不思議な男
男はゆっくり私の動線へと近づいてくる。
「やあ、君が新しいルーパーだね。
見つかってよかった」
その言葉に答えようとすると、男は人差し指を自分の唇の立ててスマホを取り出し、耳に当てた。
「俺は君の時間の人には見えていないんだ。
だから、俺に反応すると、独り言をしているみたいで変に思われてしまう」
戸惑っているうちに、近づいてきて私の隣で一緒に歩き出す。
私はそこで改めて、現れた男の異様さに気がつく。
男は規制線のロープも、たむろっている人もすり抜けている。
まるで、そこに何もないかのように。
「俺と君はいる時代が違うんだ。
だから君のいる時代のモノには干渉できないし、干渉されない。
ただ君に見えているだけ」
私は案内の人に断り、電話がかかってきているかのようにスマホを手に取り、同じように耳に当てる。
「お電話ありがとうございます。
あの……お名前の方、伺ってもよろしいでしょうか?」
案内の人に不自然ではないであろう形で問いかける。
「土岐野廻。2019年のルーパーだ」
時雨結の小説『11:11:11〜廻る世界〜』の主人公のモデルとされる人物だ。
「本、読ませていただきました」
私の言葉に、土岐野は少し照れたように笑う。
「時雨さんの本だね。
俺が頼んで書いてもらったんだけど、改めて自分が主人公の小説って、照れくさいものだよね……。
君の名前、教えてくれる?」
「十和一絵と申します。
数字の十に和風の和、それに一枚の絵で、十和一絵です」
土岐野は楽しそうに話を聞いている。
「トワで十一の絵……。そうきたか。
素敵な名前だね」
少しカッコいい男性からそう言われると、ちょっと嬉しい。
「仕事、上がるの何時くらい?」
なんか彼氏の会話みたいだ。
「今日は四時すぎでしたら」
「了解。その頃、本館の玄関のところで待ってるね。
君と色々話したいことがあるから」
ニッコリ笑って手を振って、土岐野は去っていった。




