違和感
四季館の警備員たちにも来てもらい、前回同様、来場客の退避は無事に終了した。
そして警察と消防が到着して十分ほど経った頃、眞光がやってくる。
それは前回と同じ流れだ。
だが今回は、余計に違和感を覚えた。
初対面のときは気づかなかったが、このタイミングで来るのは早くないか?
そう思ってしまう。
警察相手にも、眞光は変わらず堂々とした態度で応対している。
一応、俺を守るスタンスで動いてはくれているが、そもそも、何のためにこいつはここにいるのだろうか。
冷静に考えれば、一番の出資者であるスポンサーとはいえ、顧問弁護士事務所のおそらくトップクラスの人間が、このスピードで駆けつけてくるものなのだろうか。
こういう立場の人間なら、部下を向かわせれば十分なはずだ。
受け取った名刺には「眞光弁護士事務所」とあった。
父親がやっている事務所なのかもしれないが、それにしても、使い走りのような立場には見えない。
まるで、あらかじめ事故が起こることを予期していたかのようにも感じる。
だが、それにしては彼は、前回と一言一句変わらない言葉で警察と会話している。
俺は、時雨結の小説の設定を思い返す。
ループは、11月11日生まれの人間が核となって引き起こされる。
同時に亡くなった「11日生まれ」の人間も、ループ現象に巻き込まれる。
それ以外の人間は、ループのたびに同じ行動を繰り返す。
ということは、田中稔が核ルーパーで、俺はサブルーパーなのだろう。
「事故のあったエリアの隣にいたところ、大きな音がして……向かってみると、赤い車が壁に激突していました」
俺は警察の質問に、今回の行動に即した返答をする。
部屋の入口で突っ込んでくるところを見たか、音を聞いて現場に向かったか………その程度の違いは些細なものらしく、警察の反応も大きくは変わらなかった。
「事故を目撃して動揺されているのは分かりますが、もう少しお付き合いいただけないでしょうか?」
警察の要請で、実況見分を行うことになる。
俺以上に現場を見ていないこと、そして女性にこの現場を見せたくないという俺の要望もあり、十和一絵には前回同様、先に会議室へ行ってもらった。
今日は、実況見分の後も少し残ってみる。
眞光の行動を見てみたかったからだ。
だが、警察に裏取引を持ちかけるような様子もない。
弁護士として淡々と事実確認を行い、今後争いになる可能性を想定して、資料請求の手続きを部下に指示しているだけだ。
特別なことは、何一つしていないように見える。
俺の視線に気づいたのか、警察との話し合いを終えた眞光が近づいてくる。
「どうかされましたか?」
「いえ……お若いのに、ずいぶん堂々となさっているなと」
眞光は苦笑した。
「いえ。十年この仕事をしていますので、若くもありませんよ」
「事務所までお持ちとは、さすがですね」
「父の事務所です。ですから私は、ただの一職員ですよ。
それでは、会議室の方へ参りましょうか?」
今回は、眞光と連れ立って会議室へ向かうことになった。
「ところで……あのキッチンカーの運転手は……」
「亡くなっていました。衝突の際に、他の車の部品が飛んできて心臓を貫いたようです。
ですから、痛みや落下の恐怖は、あまり感じずに済んだのが不幸中の幸いでしたね」
あまりに冷静にそんなことを言われ、俺は自分の顔が引きつるのを感じた。
「あんな亡くなり方をして、幸せも何もないでしょうに」
「……確かに」
野次馬が溜まっている場所を通るため、しばらく二人は無言になる。
「でも………あなたは幸せですよ。事故に巻き込まれずに済んだのですから」
そう言って、眞光はにっこりと笑った。
俺は何も言葉を返せなかった。
会議室に到着してからの流れも、大枠は変わらない。
眞光が皆に挨拶をし、うちの会社とイベント会社の法務部とのコンタクトを求め、釘を刺した上で事件の説明と今後の対応方針を示す。
そして、俺と十和一絵との面談。
精神的な疲労は変わらないまま、俺は家に帰り着き、深いため息をついた。
テレビニュースも、ネットの様子も、前回と変化はない。
ビールを飲みながら、ため息をつく。
タブレットで田中稔のインスタグラムを眺め、考え込む。
そして、眞光以上におかしな点に気づいた。
もし田中稔が核ルーパーだとしたら、なぜ今回も事故に巻き込まれた?
俺は、彼と同時に死んだから、ループに巻き込まれているはずだ。
普通、自分が大事故に遭うと分かっていたら、避ける行動を取るのではないだろうか。
時雨結の小説でも、主人公たちは最初、そうしていた。
俺自身も、あの部屋へ無防備に向かうことは避けた。
もしかして、夢だと勘違いして、気のせいだと思い、今回も同じ行動を取ったのだろうか。
だとすれば、四回目はさすがに避けてくるはずだ。
そうなったら、何とか田中と連絡を取り、二人で協力すれば……。
とりあえず、この状況を話し合える仲間とは、会えるはずだ。
俺は、田中稔のインスタグラムとFacebookのアカウントをフォローしておいた。




