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第72話 ツンな推しに可愛いが止まらない!

「――ねぇ、君!!」


登校中の歩道に、ひときわ明るい声が響く。

聞き覚えのあるその声に、俺は思わず立ち止まり、ゆっくりと振り返った。


そこにいたのは、

銀色のポニーテールを揺らしながら駆け寄ってくる、“天才発明家”のあの銀髪ギャル――だった。


「やぁやぁ! 神田ゆういち君! 元気してた〜??」


にっこりと笑いながら、まるで再会の喜びを爆発させるかのように手を差し出してくる彼女。


「あっ久しぶりです!まぁボチボチですかね?」


咄嗟に右手を差し出すと、柔らかな肌が触れ、

その瞬間――彼女の瞳孔が、スッ……と開いた。


(……まただ)


以前もあった、あの“覗かれている”ような感覚。

俺の中の何かを、ぐいっと引きずり出そうとするような、強い視線。


「うんうん!やっぱり君は……私の“見込んだ通り”の男のようだね?」


「……何がですか?」


理解不能。さっぱり分からん。けど、相手は天才。こっちが考えても無駄だと、俺の脳が早々に判断を下す。


彼女は俺の袖を勝手にめくり、

俺の手首に――無理やり付けられた“例のミサンガ”を見つけて、嬉しそうに叫んだ。


「うんうん! すっごく似合ってる!!

私とお揃いだからさ、まるでカップルみたいじゃない?」


満面の笑み。無自覚なあざとさ。

そりゃあ世の男子たちはイチコロだろう。全く可哀想に。え? 俺? 大丈夫かって?

俺には、推しの安城恵梨香がいる。


(……そう、俺には“推し”がいるから――)


などと自分に言い聞かせていたとき、ふと我に返る。


「――てか、このミサンガ。

取れないんですけど外してくんないですか?」


ちょっとだけクレーム気味に言ってみる。

目の前の美少女にビビってなるものか。俺の“あざとい女耐性”は割と高めだ。


この子に恋して振られた男子たちの無念を、俺が晴らしてやらねばならない。

今ここで、美少女に屈しない俺の強気を見せてやる――!


「あぁ、それね! そろそろ取れるんじゃないかな〜?

ていうかね、私からは外せないんだよ、このミサンガ!」


……なにそれ怖い。俺の弱気な声が心に響く


俺のクレームめいた一言に対して、

まるでスルメを噛みちぎるくらい軽いノリで返してきた銀髪ギャルに、

俺は頭を抱えた。


(……とんでもないもんを、付けられてる気がするんだが)


しかし彼女はそんな俺の不安を意に介さず、

「そうだそうだ!」とまるでテレビショッピングのセールストークのように切り出した。


「最近さ〜、如月製薬って会社と共同で開発してる栄養剤があるんだけど、よかったら試してみない??」


「……如月製薬?」


誰でも一度は聞いたことがある超大手だ。

医療、バイオ、ワクチン、AI創薬――

テレビでもよく特集されてるあの企業。


そんなところと共同開発できるなんて本当に天才なんだと改めて俺は再確認した。


ただ、若干の疑念を抱きながらも、差し出された小瓶を受け取る。

手の中には、見覚えのある青と白の企業ロゴ――KSRGの文字がはっきりと印字されていた。


(……本物っぽいな。怪しいやつじゃなさそうだ)


ほんの少し、疑って申し訳ない気持ちを持ちながら俺は一応お礼を述べる。


「……ありがとう、えっと……」


――そこで気がついた。


(……名前、そういえば聞いてねぇ)


銀髪ポニテの謎ギャル。

天才発明家で、あざとくて、如月製薬と繋がってて……って、属性盛りすぎだろ。

そういえば、今まで自己紹介とか一切なかったじゃんか。


「あのすみません、名前――」


そう尋ねかけた瞬間、彼女のスマホがビリビリ震えた。


「あっ、ごめん! ちょっと急ぎの用事入っちゃったみたいで!

じゃ、また後でねっ☆

あっそうそう!飲むタイミングに決まりはないけど教室入る前とか授業始まる前に飲むとかいいかもね!」


軽やかな声とともに、

白銀のポニーテールが風に舞い、彼女は人混みの中へと消えていった。


「……なんなんだ、ほんと」


俺はその場でしばらく立ち尽くし、

手元のミサンガと栄養剤を交互に見つめた。


(そういえばあの人ウチの学校に転校してくるって言ってたし、その時に名前分かるだろう)


そんな一抹の不安と、ほんの少しの期待を抱きながら、俺はようやく学校にたどり着いた。


銀髪ギャルからもらった栄養剤を俺は手のひらに出して見つめた。


(ほんとに大丈夫だよな……?)


一瞬だけ躊躇したものの、如月製薬のロゴが信頼の証となり、

俺は勢いで――ぐいっと一気に飲み干す。


ほんのり甘くて、スポーツドリンクのような味だった。意外とイケる。


そして俺はついに――教室の扉を開けた。


――ガラッ。


目線はまっすぐ**“あの席”**へ。


(……いたっ!!)


そこに座っていたのは、俺の青春の全て、

心の拠り所、努力の原動力、

つまり――推し・安城恵梨香。


(あかん……今日も推しが可愛い)


遠目から見ても分かる。今日も俺の推しは確定で"可愛い"と。

俺は内心でガッツポーズをキメながら、

俺は思い出す。昨晩、公園でのあの夜。


――推しに、彼氏が、いなかった。


(推しに彼氏がいない……! 彼氏がいないっ!!)

(これって俺は遠慮なく推し活ができるんだよな!?)


にやけそうになる頬を全力で引き締めながら、

俺はそっと席に座る。


……その瞬間だった。


「――おはよう」


静かな、でもしっかりと通る声。

本を読みながらも、一瞬だけこちらに視線を寄越したその声の主は――もちろん安城だった。


(まさかの推しから挨拶とか…はい、今日一日最高の日確定!!)


しかも“昨日の公園”なんて一切なかったかのような、クールでいつもの安城。

でもいい。むしろ最高だ。


(俺と違って全然昨日の出来事なんて全く気にしてない感じもまた可愛い……)


ツンツンしてるのに優しさがにじみ出てる、その感じ……もう、**解釈一致。**満点。全力推し。


(……っと、落ち着け俺。変な顔するな)


俺は深呼吸しながら教科書を開くふりをする。


だがそのとき――

(やっぱり……まだ、彼の心の声が聞こえないわね)


隣の席の安城は、本のページをめくりながらも、内心でそっと息を飲んでいた。


(この前までは……聞こえたはず。彼の声だけは、いつもまっすぐで――うるさいほどに、まっすぐで)


(でも今は……なぜか、まったく聞こえない)


視線をちらりと、彼――神田ゆういちへ。

無防備な表情でこちらを見つめていた。

そんな彼女の内面でのシリアスな状況もお構いなしに俺の左目の瞳孔が空気を読まないようにスッと開いた。


「――本当にツンツンしてる推しって可愛いよな〜〜〜」


(…………は?)

(……あっ、やっべ。口に出してた……)


教科書で顔を隠しながら、俺は静かに絶望した。


「な、ぬわ!?」


安城の瞳が見開かれ、手に持っていた文庫本がわずかに揺れる。


「あ、朝っぱらから……何、言ってるのよ、あんた……っ」


先ほどまで冷静沈着にページをめくっていた手が、今は微かに震えている。

その姿がまた、推し補正で二割増しに可愛く見えるから困る。


やべえ、口が滑った。とにかく言い訳しないと――

……って思ったのに、俺の口が、勝手にさらに開いた。


「昨日の夜、公園であんなに可愛い姿見せてくれたのに……今日になったらまるで何事もなかったように凛としてるとかさ……さすがに可愛すぎだろ? あんなに照れてたくせにさ……」


「なっ……え?あ、あんた、何言って……」


(え?何?急に?この男本当に何考えてるの?)


赤く染まっていく安城の頬。

その目尻がわずかに震えて、今にもツッコミを放ちそうな空気が漂ってくる。


なのに俺は、さらに畳みかけるように――心の底から、思ってもないことじゃなく、“思ってたこと”を呟いた。


「でもさ、ヤンデレっぽい安城もマジで可愛かったよなぁ……。ほんとに……」


“ぽろっ”と漏れるようなその言葉に、安城の肩がビクリと跳ねる。


――ダメだ。

おかしい。

いや何がおかしいかって本音がポロっと出てしまう本音の頻度だ。明らかにいつもより増えてる。


止まらない暴走モードに焦る俺。けど、口は容赦なく次の爆弾を投下する。


「俺が国の偉い人だったら、あの可愛さを世界遺産に登録してるわマジで……もう何とかとかいらんやろ?安城とチェンジで」


「~~~~っ!!」


安城のこめかみにピクリと青筋。完全に限界寸前。それでも俺の口は止まらない。


「顔も可愛いし、スタイルも良すぎだし、ホント芸能人になった方がいいって!……いや、待てよ?芸能人になって学校来られなくなるのも困るな……やっぱり今のなしで!」


「~~っっっ!! ちょ、ちょっと黙りなさいよ!!ばかっ……!」


顔を真っ赤にした安城が、ついに読んでいた本で俺の頭をペシッと叩いた。


が、痛くない。

むしろ、それすらもご褒美に思える自分がいて、ダメージを受けるどころかむしろ回復してる自分が心底恐ろしい。


(……これあかん、マジでおかしい。本音が漏れる頻度が爆増してやがる……)


ようやく冷静になった俺は、ここ数分の暴走を振り返り――ある“疑惑”にたどり着いた。


(……あの薬、まさか……)


そう、登校前に飲んだ、銀髪ギャルにもらったあの栄養剤。俺はごくりと喉を鳴らした。


(あれのせいで……本音が漏れる呪いの頻度増えてねぇか!?)

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