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第73話 全部可愛いって叫んだら推しに嫌われた件

どうやら――

あの如月製薬の栄養剤は、俺の本音が漏れる“頻度”を爆増させる副作用があるらしい。


(……いやいや、副作用えぐすぎるだろ??もはやプラマイマイナスなんですけど!?)


「あの如月製薬が、そんな俺にドンピシャな変な薬を作るか?」

腕を組み、顎に手を当てて、真剣な表情で考える。その姿はまるで、世界平和について悩む政治家のようだった(少なくとも自分ではそう思ってる)。


一方その頃、俺の“本音連発”を真横で受けていた安城恵梨香は――


「……なっ!? は、はぁ!? ちょっと!? え!??」


目を見開き、真っ赤になった顔を隠すように、ぷいっと視線を窓の外に逸らす。


(な、何なのよコレ……!)

(今まで心の声でボソッと言ってたのを、今は堂々と口に出してる!? えっ、ほんと何なの!?この男に一体何があったの?)


読んでいた本は、いつの間にか手から滑り落ちそうになっていた。

彼女の頬は見る見るうちに染まり、思考は完全にキャパオーバー。


(っていうか、なんで心の声が聞こえないのよ!? 本当にこの男何を考えてるの!?)


彼の突飛な行動と言動の数々――そのどれもが不可解で、混乱を極めていた。

普段なら自然と聞こえてくるはずの“声”が、今はまるで霧の向こうに隠れているかのように、何も届いてこない。


どんな感情で、どんな思考の末に、彼があんな奇行に走ったのか。

想像しようにも、鍵となる「声」が聞こえないことで、すべての手がかりを失っていた。


でも――

(……心の声で聞くのと……直接言われるのじゃ全然違うわね……)


窓に映った自分の頬の赤さに気づいて、思わずハッとする。


(べ、別にっ!? 嬉しいわけじゃ……ないんだから!)

(“可愛い”なんて……そんなの、あるわけ……っ)

(……もぉっ!ふぅ……落ち着きなさい、私……)


すーっ……はーっ……すーっ……はーっ。

深呼吸を繰り返しながら、安城恵梨香は静かに自分を整える。


(よし。もう大丈夫。私は冷静。いつもの私に戻ったわね?)


そう呟きながら、彼女は読書へと視線を戻す。

けれど――活字はただの黒い模様にしか見えない。まるで、心が勝手に別のことでいっぱいになっているように。


そんな時だった。

俺は授業の準備をする際にバッグから教科書を取り出した瞬間、

一枚の紙がふわりと床に落ちる。


「……ん…なんだ?これ?」


それは宿題のプリントだった。

しかも――空白だらけの数学の解答欄。


(……うわっやべっ!!)


思わず視線をそらしながら、

彼の脳内には、自然発火のように“ある思考”が生まれていた。


(数学って……本当に苦手なんだよな。推しのクイズだったら満点取れるのに……)


(何だよ?推しクイズって。ていうか、“安城クイズ”とか突然言って出したら、絶対ドン引きされるよな……想像しただけでも気持ち悪いな……いきなり…横の席の奴が"安城クイズ"ってさすがに…………は!?)


そんなバカなことを考えるつもりなんてなかった。これはもう、反射的な思考。まるで、熱々のヤカンにうっかり触れてしまったときのような反応だった。


(これはやばい……絶対にやばい…)


そう思った瞬間だった。


──キィン、と微かに音が鳴った気がする。


俺の中の“呪い様”が、またしても牙を剥く。

左目の瞳孔がスッと開くような、ゾワッとした感覚。口が、勝手に動いた。


「突然なんだけどさ――安城クイズ、出していいか?」


(ちくしょおおおおおおおおお!!!)


心の中で俺は絶叫していた。

声にならない叫びが、頭の中で何度も反芻する。

どうしてこうなった。なぜ止められなかった。

理性は警鐘を鳴らしていたのに、口も体も勝手に動いていた――


もはや自分自身すら信用できない。

脳内でぐちゃぐちゃに絡まった感情が暴れ回り、

ただ一つ、「やっちまった」という事実だけが、胸に突き刺さる。


(何が“安城クイズ”だよ!? ただでさえ好感度だだ下がりなのに、なんで火に油を注ぐようなことすんだよ俺の口ィィィィ!)


俺の心はいま大火事のように火花が散っている。

そんな中、隣では、安城が本のページをめくる手をピタリと止めていた。


「……え? この男、今なんて言った? 安城クイズ?」


困惑に眉をひそめる安城。その表情が、俺の瞳にくっきり映り込む。


(な、何言ってんだ俺!? “安城クイズ”って何だよ!! バカじゃねぇのか俺!!)


思わず自分の口を両手で塞いだ。体がビクンと震える。

――が、その瞬間、まるで誰かに操られるように俺の腕が勝手に外れる。


「第一問! 安城の一番の魅力はッ!?」


(やめろぉぉぉ!! やばいやばい!! 本気で誰か止めてくれ!!このままじゃ完全に嫌われてしまう!?)


幸いにも教室は賑やかで恐らく安城にしか聞こえていない。安城は一瞬ポカンとしたあと、

顔を真っ赤にして、椅子をきぃっと鳴らしながら立ち上がる。


「はっ!? はぁ!? な、何なのよあんたっ!!」


(もう本っ当今日のこの男、意味わかんないんだけど!?)


……はい、終わった。

俺の青春、ここで終了。突然の打ち切りに意味不明な終わり方をする漫画のような感じ。

もうクレジット流れてもいいレベル。


(もう次回作に期待してくれ………)


それでも止まらない。俺の身体はまるで呪われた人形のように――再び口を開く。


「A.顔が可愛いところ! B.顔が可愛いところ!

C.顔が可愛いところ! D.顔が可愛いところ!!」


(もう勘弁してくれぇぇ!! 選択肢全部同じじゃねぇか!!俺どんだけ推しの顔好きなんだよ!?ちくしょう!!

推しをバカにしてるみたいだろぉぉぉ!!)


安城の顔は熟したトマトのように真っ赤。

これは完全に怒っている。

そして、凍えるような声で呟く。


「あんた……全部の選択肢、一緒なのよ……。

“可愛い”とか、バカにしてんの?」


(やばい。完全に怒ってる。これ完全に詰んだ。俺の推し活、復活してわずか一日で終了のお知らせ。)


頭が真っ白になったその瞬間――チャイムが鳴る。


キーンコーンカーンコーン。


授業がこれから始まるチャイムが鳴り響く。みんなが席に座る中、俺は反射的に立ち上がり、

全ての現実から逃げるように教室を飛び出した。


「はぁっ、はぁっ……やべぇ……絶対嫌われた……!“安城クイズ”とかマジで気色悪い!!俺のバカァ!!」


廊下を全力で駆け抜ける俺。

その途中で――また、あの感覚が来た。


左目の瞳孔がスッ……と広がる。

そして、口が勝手に――


「答えはぁぁぁぁぁああ……!!

Eの!!全部!!可愛いでしたぁぁあああああ!!!!!」


俺の断末魔のような叫びが、廊下中に響き渡った。それはもちろん、教室の安城にも届く。


「〜〜っ……ば、バカっ! アンタなんなのっ、もぉ……っ!///」


顔を真っ赤にしながら、机に突っ伏す安城。

耳まで赤く染まり、手で顔を覆って隠す。


そして俺は――人生で初めて授業をサボった。


(終わった……色んな意味で……)


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