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第56話 スカートの中のロマンを追い求めた男の末路

ガラガラッ――!!


教室のドアが勢いよく開いた。

瞬間、クラス中の男子がざわつく。


「え、誰あれ!?めっちゃ美人じゃね!?」

「まさか新しい転校生?」

「ってか、如月じゃね!?……男、だよな!?」


そんな熱狂の中で――


ブレザー+スカート姿の如月 聖が、顔を真っ赤にして下を向きながら、

早足で俺の席にまっすぐ向かってくる。


「ゆ、ゆういちっ!」


「これは違うんだ!ほんとに、違うんだってば!」


必死すぎて逆に怪しい。でもそれはそれで可愛い。

聖は潤んだ目でこちらを見ながら、早口で言い訳を始めた。


「保健の先生が……僕を、女の子だと勘違いして……っ!」


「ちゃんと男の制服着てたはずのに……もぉ〜……恥ずかしいよ〜……!」


顔を覆ってしゃがみ込み、膝を抱えて小さくなったその姿。

そのわずかな隙間から、スカートの裾がふわりと揺れて――


(あかん。これは反則や。)


俺は、内心で叫んでいた。


「ゆういちは教室戻ったし……制服、洗濯中だし……だからもう、このままで来るしかなかったんだよ〜!携帯に電話をかけてもでないし!」


俺は携帯を確認すると通知が20件程きていた。どうやら相当焦っていたらしい。


手をバタバタさせながら、必死に弁明してくる聖。


(……もう!ゆういちに、女の子ってバレたら……私、この学校にいられなくなるよ)


教室に満ちるざわめきのなか、聖の心の声は、ひっそりと、でも確かに――安城恵梨香の耳に届いた。


その弁明の動きにつられて、スカートがまたひらりと揺れる。


(……そして、見える生足。)

(毛の一本もなく、すべすべしてそうで――)


(いやいやいやいや!!)


俺はあわてて自分の中の理性に急ブレーキをかける。あやうく事故るところだった。


(落ちつけ!俺!男やぞ!?こいつは男やぞ!?)


でも、目が……目が離せない。

俺は、教室のど真ん中で、最大級の試練を迎えていた。


それでも、俺は男として――否、“紳士”として――こうするしかなかった。


腕を組み、目を細め、まるで何か深遠な哲学でも思索しているような表情で、

席に座りながら神妙な顔を作る。


(これはあれや。安城と聖にバレないようにせめてもの抵抗として、神妙な顔をして、腕を組み、明らかにスケベな事を考えない装いをするしかない………)


俺はまるで名俳優の様な演技で、聖の生足を堪能していた。その素振りはまるで進路に俳優を視野に入れようと考えるほど巧みだった(主観)

よし、完璧だ。誰にもバレていない。……はずだった。


「………………」


視線を感じて、隣をちらりと見た。


そこには――

金髪オッドアイの美少女・安城 恵梨香が、教科書を閉じ、じっとこちらを睨んでいた。


「ねぇ……あなた、今――やらしいこと考えてたでしょう?」


(……あんた、私を推してるんじゃなかったの?)


(べつにどうでもいいけど?別にいいけど?あんたが誰を見ようと……)


(でも――なんか気に食わないのよね)


金髪のオッドアイが俺を射抜くように見つめる。

教科書を閉じ、机に肘をつき、明らかに不機嫌な顔で安城 恵梨香がそう言い放った。


(ひぃっ……やばいやばい。なんでバレてんだ!?名探偵か?)


視線の鋭さがまるでカミソリ。

俺は心の中で土下座してた。いや、もう本当に正座したほうがマシかもしれない。


「な、なんも考えてねぇって!!」


焦りすぎて声裏返ったわ俺。


「だって男だぜ?聖って。男がスカート履いてるってだけで……そ、そんなの普通に全然――似合って……」


……あ。


俺は口にしかけた言葉を飲み込んだ。

そのとき、聖の方をチラッと見た。


そこには――


少しうつむいて、寂しそうに微笑む如月 聖の姿があった。


まるで「似合ってるよ」「可愛いよ」って言葉を待ってる――そんな、乙女の表情で。


(……うそ、だろ)


心臓が、ドクンと鳴る。


でも、俺は知ってる。このタイミングで“似合ってる”なんて言ったら、

安城からは「やっぱりやらしい目で見てたんじゃない」ってトドメを刺されるやつだ。


俺は……推し(※安城)に、スケベだと思われたくないんだよッ!!!


(すまん聖……!お前のスカート姿、マジで家宝にして後世に残したいレベルに可愛いけど)


(でもここで言ったら、俺は間違いなく推しに変態認定される!)


(だから……俺は……!)


「……すげぇ似合ってるよ、聖。めっちゃ可愛いよ」


うん。知ってた。最近の流れ的にそろそろ本音出ちゃうじゃないかな〜て思ってたところ。俺はどうやら謎の病気なのか呪いなのか本音をポロッと話してしまう。


自分の口を塞ぎたかった。でももう遅い。教室には俺の声が響いてしまった。


安城の視線が、さらに冷たくなる。


(バカ…変態……私のスカート姿には…何も言わないくせに)


安城の視線で静かに刺さる中、

聖は、まるで言葉が耳に残って離れないかのように、小さく俯いていた。


「すげぇ似合ってるよ、聖。めっちゃ可愛いよ」


その一言が、思った以上に破壊力を持っていたらしい。


「――はぁ!?ゆういちのバカッ!!バカバカバカ!!」


聖が顔を真っ赤にして、怒鳴る。

……けれど、その目元は嬉しそうに緩んでいた。


「ぼ、僕は男なんだよ!?全然嬉しくないからねっ!」


(……ほんとは、めーちゃっ!嬉しいよ!ゆういちもういっかい言って♡もういっかい言って♡)


心の声は、誰にも聞こえない。――安城以外には。


学校では“男子”として振る舞っている聖にとって、

「如月 聖」というこの姿で**“可愛い”と言われること**が、どこかくすぐったくて――


心が、ふわりと跳ねた。


怒っているように見えて、

照れ隠しのバタバタとした身振り。


その動きに合わせて、スカートの裾が、ひらひらと舞う。


(……あれ?)


俺の中に、ある仮説が浮かんだ。


(これ……もしかして、スカートの中、見れるんじゃね?)


(でも、落ち着け俺。これは別にスケベ目的じゃない…自分の仮説を検証する…そうこれは、科学的な実験だ。科学的な実験なのだ(二回目))


(そもそも聖って、見た目も仕草も中身も女の子っぽいし、実は女の子説、あるんじゃね……?)


(なにか理由があって、男のフリしてる……とか?)


俺は腕を組んだ。

神妙な顔つきで、スカートの動きを見つめる。


(……うむ、実に興味深い実験だ)


今の俺は、変態ではなく、科学的探求者。博士である。まるで論文を書く勢いで俺の集中力が加速する。


ただし、その顔はどう見てもスケベのそれだった。


(あと……もう少しだ。あともう少し――!)


揺れてる。

聖のスカートが、左右に小さく……でも確実に、神聖なその布地が“可能性”を秘めて揺れている。


(いける……いけるぞ……!)


俺の脳内では、見えそうで見えないその絶妙な距離感が、臨界点の興奮を呼び起こしていた。


そのとき――


ふと、脳裏にフラッシュバックしたのは――


(そうだ……蜂須賀さんの、あのスカートが風でめくれた奇跡の瞬間……!)


あの春の突風。あの奇跡の5秒。

(風だ……!風があれば……いける……!!)


ちょうど雨がやんだタイミングだった。

しかも今は窓際の席。風の通り道。


これはもう、運命が俺に「やれ」と言っているのでは?


(風よ……風よ吹け……!)


俺は心の中で風の神様に手を合わせ――いや、地面に額をつけて土下座した。


その瞬間、


「バシッ!」


まるで俺の心が折れるような小さな音が教室に響いた。


驚いて顔を上げると――

窓が、閉じていた。


閉めたのは――そう、


「……気をつけなさい、如月さん」


バシッ!と音を立てて窓を閉めた、安城 恵梨香。


俺をギロッと睨みつけ、冷たい声で続けた。


「そこの変態博士さんはあなたのスカートの中覗こうとしてるわよ?」


聖が、ピタリと動きを止める。


さっきまで嬉しそうにくるんくるん揺れていたスカートが、

まるで嘘のようにゆっくり、静止した。


「………………」


聖の顔が、見る見るうちに赤くなっていく。


「ゆういちの、バカぁぁぁぁああっ!!」


バチンッ!!

拳が、俺の頬を撃ち抜いた。


(……いてぇぇぇぇぇぇっっ!!!)


「もう知らないっ!」


そう叫びながら、聖は顔を真っ赤にして横を向くと、フンッと鼻を鳴らし、そのまま自分の席へと歩いていった。


「………………」


そして俺は、

ほてった頬を押さえながら、心の中でそっとつぶやく。


(科学の実験に、失敗はつきものだ――)

そう、俺は……変態ではなく、ただのロマンを追った学者だったのだ。

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