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短編

きらきらさがし

作者: 朔月 滉


 冬の朝は、しんと静まりかえっていました。

 森のあちこちに白い雪がうっすらと積もって、小さなシジュウカラのピコは、大きな木の枝の上で目を覚ましました。


 ふわふわの羽をふるわせて、ピコは大きくのびをしました。

 すると、木のずっと上のほうから、声が聞こえてきました。


「冬の朝は、きらきらしてるねえ」

「ほんとうだねえ。きれいだねえ」


 ピコは首をかしげました。

 きらきら?それって、なんだろう?

 ピコの小さな胸は、どきどきと高鳴りました。知らない言葉は、いつだって、ワクワクするものでした。


「ねえねえ、チロ、クル!」

 ピコは、二匹の友だちのところへ飛んでいきました。


 チロは、木の根元の小さな穴で、こそこそと何かを整理していました。ネズミのチロは、いつもきちんとしていて、何でも知っている、頼りになる友だちです。

 クルは、となりの枝で、ふわふわの尻尾をゆらしながら、どんぐりをかじっていました。リスのクルは、いつも元気で、明るくて、一緒にいると楽しい友だちです。


「きらきらって、知ってる?」

 ピコがたずねると、チロとクルは顔を見合わせました。


「きらきら?光ってるやつのこと?」と、クル。

「たぶん、きれいに光ってるものを、そう呼ぶんじゃないかな」と、チロ。


「わたし、きらきらが見てみたいな!」

 ピコは、ぱたぱたと羽をはばたかせました。

「一緒に、探しに行こうよ!」


「いいねえ!」

 クルがぴょんと跳ねました。

「行ってみようか」

 チロも、小さくうなずきました。


 こうして、三匹のきらきら探しが、はじまりました。



 少し歩くと、川沿いに小さな洞窟がありました。

 入り口には、つららが何本もぶら下がっています。朝の太陽の光を受けて、それはキラキラと輝いていました。


「わあ!」

 三匹は、いっせいに声をあげました。


「これだ! これが、きらきらだ!」

 ピコは大喜びで、つららに近づきました。


 つららは、透きとおっていて、光がとおりぬけて、虹色にきらめいていました。とても、とても、きれいでした。

 でも。

 ピコが小さなくちばしでつつこうとすると、つららは、つめたくて、つめたくて、思わずくちばしを引っこめてしまいました。


「つめたいね」

 チロが、そっとつららに触れて、すぐに手を引きました。


「これ、ずっと一緒にいられないね」

 クルが、少し困ったように首をかしげました。

「すぐ溶けちゃいそうだし、冷たくて、ずっと持ってられないよ」


「きれいなんだけどね」

 ピコは、少ししょんぼりしました。

「これじゃないのかな。もっと、あったかいきらきらがいいな」


「じゃあ、もっと探してみようよ!」

 クルが、ぴょんぴょん跳ねました。

「きっと、ほかにもあるよ!」


 三匹は、また歩きはじめました。



 洞窟から森を抜けて、開けた場所へ出ました。

 そこは日当たりのよい、雪がまだ積もっていない小さな広場でした。地面には、霜ばしらがニョキニョキと伸びています。白い氷の柱が、太陽の光を受けて、きらきら輝いていました。


「わあ、きれい!」

 クルが、目をまるくしました。


「これも、きらきらかも!」

 チロが、そっと近づきました。


 霜ばしらは、細くて、繊細で、まるでガラスの森みたいでした。光に照らされて、それはそれは美しく光っていました。

 でも。

 チロが一歩、足を踏み入れた瞬間、霜柱はサクサクと砕けてしまいました。


「あっ」


 霜ばしらは、氷のかけらになってしまいました。


「きれいだけど」

 チロは、小さな声で言いました。

「ちょっと、かなしいね」


「すぐ壊れちゃうんだね」

 ピコも、しょんぼりしました。


 クルは、明るく言いました。

「次は、もっとあったかくて、壊れないきらきらを探そうよ!」


 三匹は、また歩きはじめました。

 少しずつ、疲れてきました。でも、三匹とも、まだあきらめていませんでした。



 広場からさらに歩いて、森のはずれの小さな丘へたどり着きました。

 ピコは飛べるからよかったのですが、チロとクルは、登るのに少し苦労しました。


「もうちょっと、がんばろう!」

 クルが、チロを励ましました。

「きっと、丘の上には、すごいきらきらがあるよ!」


 三匹が丘の頂上に着いたころには、空の色が変わりはじめていました。

 西の空は、オレンジ色から群青色へと、ゆっくりとけていきます。まだ明るい夕暮れの空に、一番星がぽつりと光りはじめました。


「あっ」

 ピコは、息をのみました。


「あれだ!あれが、きらきらだ!」


 一番星は、遠くて、小さくて、でも、とてもきれいに光っていました。


「取ってくる!」

 ピコは、思いきり空へと羽ばたきました。小さな羽を一生懸命はばたかせて、一番星に、少しでも近づこうとしました。


 でも。

 どんなに飛んでも、星は遠くて、遠くて、ぜんぜん近づきませんでした。高く飛びすぎて、ピコは少し怖くなってきました。


「ピコ、危ないよ!降りてきて!」

 チロとクルが、下から呼びました。


 ピコは、しかたなく地上に降りました。三匹で、星を見上げました。


「きらきらって」

 ピコは、小さな声で言いました。

「こんなに遠いものなのかな」


「きれいなんだけどね」

 クルも、少ししょんぼりしました。


「でも、あんなに遠くても、光ってるんだね」

 チロが、やさしく言いました。

「すごいね」


 三匹は、しばらく星を見上げていました。

 やがて、星がもっとたくさん出てきました。空いっぱいに、小さな光が散らばっていました。


「帰ろうか」

 チロが言いました。

「もう暗くなってきたし」


 三匹は、丘を降りて、森へと歩きはじめました。



 森の小道を歩いていると、空から、ひらひらと何かが降ってきました。


「雪だ!」

 クルが、嬉しそうに言いました。


 雪が、静かに降りはじめました。

 三匹は立ち止まって、雪を眺めました。


「手のひらに乗せてみて」

 チロが言いました。


 ピコは、小さな羽を広げて、雪を受け止めました。

 そこには、とても美しい雪の結晶がありました。六角形の繊細な模様が、光を受けて、きらきらと輝いていました。


「わあ、すごくきれい!」


 でも、その雪は、そっと溶けて、小さな水のしずくになってしまいました。


「きらきらって、すぐ消えちゃうんだね」

 クルが、ため息をつきました。


「でも、きれいだったね」

 ピコは、そっと言いました。

「今日、いろんなきらきらを見たね」


「うん」

 チロとクルも、うなずきました。


 三匹は、静かに、でも温かく寄り添いながら、巣へと向かいました。



 大きな木のうろに、三匹は入りました。

 小さなすき間から、月明かりが差し込んでいます。三匹は体を寄せ合って、温まりました。


「今日は、いっぱい歩いたね」

 クルが言いました。


「つららも、霜ばしらも、星も、雪も、ぜんぶきれいだったね」

 チロが言いました。


「うん」

 ピコは、小さくうなずきました。

「でも、つららは冷たくて、霜ばしらはすぐ壊れて、星は遠くて、雪はすぐ溶けちゃった」


「それでもね」

 クルが、ピコの羽にそっと触れました。

「楽しかったよ」


「そうだね」

 チロもうなずきました。

「一緒だったから、楽しかったね」


 三匹は、笑い合いました。

 そのとき、ふと、ピコは気づきました。


 チロとクルの瞳の中で、何かが小さく光っていました。

 それは、月明かりが映っているだけじゃありませんでした。笑ったときに目を細めて、そこに光が揺れて、まるで小さな星が瞳の中で光っているみたいでした。


 それは、笑い声のあとに残る、あたたかな喜び。

 一緒にいられて幸せだという、やさしい光でした。


 ピコは、やっとわかりました。


 それは、つららよりもつめたくなくて、霜ばしらよりもこわれやすくなくて、星よりも遠くなくて、雪よりもすぐに消えたりしない。


 ずっとそばにある、あたたかな"きらきら"でした。


「ねえ」

 ピコは、小さな声で言いました。

「わたし、やっと見つけたよ」


「なにを?」

 チロとクルが、首をかしげました。


「きらきらだよ」

 ピコは、二匹の目をじっと見ました。

「ずっと探してたきらきらは、ここにあったんだ」


 チロとクルは、きょとんとしました。でも、すぐに、にっこり笑いました。


「そっか」

 クルが言いました。

「わたしたち、きらきらだったんだね」


「うん」

 ピコも笑いました。

「ずっと、一緒にいてくれて、ありがとう」


 三匹は、ぎゅっと体を寄せ合いました。

 木のうろの中は、とても温かでした。月明かりが、やさしく三匹を照らしていました。


 雪は、いつのまにか止んでいました。

 すき間から見える夜空には、たくさんの星が光っていました。

 でも、三匹の心の中には、星よりもあたたかな、消えることのないきらきらが、いつまでも光っていました。





【あとがき】

 お読みいただきありがとうございました。

 『本当のきらきらは、いつも一緒にいてくれる大切な誰かの中にある』をテーマに、初めての童話に挑戦してみました。


 評価やブクマ、感想、リアクションなどいただけると、執筆の励みになりますのでどうぞよろしくお願いいたします。

 ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
物理的な『きらきら』を探しても『所有』しようとする衝動があるので微妙ですよね。 カラスとかは結構ヒカリモノを集める習性があるらしいですし。 因みに霜柱は踏んでも溶けません。と言うか、雪が降り積もった…
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