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二つの刻の中で…  作者: 白い黒猫
2章

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10/10

凍えた空の下で

 空気がキーンという音がするかのように冷えている。

 天気予報で雪が降るという予報も出ているが、本当に降ってくるのではないかという空気が漂っている。

 俺はマフラーを巻き直してから、駅を出て会社に向かう。

 このマフラーは妻が買ってくれていたもの。

 深みのあるチョコレートブラウンを基調に、柔らかなベージュと鮮やかなオレンジが美しく交差するモダン・タータン。男の俺がするには少し派手にも思えるが、単色のコートと合わせるといい感じになるようで、人からの評判もいい。

 元々アニメーターで、絵師としての能力も高かった妻だけに、ファッションセンスも高かったからだと思う。

 妻が亡くなって5年も経つが、新しいマフラーを買うこともなく、使い続けている。


 会社に着くと、挨拶代わりに「寒いですね」という言葉が行き交う。

 社の人は俺のバッグを持ってくれたりと、あの事故以来、かなり周りから気を遣われているのが分かる。

 記憶を辿ってみたら、俺は十和一絵の死に激しいショックを受け、一月ほど会社を休んでいることになっていた。


 何故か、十和一絵が亡くなったことはリセットされることはなかった。

 そして俺は、ループから抜け出していた。


 気持ち悪いのは、ループを脱したことで7月12日に行けたのではなく、日が変わったら11月12日の朝へと飛んでいたことだ。

 十和一絵が亡くなった瞬間から異様だった。俺の脳に、俺がループ世界で過ごした時間の記憶を残したまま、死ななかった俺が過ごしたとされる時間の記憶が流れ込んできた。その気持ち悪さに、俺は立っていることすらできず、蹲るしかなかった。

 橘は、俺が妻と娘を目の前で交通事故で亡くしている過去を持っていることから、今回もそのトラウマが発症したのだろうと判断したようだ。

 後から来た警察や眞光に、そう説明していた。


 そして俺は、目の前で亡くなっている十和一絵に寄り添うこともできず、俺は自分のことで一杯一杯になっていた。

 いきなり脳内に湧き出すように出現した、俺が過ごしていない日々の記憶。

 記憶の容量が一気に増えて、頭がパンクするような恐怖すら感じていた。


 事故の瞬間は気づいていなかったが、俺は慌てて追いかけ、手を伸ばしていたらしい。

 そのせいで右手は車体に擦られ、複数箇所を骨折していた。

 軽症ではなく、治療が優先されたことで、亡くなった十和一絵に何もしてやれなかった。


 俺が我に返った時には、すべて終わっていた。

 そして俺は、リハビリをしながら会社に通っている。

 監督業は少し外してもらって、若い監督の補佐という形で今は活動をしている。


 ループを抜けて一月程経ったが、

 俺はどこか、他人の人生を歩いているような、地に足のつかない時間を過ごしている。

 生きて普通に進む時間を過ごしているということに、違和感しかないからだ。

 あれほど望んだループからの脱出。しかし今の俺には、喜びより喪失感の方が強い。


 昨日の感覚で起こった十和一絵の死のショックも、癒えるわけがない。

 あの追悼コーナーで死んだのは、俺だったはず。

 それなのに、何故それが十和一絵に代わってしまった?

 何をやっても全く終わらなかったループが、何故解消された?

 十和一絵の死は、何故なかったことにならなかったのか?


 今一番思うのは、その事ばかり。

 俺が余計なことをしてしまったから、十和一絵は亡くなってしまった。


 俺が助かったように、何とか十和一絵を生き返らせることはできないのだろうか?

 どうやって?


 俺は会議が終わった後、プロデューサーの佐々木に声をかける。

「佐々木、時雨結先生と連絡とってもらえないかな?

 今度映画化作品を担当することになったから、直接ご挨拶したいんだが。

 しばらく充電期間もらっただけに、いい作品にもしたいから」


 答えを求めて、俺は動き出すことにした。


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