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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
2章

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15/20

未来の選択

「そして、私も舞原さんに謝らなければならないことがあります」


 俺は顔を上げ、時雨結の顔をまっすぐ見返す。冷静で堂々としたその様子は、眞光と違った意味で考えていることが読めなかった。


「恐らくは、私とネミちゃんがあの美術館に行ったことで事故を引き寄せてしまった。そして結果、貴方が巻き込まれた」


 俺は首を傾げる。


「元々、核となり得る十和一絵と、サブルーパーとなり得る俺がいたことで、危険な状態だったんですよね?」


 時雨結は、首を傾げるとも頷くとも、どちらとも表現しにくい仕草をする。


「今年の段階では少なくとも、十和一絵さん一人だけがルーパー候補でした」


「しかし、俺も11日生まれだ」


 時雨結は頷く。


「でも、貴方はあの場所に配置された段階では、サブルーパーの資格はなかった。

 だけど、眞光氏はあえて検証のために、貴方をあそこに置いたのだと思います」


 しかし俺はループ現象に巻き込まれた。首を傾げる。


「サブルーパーには、さらに厄介な法則が存在しています」


 これ以上まだ、法則があるのか?


「サブルーパーは、直近に発生したサブルーパーの誕生月の次の月に生まれた人なんです。

 月代さんと一緒に事故にあった方は、共に11日生まれなのに怪我だけで逃れたのを気になって調べてみて分かりました。

 今年の結果で、それがより明確に証明される結果となったのかもしれません。

 今の段階で、最終発生サブルーパーの誕生日は7月11日。

 万が一、十和一絵さんが核ルーパーに選ばれたとしても、あなたは、そこに8月11日生まれの人がいない限り、今回は無事でした」


 俺は視線をアオイネミに向けてしまう。

 つまりは、8月11日生まれの彼女があの場所で死んだから、俺もルーパーとなった。


「しかし、それは貴女達も被害者ではないですか!」


「どういう理由であれ、貴方を巻き込んでしまった可能性があります。

 ループ現象ですが、どうも現象自体に底意地の悪さを感じるんですよね。

 強引に核候補のところに、条件が揃った場所へ誘導し事故に合わせる。

 ループ世界の中でも、11に纏わる場所に気がつくと誘導されていたりするんです。

 今回も、サブルーパーが二人も揃うというのをチャンスとばかりに、あそこで事故を起こしたように感じてしまいます。

 あんな事故、ありえなくないですか?

 眞光の様子から、他の場所で11月11日生まれの人物と、8月11日生まれの人を一緒にした現場も作ったと思います。

 でも事故はそちらには起こらず、現象からしてみたら、より多くのルーパーを巻き込める好条件のこちらに来たと考えるのが自然な気がして」


 俺は腕を組んで悩んでしまう。


「眞光が、どこにどう人を配置したか分かりますか?」


 時雨結は顔を横に振る。


「アイツがそういうこと話してくれるわけないですよ!

 そういうことを一人でニヤニヤして企むタイプですものね」


 アオイネミは、かなり眞光のことが嫌いなようだ。可愛い顔を歪めながら、そう言葉を発する。


「私たちに下手に情報を流して、彼が考える完璧な試験場を壊されたくなかったのでしょうね」


 時雨結はそう言って、コーヒーを飲む。


「結果、俺たちが壊してしまったとか?」


「可能性があるかな? ということで、本当のところは分からないのが正直なところですが」


  とは言え時雨結の推理で合っている気がする。


「結局、現象が起こってみないと分からないところがありますものね」


 アオイネミがそう受ける。

 二人が来なくても、七星四季館に起こったかもしれないし、起こらなかったかもしれない。

 それは神のみぞ知ること。いや、この場合、悪魔なのか?


「それにしても……」


 アオイネミが、イベント一覧の資料を見て、少し意地悪そうに笑う。


「あの男が設定した場所、ことごとくフシハラやトカズ関連施設は避けているというのが、ホントいやらしいところよね」


 時雨結はその言葉に苦笑する。


「身を切って、ということは絶対しなさそうよね」


 せいぜい彼が身銭を切ったのは、俺や十和一絵らの候補が確実に現場に入れるように、タクシーを手配しただけだ。

 話に区切りがついたからか、部屋に沈黙が降りる。


 俺は改めて、現象のことについて考える。

 途方もなく謎だらけな状況に不安しか感じないが、同時に希望も感じた。

 ここに三人も、ループを脱出した人間がいる。ということは、十和一絵を救うこともできるはず。


「あの、お願いがあります。

 十和一絵をループ世界から救ってくれないでしょうか?

 俺のせいで、あの子は事故にあってしまった。なんとか助けられないでしょうか?

 俺たちが、こうして生き返ったみたいに」


 アオイネミは、チラリと俺に視線を向ける。


「もし今回助かったとしても、この人、核ルーパー候補であり続けるから、来年とかにまた事故るかもしれませんよ」


「そうだとしても救いたいんです! 来年以降は俺が守ります!」


 そんな会話をしている俺たちを見て、時雨結はため息をつく。


「彼女を救うのは、かなり難しいとしか言いようがありません。

 一つは、私達が彼女のいるループ世界に干渉したり、連絡したりする方法が全くないからです。

 私も現実世界に戻って、仲間である過去のルーパーと、必死に連絡をつけようとしましたが、無理でした。

 彼女自身が、脱出方法に気がつき、実行するしかない」


 脱出方法という言葉に、少しゾワリとした嫌な感覚が湧き起こる。


「脱出方法とは、つまり……」


「誰か別の核候補を、あの場所に誘導して死んでもらう」


 その言葉を聞いて、息を吸ってしまう。


「しかも、八ヶ月以内に行わないといけない。

 次の核ルーパーが発生してしまうと、もうその方法は使えなくなるので」


 彼女に、人を犠牲にして生き返るなんて真似ができるだろうか?

 俺が彼女に対して抱えている、「殺してしまった」という罪悪感を、彼女も抱えないといけないというのだろうか?


「私達、ループ世界から解放された時、新しい核ルーパーの世界で、私達はあの7月11日の元々の行動をなぞるはずだから、また事故に遭遇して、すぐにループ世界に戻るのかな? と思っていたんです。

 でも実際は、私達は新しく現象によって作られた、事故に遭わなかった記憶の方の行動をしたことになっているようで、ループ世界に戻ることはありませんでした。

 前の時は、ちょうど365日目だったから、そうなったのかなと思っていたのですが」


「前の時?」


「私、二回目ですので。ループ世界に行くのも戻るのも」


 なんてことなく微笑む時雨結を見て思う。

 なぜ彼女は、こうして笑えるのだろうか? ()()も誰かが代わりに死んでいるというのに。


「ループ現象って、事故そのものを阻止しようが、何しようが全く止まらないのに、妙な揺らぎがあるんですよね。

 私の年、同じ建物に天環さんもいたようなんです。

 あの日、もう一度現場を見てみようとネミちゃんとあのビルを歩いていたら、天さんと会って……。

 私達はなんとかして、あの場所を避けようとして、トイレに誘ったりと、彼女も遠ざけようとしたのに、彼女は吸い寄せられるように事故に向かって行ってしまった。

 自分たちは現象に操られているんじゃないかと、怖くなりました」


 時雨結はそう言った後、痛む頭痛に耐えているかのように顔を顰め額に手を当てる。

 アオイネミは、そんな時雨結に寄り添う。

 その抱きしめる手が震えているのは、その時の衝撃を思い出したからだろう。


 大丈夫だから、という感じで、アオイネミに少し微笑んでから、時雨結はテーブルの上に置かれていたコップの水を飲む。


「救う術はないと言いましたが、私達はループ解除の日、十和一絵さんにメッセンジャーを用意しておきました。

 異なる年のルーパー仲間の一人です」


 そう言って、時雨結は静かな視線を俺に向けてくる。


「核ルーパー同士なら対話できますので、少なくとも彼女は孤独に苦しむことはなくなるでしょう。

 そして、もしその新しい核ルーパーが生き返ることを強く望むなら、私という代理がいることを話してもいいとも伝えました」


「そしたら、貴方が!」


 アオイネミが時雨結に抱きつく。


()()はもう、2028年に自分は死んでいると思っています。

 だから、さらにもう一回死ぬことなんて、どうってことありません。

 今年のループ世界にいる()()も、十和一絵さんに乞われたら、喜んで引き受けると思います。

 あの場所で、最も代理に相応しいのは、()()ですから」


 そう言って、時雨結は朗らかに笑った。

 その言葉に、アオイネミはなぜかホッとしたように、嬉しそうに笑う。


「でも、そういう選択を……果たしてその子が出来るかよね」


 アオイネミは、時雨結に抱きついたまま、そう呟く。

 俺の場合、偶然の結果で十和一絵を殺してしまい、戻ってきた。

 時雨結とアオイネミも、同じような形だろう。


 しかし、十和一絵が戻って来るには、それを選択しないといけない。

 もう一人、核候補が近くにいて、うっかり死んでくれるなんて、都合の良いことが何度も起こるとは思えない。

 俺は二人の言葉に、何も返す言葉がなかった。


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