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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
三章

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19/20

仰せのままに参りましょう

 土岐野から話を聞いてから、私はより七星四季館で周りを気にするようになってしまった。

 女性であるというのは何となく察してしまったために、誰かとすれ違う度にドキドキしている。

 土岐野はもう一人の核候補が誰で、その人物がどこにいるのか知っていて、教えられる立場だったが、私は聞かなかった。


『その人物はそういう現象に遭ったのが二度目なんだ。

 だから君が協力を求めて声をかけてくれたら、君の脱出を多分手伝うだろうと言っていた』


 そんな事言われても、頼める訳がない。

「私のために死んで下さい」と言っているのと同意義だから。

 二度目ということは、ループから逃れても、また捕まる可能性もあるということ。

 もしかして一度逃したから、より捕まえてくるなんてこともあるかもしれない。


 あえてどんな人なのか、七星四季館のどこにいるのかも聞かない。でも探してしまう。

 そんな矛盾した行動をする自分も嫌になる。

 そんな私を気にかけて、土岐野は度々連絡をくれて、時々会って話を聞いてくれた。

 そこでするのは、他のルーパーとの面白エピソードや、レストランのコンセプトプロデューサーをしていた時の話など。関係ない話をして気を紛らわせてくれた。

 でもそんなことは、単なる逃避行動であるのも分かっている。

 そうしている内にも、時間は刻々と回りながら過ぎていく。


「十和ちゃん、どうしたの?

 今日元気ないよね」


 打ち合わせの後、落ちそうになっている舞原監督の猫のキーホルダーを、ペンチを借りて修理していたら、舞原監督が私にそう声をかけてくる。

 ループ世界では基本、人は同じ行動をするけど、私の様子次第で会話が変わることが多々ある。

 いつもだったら、橘さんと会話しているはずなのに、こんな事を言ってくるということは、私の様子がかなりおかしいということだろう。


「いえ、昨日遅くまで本を読んでいたもので」


 舞原監督は優しく笑う。


「ああ、それは仕方がないね。面白い本だと、つい時間忘れるから。目覚ましに少し歩くか」


 そう言って展示会場に誘ってくれる。修理した猫のキーホルダーは、大事そうにハンカチで包んでポケットにしまっている。

 舞原監督自らの解説を楽しみながら展示会場を歩く。

 私のちょっとした行動の違いで、違った観点からも話を聞ける。だから毎回聞いても飽きることはない。

 時田さんの追悼コーナーの手前で、舞原さんは足を止める。

 そして切なそうに目を細めるのを、私は静かに見つめる。

 土岐野さんの紹介で時田さんともお会いしたけど、穏やかですっごく良い人だった。

 そして舞原さんが寂しがっている話をすると、申し訳なさそうにしていた。


「舞原監督!

 もしも、もしもですよ。時田さんがあの小説のようにループ世界にいるとしたら、どう思いますか?」


 舞原監督は首を傾げ、私を見下ろしてくる。


「うーん。悩ましい質問だね。

 大変な状態になっているあいつには失礼だけど、でもそうやってアイツが元気に生きていると思うと、少し俺は救われるかな」


 そう言いながら、時田さんの写真を優しい表情で見つめる舞原監督。


「そうですね。死んでおらず、元気になったら生きている……そう考えると少し楽ですね」


 私も視線を壁の時田さんに向ける……。


「素敵な笑顔ですね……優しくて穏やかで素敵です」


 私は舞原監督と、事故が起こる時間まで、そうやって静かな時間を過ごした。

 この後事故により二人とも慌ただしい時間を過ごすことになるとしても、私は舞原監督と一緒にいるこの穏やかな時間が好きだから。



 時間は無常にも留まらず過ぎていき、今日で最後の日となった。外の世界では2032年7月11日。

 私は、ゆっくりと周りを見渡す。

 何十回も繰り返してきた一日、今日の景色もやっぱり同じだった。

 新しく現れた人の姿もない。配置も、流れも、変化はない。


 本当なら、もう見飽きて、うんざりしているはずなのに。

 それでも私は、胸の奥で小さく息を吐く。

 変わらない、ということに安堵したから。

 私の代わりに犠牲になる誰かが、ここにはいないということだから。

 それが分かった瞬間、私は自然と笑みを作っていた。

 写真を見つめる舞原監督の背中に向かって、一歩踏み出す。


「舞原監督。少し確認したいことがあります。

 あちらへ、来ていただけますか?」


 そう声を掛けて、私は彼を“より安全な場所”へと導くために声をかける。

 このループ世界において何も意味のない行動だけど……。


「十和ちゃん、どうかしたかい?」


 舞原監督は微笑みながら聞いてくる。

 私の大好きな、頼れる大人の包容力のある笑み。やっぱりなんだか好きだ。


「大したことはないんですが、お聞きしたくて……」


「了解! 十和ちゃんの仰せのままに参りましょう」


 茶目っけのある舞原監督の言葉に、私は思わず笑ってしまった。

 そして二人で笑いながら、追悼コーナーから離れた。



〜〜〜fin 〜〜〜

この次では、後書きとして物語簡単な解説をしてます。

ご興味がある方はどうぞ。

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