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第80話 俺は推しをお姫様抱っこしたい

俺と聖は教室に戻り、それぞれの席に腰を下ろす。

……そして、当然のように隣には金髪ギャル、安城恵梨香の姿があった。俺はせっかく忘れていたあの件がフラッシュバックする


"正解はEの全部可愛いでしたぁぁぁああ!!"


(いや待て待て、そうだ忘れてた!!俺安城にドン引きされてる最中だったんだ!?そりゃそうだいきなり横の席の男から安城クイズとか言われたら俺でも恐怖するわ!!)


今日はできるだけそっとしておこうと決意して、席に座ろうとした瞬間、安城が俺をじっと見つめてきた。


どこか心配そうな表情を浮かべながら──


「ねぇ? 朝倉先生、大丈夫だったの?」


どうやら安城クイズの件については何とも思っていないみたいだ。完全に俺の被害妄想だった。俺はホッと安堵しながら安城の問いに俺は答えた。


「ああ……すごく元気になったよ」


過去を受け入れ、前を向いて進み出した彼女は、以前よりもずっと強く見えた。


すると安城は、何か言い淀むように下唇を噛み──


「優しいのね。……お姫様抱っこで連れていったんですって?

よかったじゃない、あんな綺麗な人の"肌"に触れられてさ」


(……私には、そんなことしないくせに……てか私みたいなぶっきらぼうにはお姫様抱っこなんて似合わないわね……)


どこかトゲのある言い方で、ボソッと呟いた。


「な、なんで知ってんだ!?」


俺は思わず声を上げた。


(ちくしょう! あの野郎、聖か!? よりにもよって安城に話すなんて……!)


思わず、親友の方へギロッと睨みを送る。

さっきまで“心の支え”だったのが嘘のように、今や“裏切り者”の顔が浮かぶ。


……だが。


当の本人は、席の下で足をぶらぶら揺らしながら、ぽけーっと空を眺めていた。


「あの〜安城さん……何か怒ってますか?」


俺は、その少し不機嫌そうな彼女の横顔を見て、思わず敬語になる。

たった今、触れてはいけない地雷を踏み抜いた確信があったからだ。


「は? なんで私が怒るのよ。ばっかじゃないの?」


そっけなく言い返してくるが、その態度にはどこか棘と戸惑いが混じっていた。


(もう……なんでこんなにイライラしてるのかしら?

それに……焦り? なに、この感情……)


頬杖をつき、安城は窓の外に視線を移す。

桜の花びらがひらひらと舞う春の空に、何かを託すように。


(この前から……彼の“心の声”が、急に聞こえなくなったし。

もしかして……神田くんって、朝倉先生のこと……)


体育倉庫の件。お姫様抱っこ。

そして、あの先生の“心の声”が、どこか恋する少女のようだった記憶──


不安と苛立ちが混ざり合う中、俺の呪いがふと発動する。


「……あんたは、私だけ推してりゃいいのよ……」


ぽつりと落ちたその言葉に、俺は思わず振り返る。


「ん? 今なんか言ったか?」


「え?べ、別にっ! なんでもないんだからっ!」


安城はバッと顔を背け、赤くなった頬を手で覆う。


(やだ……また私、本音が……!)


──どうやら、如月製薬のあの栄養剤は俺の本音が漏れる頻度が爆増するだけでなく、周囲の“心の声”をも漏らしてしまう頻度も爆増さしてしまうようだ。


俺はふと思った。


(お姫様抱っこか……)


白いウェディングドレスを着た安城。誰かの腕の中で、幸せそうに微笑んでいる――そんな光景が脳内にフラッシュバックする。


(……いつか、安城も誰かにされる時がくるんだろうな……)


チャペルの前、新郎が堂々と彼女を抱き上げる。周囲は拍手喝采、花びらが舞う。そのとき端っこの席でフラワーシャワーを投げる俺。


(ちくしょうが!!俺脇役かよ!!何がフラワーシャワーだよ!!絶対新郎にぶつけてやる!!)


(でも仕方ねぇよな!?こんな最強に可愛い推しだって、いつか誰かと結婚する!世の野獣どもがこんな可愛い子をほったらかしにしてる訳がない!!これは当然に起こることだ!!だから、推しの幸せを祝福する、例え苦しくて辛くてもそれがオタクの使命!)


でもな――


(俺は、安城に彼氏疑惑が出たときですら祝福できなかった卑屈オタクだぞ!?他人の幸せを素直に喜べなかった卑屈だぞ!?)


祝福できるわけがない。

ちくしょう!!俺だって……俺だってな……


(推しをお姫様抱っこしてぇよ!!!あの柔らかそうな太もも!それを俺の握力で鷲掴みしてぇよ!!はっそうか?俺が格闘技をガチってたのは全てはこのためだったのか!?)


「……は!?」


やばい。

この展開は非常にまずい。

このままだと今の妄想が本音でポロッとでるオチ一直線になっている。今の気持ちを例えるなら、降りたい駅に止まらない直通電車に乗車してまったような………


そう思った瞬間、俺の口が勝手に動いた。


「俺も……安城をお姫様抱っこしてぇよ……」


(はい、もう終わった!終点まで行っちまったよ!!)


安城が、まるでスローモーションのようにこちらを振り返る。その瞳は、オッドアイの片方がキラリと光を帯び、思いっきり俺をロックオンしてきた。


「は? え? お姫様抱っこしたい……!? 今、あんた、なんて言ったの……?」


口を半開きにして、照れたような、でもどこか怒ってるような、不思議な顔で聞き返してくる。


(ちゃんと聞こえてるじゃねぇか……でもこのままじゃまずい、せっかく安城クイズの一件から首の皮がかろうじて今繋がってる状態なのに、ここでいらん事いってしまうと完全に推しに嫌われてしまう……こうなったら……)


「いや、何も言ってねぇけど?」


(さすがに無理があるけど、俺の推しに嫌われたくないっていう"パッション"と"迫真の演技"さえあればうやむやにできるはずだ)


だが──推しはそんな生半可な演技には騙されなかった。


「……何も言ってないって? そんなはずないじゃない。はっきり聞こえたもん」


ズイッと詰め寄ってくる安城。


(…… まあいい、何も言ってないって言い続けよう、最終的に安城も根負けするだろう……)


俺はそっとゆっくり口を開く。


「……いやだから……何も………安城をお姫様抱っこしたいって言ったんだよ」


(ちくしょう!!空気読めよ!!どんだけ俺に嘘つかしたくないんだよこの呪い!!もう完全に万策尽きた……俺の推しに嫌われる運命は確定路線らしい)


──それは、安城がふと漏らした呟きだった。


「私なんか……お姫様抱っこして何がいいのよ……そのぶっきらぼうで大して可愛いくもないし」


その瞬間、俺の中で何かが弾け飛んだ。もはや呪い側もびっくりする勢いで俺は自分の意思で本音を語り始める。


「いいや安城、それは間違えているぞ?」


俺はメガネなんかかけていないがメガネをクイッとする仕草をしながら真剣に口を開く。


「まず1つ、私なんかお姫様抱っこして何がいいのよ? これは間違いだ……世の男はお姫様抱っこがしたいんだ! 誰がどうとか関係のないことなのだから!」


なぜか教壇に立ったかのような気分で力説する俺。安城がぽかんとして見ているのも構わず、俺は再びクイッとメガネを上げる仕草をした。ちなみに俺はメガネはかけてない(2回目)


「次に2つ目。ぶっきらぼうという点だ。ぶっきらぼうの子だからこそいいんじゃないか!!」


そして俺は続ける。

安城は口をポカンと開けながら俺をみている。


「普段、そんなことされてなさそうかつ、してしまったら怒るかもしれない女の子をお姫様抱っこする──そんな子の照れた顔がいいんだよ!」


拳を握りしめ、もはや立ち上がらん勢いで叫びそうな俺。情熱に身体が熱くなる。そう、これが俺の“推し論”だ。


そして、3度目の“クイッ”をメガネのない顔でやってしまう。もはや勢い余って、メガネがあったらおでこまでズリ上がってるくらいの気迫で。


「次に3つ目。大して可愛いくないという点だ。ふざけるな! こんな可愛いのに!? 仮に安城が大して可愛いくないと仮定したら、世の中の女性”全員”ブスになってしまうじゃないか?」


その言葉を口にした瞬間、安城の瞳がわずかに揺れた気がした。


「は?ふぇ!?あんたさっきから何言ってるのよ!?ばっかじゃないの!?もういいわよ!!」


(全員って……それじゃまるであんたの中で私が一番………)


顔をトマトみたいに真っ赤にして、安城はぷいっとそっぽを向いた。


そのまま、ふんっと鼻を鳴らして、窓の外を睨みつけるように視線を投げる。


(あぁ……俺の推しは今日も尊い)

その尊さに、今日も俺の心臓は、バカみたいに鳴り続けてる。

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