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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
三章

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18/20

カラオケボックスに行こう

 上司らはまだ色々仕事があるのだろうが、私は四時には帰宅を命じられる。

 関係者出口から一旦出てから、表に回りロビー入口へと向かうと、柱の所にもたれた土岐野がいた。そこにいる別の人と身体が重なった状態で。


 私に気がついて、土岐野は笑顔を見せ手を振ってくる。

「お疲れ様」

 そして私が近づくと、スマホを耳に当て、そう挨拶してくる。

「お疲れ様です。今日はどうされますか?」

 私もスマホを耳に当て、並んで歩きだす。


 試しに身体に少し触れようとしたが、なんの感触もなく、私の手もすり抜けていくだけだった。

 こんなに隣にいて存在感があるのに、触れないというのが不思議だ。


「カラオケボックス行こうか!」

「カラオケですか?」


 取り合えずLINEのアドレスを交換し、カラオケボックスにバラバラで向かうことにした。

 微妙に電車の時間とかが異なるため、一緒に行けないからだ。


 指定されたカラオケボックスに行くと、11番ボックスに案内される。

 すると中に、もう土岐野は待っていた。

 こうしてみると、本当にそこにいるようだ。


「ここは、ルーパー同士の相談の場に最適なんだ。

 なぜかどの年でも一日空いているし、カラオケボックスだと周りを気にせず話せるから。

 喉乾いたよね? 飲み物とか頼んでから話そう」


 思わず土岐野の分までドリンクを頼もうとして笑われる。

 店員がドリンクを置いて部屋を出てから、改めて向き合った。


「改めまして。本を読んだのなら、もう基本的な現象のルールは理解していると見ていいのかな?

 俺は土岐野廻で、2019年に事故に巻き込まれて、ずっとループ世界にいる」


 2019年という数字を改めて聞いて、この現象の恐ろしさを感じ、ゾッとする。


「私は十和一絵で、2031年7月11日に事故にあって、七日目です。

 あの、他の皆さんは? 仲間のルーパーさん、いるんですよね?」


 私は部屋を見渡す。


「いるけど、突然大勢で囲んでしまうと君も困るだろ?

 俺が代表で動くことにしたんだ。それに君がどう過ごしたいかという希望もあるだろうから」


 そう言って、土岐野はアイスコーヒーを飲む。

 不思議だ。土岐野のコーヒーなんてテーブルになかったのに、土岐野が持つと現れる。


「どう過ごしたいとは?」


 土岐野は少し考える。


「連むのはチョットとか、自由に過ごしたいのよ! とか。

 一昨年の(ソラ)(タマキ)さんとかそんな感じで、時々挨拶程度に現れるけど、食べ歩きとか小旅行とか気ままに過ごしている」


「はぁ」


 こんな世界で気ままに過ごすなんて、さすが作家の天環さんは大物である。


「たいていの人は、協力してループ現象の解明をして、脱出方法を探っている感じかな?」


 この状況、一人ではどうしようもない。この七日間で身に染みた。

 仲間が出来るという事は、心強いとしか言いようがない。

 そう思いながら聴いていると、土岐野が私の顔をジッと見つめているのを感じた。

 その真剣な表情にドキリとする。


「あの、何か?」


 土岐野はニコリと笑みを浮かべ、首を横に振る。


「君はどの程度、ループから解放されたい?」


 おかしな事を聞いてくるなと、この時は思った。


「そりゃ、人生まだまだやり残した事だらけですもの! 戻りたいですよ!

 だから皆さんと一緒に解明作業して脱出したいです」


 私は背筋を伸ばし、そう言い切る!

 もしかして意欲不足に思われたのかもしれない。

 そう思い、就活の面接で鍛えた“頑張りますよ! 良い仲間になれますよ”と意欲の満ちた表情を作り見せることにする。


 そんな私に、土岐野は吹き出す。


「十和さんは元気で良い子なんだね」


 少し恥ずかしくなり、下を向く。


「まぁ、元気だけば取り柄ですので」


 土岐野は少し笑みを弱める。


「皆も君のような可愛い子、大歓迎で喜んで迎えてくれると思うよ。

 ……ただ……最初に君に話しておきたい事があるんだ」


 私は真剣な話が来そうだと、姿勢を正す。


「実は君は、かなりイレギュラーな形でルーパーになっているんだ」


「イレギュラーですか?」


 私は首を傾げる。


「実はね、ループ世界内は変わらず同じ日だから分かりにくいと思うけど……

 ループ現象を引き起こした事故が起こってから、ループした日数と同じだけ、外の世界では日数が経過しているんだ」


 そこまでわかる? という感じで視線を向けるので、私は頷く。


「つまりは、今、外の世界では2031年7月18日という事ですよね?」


 頭の中でループした回数で計算した日時を答える。

 しかし土岐野は首を横に振る。


「2031年11月18日なんだ」


「へ? なんで?!」


 そう言ってから、ハッとした表情を見せる土岐野。


「そうか……11月11日だからもあったのか」


 私の誕生日だから何なのだろうか?


「君は現実世界で事故にあってルーパーになったのではなくて、

 ルーパー世界の事故でルーパーになったんだ。

 だから、そのようになっているんだ」


 何かどうでそのようになっているというのだろうか?

 私は首を傾げる。


「あの、どういう経路であれ、同じループ世界に入ってきたのはわかりました。

 それに何か問題があるんですか?

 何故そんなことに?」


「今年、既に別の核ルーパーが存在していたんだ。

 そこで君がイレギュラーな事故を起こしたから、その人物はコチラから消えて、君が代わりにやってきた」


「消えた人はどうなったんですか?」


 もしかして知らないうちに、とんでもない事をしてしまったのではないかと怖くなる。


「代わりに現実世界に戻った」


 私はホッとする。

 そして気がつく。脱出方法、あるってことでは? と。


「あれ? という事は、元に戻れるのですか?」


 土岐野は静かな表情で頷く。

 私は喜びと同時に、大きな疑問を抱く。

 ならば何故、土岐野を始めとするルーパーは戻らず、この世界に居続けているのか?


「あれ、皆さんはどうして……」


「その方法を俺達が実行するには、必要な二つの要件どちらも満たせないから」


 私の言葉に、土岐野は穏やかな表情でそう答える。


「一つは、自分の次のルーパーが発生していない段階でしか行えない事」


 私は頷く。

 四カ月は知らない内に消費されたとはいえ、私にはまだ八カ月弱は猶予があるということになる。


「もう一つは、代わりのループの核になり得る人を、

 ループ現象を引き起こす事になった事故の被害者になってもらうこと」


 私の思考がフリーズする。

 今なんて言った? どういう事?


「……………………………つまり……私は誰かに………押しつけられたの?」


 土岐野は困ったような顔で、首を横に振る。


()()の名誉の為に言っておくが、その人物は何もしていないよ。

 俺とこのカラオケボックスで話をしている時に、それが起こったから。

 ひどく動揺もしてた」


「じ……じゃぁ、なんで……」


 土岐野は悩むような顔をする。


「この現象には、どうも“揺らぎ”というモノが時々現れるようだ。

 もともと該当者を“11”という数字の場所に引きつけようとする、妙な力がはたらいている。ループ世界においては特に。

 該当場所に複数の核ルーパー候補がいると、時たま入れ替え現象が起きてしまう」


 私は座っているのに、目眩を感じた。

 この話をどうー受け止めれば良い?

 なんで私はここにいるのだろう?

 どうすれば良いのだろう?

 私には何もわからなかった。

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