいたく感動したとかで、プロデューサーや編集者が「そんなに喜んでくれるなら」と、場を設けて顔合わせさせたからだ。
同じストーリーテラーとして意気投合したのか、二人で時々飲む関係にまでなっていたようだ。
時雨結からはよく分からないが、時田は「聡明で素晴らしい女性」「彼女の生み出す世界は完璧で美しい」と褒め称え、いつになく熱く語る様子から、惚れていたんだと思う。
途中から時雨結作品は二人の共同脚本なのでは?と疑うほど、密に仕事をしていた。
そして新作の「11:11:11〜廻る世界〜」の執筆も、時田が協力した風な記述があとがきにある。
「いや、時田の追悼コーナーもあるから招待したいかなと」
『あ、まあ。確かに時田は喜ぶかもしれないけど』
「俺もお話してみたくて、できたら今日中に連絡をつけてくれ」
そう言って電話を切った。
無茶だと思うが、今日中に何とか会うしかない。
俺には明日がないのだから。
本棚に行き、改めて本を手に取るが、
著者近影に写真はなく、簡単なプロフィールがあっただけで、
どんな女性か分からなかった。




