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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
2章

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時雨結という女性

 佐々木にお願いした一週間ほど後に、時雨結との会合を設けてもらうことになった。

 しかし、さすがに二人きりというわけはなく、こちらはプロデューサーである佐々木が共に来ることになった。

 彼方は編集者の幹元という女性が同行してきた。場所は個室もある喫茶店。商談などにも使われる、レンタル応接室のような場所だ。


 時雨結は、黒の柔らかそうなコートに身を包んで現れた。

 大判の真っ赤なストールにハイヒールで歩く様子は、洗練された都会的な女性そのもの。

 ショートヘアで切れ長の瞳、知的な雰囲気をした美しい人だった。

  スピリチュアルな世界にハマっている怪しい人、という空気はまったくない。

 でも、なんでだろう? どこかで会ったことがある気がした。


「お会いできて光栄です。

 時雨先生の作品にずっと関わらせていただいて、貴女の世界にすっかり魅入られておりました。あの世界を作り出す時雨先生に、ずっとお会いしたいと思っていました」


 俺の言葉に、少し照れた表情で時雨結は顔を横に振る。


「いえ、そんな。

 私の方こそ、舞原監督が動かしていく世界に感動していました。

 アニメによって生命を持って動く世界を見せつけられて、文字で表現できる世界の限界を見せつけられたといいますか。

 ところで、あの事故でお怪我をされたということですが、大丈夫なのでしょうか?」


「先月からリハビリも始めて、社会完全復帰に順調に向かっています。

 少し休ませていただいた分、時雨先生の作品の映画作りにも気合が入っています」


 そんな感じで、いかにも原作者とアニメ監督という入り口で会合はスタートする。


「あなたの話を、時田からいつも聞いていました。

 時雨先生と話していると、どう脚本を進めていくかスムーズに見えてくる、と」


 時田の名前を出すと、時雨結は少し悲しげな表情を浮かべる。


「逆ですよ。

 頭でっかちに書くことしかできない私に、物語をより華やかに見せて、動かす術を教えてくださいました」


 愛する相手を失った女の表情ではないが、敬愛する人のことを語る、という感じに見えた。


「そうそう。時田が脚本を起こす前に、貴方の物語を読んで、その世界についてまとめた資料なのですが、ちょっとしたファンレターのような感じになっているので、よかったらその写しを受け取っていただけませんか?

 あいつの貴方の作品への愛と想いに満ちているので」


 俺はそう言って、書類封筒を渡す。

 少し驚いたような表情をしたが、すぐ笑みを浮かべ、時雨結は封筒を丁寧に受け取ってくれた。


 会合は終始穏やかな空気で、そのまま平和に終わった。


 そして俺は、ソワソワしながらその後の時間を過ごすことになる。

 時雨結に渡した封書には、俺が言ったものもちゃんと入っているが、もう一つ、俺の手紙も入れておいた。

 ビジネスな顔合わせの場で、俺が過ごしたループ現象のことなど話せるわけもない。

 だから俺は、二人きりで会ってお話ししたいという想いを手紙にしたため、彼女に投げかけてみた。


 会合から二日後、時雨結からメールが届いた。


「お手紙ありがとうございました。

 貴方が望んでいるような答えをお返しすることが出来ないと思いますが、それでも構いませんでしたら、お会いしましょう」


 俺は、求めていた謎にようやく届いた気がして、思わずガッツポーズをして、腕の痛みに悶えた。

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