表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

三度目の世界

 俺はサイドテーブルの上のAIアシスタントのディスプレイに目を向ける。

【7/11 07:11】


 驚きというより、「やっぱり」という感情の方が大きかった。

 たぶん動揺しているのだろうが、昨日……?から色々あり、驚くという感情が麻痺しているのかもしれない。


 コーヒーマシンにカートリッジをセットし、濃いめのコーヒーを淹れる。

 別に一回目の行動をなぞっているわけではない。

 まずはカフェインを入れて思考力を取り戻すためだ。

 まず香りを嗅ぎ、鼻からカフェインを入れてから、一口飲む。


 どうすればいいのか?

 いい方法を思いつくわけもない。

 いずれにしても四季館に行かないといけない。


 俺は洗面所に行き、顔を洗い、歯を磨き、行く準備を整えることにする。


 八時を過ぎたあたりでスマホが鳴る。

 画面を確認するまでもない。十和一絵からである。


『舞原監督、おはようございます! 本日はよろしくお願いします』


 三回目の元気な挨拶。


『九時頃にお迎えのタクシーをそちらに向かわせる予定になっています。

 ただ、こんな天気ですので、少し遅れるかもしれません』


 同じ言葉だとはいえ、相手は十和一絵だ。

 おざなりな対応はできない。

 俺はできる限り誠意のある返事を返す。


 タクシーに乗って四季館に着いた時、笑顔で走ってくる十和一絵の姿を見て、なぜかホッとした。

 十和一絵に促されて展示会場の方に進む。

 その後、まったく記憶通りの挨拶を橘はしてくる。

 そして、一言一句まったく変わらない打ち合わせが始まる。


 これをあえて変えるのか? どうする?

 俺はそんなことを考えながらも、同じような対話を続ける。

 ここの会話を変えたところで、この後起こるかもしれない事故に影響を与えることはないと思ったからだ。


 とはいえ、11時11分11秒に向かう時間を過ごすのは緊張する。

 だから俺は、ここで十和一絵とコーヒーを飲む時間を過ごすことにする。

 そして前回よりも、ゆっくりと会場を歩く。


 田中稔……!

 どうか今日は、こっちに来ないでくれ!


 祈りにも似た気持ちで進む。

 万が一来たとしても、十和一絵に危険が及ばないよう、遅い足取りで、途中途中で軽い展示物の紹介をしながら向かう。


 腕時計を見ると、あと三十秒で問題の時間。

 俺はスーッと息を吐く。


 追悼コーナー手前のエリアには、二回目にもいた女性二人が動画を見ている。


 ――グガシャァァァアアーン。


 聞こえてほしくない音が、遠くから聞こえた。

 高速道路の事故は、やはり変わらなかったのだろう。


 次の瞬間、激しい音がして部屋が振動する。

 目の端で感じたのは、追悼コーナーを走り抜けた赤い物体。


 そちらを確認しに走ろうとする十和一絵を止め、部屋にいた二人の客を避難させるよう指示する。

 そして俺は、大きく深呼吸をしながら追悼コーナーへと向かう。


 壁には、前回とまったく同じ形の穴。

 そして左を見ると、同じように運転席がひしゃげたキッチンカー。


 前回は動揺して気にもしていなかったが、ひしゃげた車体には、歪んだ【One One Cubano】の文字と、陽気なキューバ人のイラストが確認できた。


「何があったんだ?」


 駆けつけてくる橘。


「車が突っ込んできた。救急車を呼んでくれ。

 それから、お客様を避難させた方がいい」


 俺は、キッチンカーの壁面の歪んだキューバ人のイラストを見つめながら、冷静に言葉を返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ