表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/121

第61話 天才発明家と、心を遮断するミサンガ

「お兄ちゃん、いってらっしゃい〜!」


林間学校から帰ってきた妹・姫花に見送られ、俺は玄関を開ける。

今日は代休らしく、あいつは学校を休みだ。羨ましい。


「……うわぁ、眠てぇ」


あくびを噛み殺しながら通学路を歩いていたそのとき――ふと、視界の端に妙な光景が飛び込んできた。


銀色の髪が朝日にきらりと光る。

そこに立っていたのは、一人のギャル。


(……なにやってんだ?)


赤と青、二つ並んだ自販機。その前で彼女は腕を組み、真剣な顔で悩んでいる。


「うーん……おかしいな?なんで商品がでてこないんだ?」


そう呟いたかと思うと、赤色の自販機に小銭を入れた――のに。

押したのは隣、青色の自販機のボタンだった。


……なるほど。バカだ。


(これはあれか……天然ってやつか)


なんども青の自販機にボタンを押す彼女を見かねた俺は、思わず声をかけていた。


「あ、あの……すいません。赤い方にお金入れたんで、赤い方で押さないと……出てこないですよ?」


至極当たり前のことを言ったその瞬間

銀髪ギャルがぱちりと瞬きをして、ゆっくりと振り返る。


――その瞬間、息を呑んだ。


銀髪の髪が宙に靡く。

そして、左右で色の違う瞳。片方は澄んだ水色、もう片方は深い紫。


まるで異世界から切り取られたような、美しすぎるオッドアイのギャルが、そこにいた。


「ん〜!!ほんとだ!!おかしいと思ったんだよね!全く紛らわしいな〜!あたし、海外暮らしだったからまだ日本に慣れないんだ!」


元気いっぱいに笑うその姿は、まるで明るいギャル。銀髪にオッドアイという神秘的な容姿と、底抜けに陽気な性格が不思議に噛み合っていた。


「……海外暮らしはあんまり関係ないと思いますけど」


気づけば俺は、思わず突っ込んでいた。


「ありゃりゃ!これは一本取られちゃったね!」


彼女はおどけたように頭に手を当てて、へへっと笑う。その様子は、周りの空気まで明るくしてしまうみたいだった。


「……その制服、うちの学校ですよね?」


「一年で見かけないので二年生か三年生ですか?」


「そうそう!その通り!実はね、海外の大学で教授やってたんだけど、つい先日帰ってきたんだ〜!これでも最年少教授なんだよ!?」


「……教授!?」


あまりにサラッと言うから耳を疑った。

どうやらこの陽気すぎる銀髪のギャルは――本当に“天才”らしい。


「そうそう!感応科学っていう学問と工学の研究をしてるんだ!発明品とか作ってたんだ〜

普通はね一つの専門分野を研究するんだけどね〜私の場合は二つ専門分野があるんだ〜」


「どんな研究してるんですか?」


俺は興味深々に食いついた


「ん〜とね!工学の分野では今"タイムマシン"を作ってるんだ!!私ロマンを追うのが好きなんだ!!」


まるでお菓子の新作を自慢するみたいな軽さで、爆弾発言をさらっと口にする。


「……は?」


頭が追いつかない。教授? 発明家? タイムマシン?どう聞いても冗談にしか聞こえないのに、彼女の瞳にはまったく嘘がなかった。


「今はね"とある症状"について研究するために日本に戻ってきたんだ! だからその間、日本の高校で学生するつもり!……研究ばっかの日々だったから楽しみなんだ〜花のJK生活♡」


銀髪を揺らして笑う彼女は、どうやら本当に“天才”らしい。そんな彼女が、陽気に俺へと手を差し出してきた。


「まぁまぁこれからよろしくね!!」


勢いに押され、俺も自然と手を伸ばす。


――その瞬間だった。


彼女の片方の瞳孔が、すっと開いた。

空気が一変する。さっきまでの明るさが嘘のように、異質な静寂があたりを包み込んだ。この感覚に俺はどこか見覚えがある。


銀髪ギャルはじっと、俺を見ている。

いや……違う。


俺を見てるようで別のものを見ている。

そう、俺の脳の奥底を、直接のぞき込まれているような感覚。


背筋に冷たいものが走った。


「へぇ……なるほどね…気に入った!!」


彼女がぽつりと呟く。

何が“なるほど”なのか全然わからない。けれど確かに、あの瞬間――何か異質な力が働いた気がした。


「あっそうだ!そうだ!お近づきのしるしに君にはこれをあげるよ!」


差し出されたのは……紐?


(なんだこれ?……ミサンガ?)


手に取った瞬間、違和感が走る。

ただのミサンガにしては、やけに重たい。

光沢も妙に金属的で……いや、これは“ミサンガ風のブレスレット”だ。


「どう?どう?可愛いでしょ〜??気に入ってくれた??ちなみに私とお揃いだよ!!」


陽気な笑顔でぐいぐい迫ってくる彼女。


「せっかくだし、私つけてあげるよ!」


そう言って、俺の手首にブレスレットをかけようとする。慌てて俺は抵抗した。


「いやいや!ネックレスとかブレスレットって校則違反ですよ!やめときます!怒られるの目に見えてるんで!!」


「大丈夫、大丈夫!誰がどう見ても、ただのミサンガにしか見えないからっ!」


にっこり笑いながら、強引に俺の手首に装着してしまう。


(まあいいや……後でこっそり外そう)


心の中でそう決意する俺をよそに――


「はいっ!できた!めっちゃ似合うじゃん!!」


彼女は満足げに手を叩いた。


「じゃあね!そろそろ私行くね!来週から編入だからよろしくね!」


彼女は最後まで明るい雰囲気を振りまきながら、手を振って去っていった。まるでパリピ系女子そのもの――。そんな印象を残して。


俺もその背中を見送りながら、学校へ足を進める。


(なんか凄い人だったな?……てか、そろそろ外さないとな)


歩きながら、さっきの“ミサンガ風ブレスレット”に指をかける。


カチ、カチ。


(は? ……外れないんですけど?)


何度も試すが、びくともしない。紐の結び目が固いとか、そういうレベルじゃない。まるで手首に吸いついているかのように、離れないのだ。


「……おいおい、冗談だろ」


焦りながらも、ちょうど長袖のシャツを着ていたことに気づく。布で隠せば、なんとかバレないだろう。そうしてごまかすように袖を引っ張り、俺は教室へと足を踏み入れた。


その瞬間、昨日の数学のノートのことを思い出した。


(……そういえば安城に貸したままだったな)


(……絶対あの似顔絵見られたよな!?ちくしょう!俺の馬鹿やろう!!一体どんな顔してあえばいいんだよ!?)


俺はパニックで頭を抱える。

そして俺はある結論に至った。


(よし、何事もなかったようにしよう)


そう決心して教室に入り席に着く。

ちらりと視線を横にやると、本を開いていた安城が顔を上げる。その鋭いオッドアイが、ほんのりと俺をとらえた。


(あっ……きたきた。昨日のノート返さないと……ふふ、一体どんな反応するかしら?)


どうやら俺の反応が気になるようだ。

俺はそれに気づきもせず、自分の席へと腰を下ろす。


その瞬間。


「……え?」


安城の眉がかすかに動いた。

彼女の顔に、これまで見たことのない“戸惑い”が浮かんでいた。


(えっ…なんで心の声が……聞こえないの?)


まるで透明な壁が立ちはだかったように、俺の思考が遮断されている。安城にとっては当たり前の“雑音”――それが、俺からは完全に消えていた。


机の下、シャツの袖で隠した“あのブレスレット”が、じわりと熱を帯びている気がした。

それはまるで、俺だけに聞こえる心臓の鼓動のように、確かな存在感を主張していた。


――銀髪のオッドアイギャルとの出会い。

その瞬間こそが、俺たちの物語の幕開けだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ