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第27話 男なんて全員、豚っちゃん

その夜、朝倉華恋の部屋にて。


「……ただいま〜」


一人暮らしのワンルーム。誰もいない部屋なのに、口をついて出た言葉。


シャワーでも浴びようとパーカーを脱ぎかけたそのとき――


スマホが鳴る。着信画面には、懐かしい名前。

お風呂の準備をしようとしていたところに、スマホが震えた。


「……お兄ちゃん?」


通話を繋いだ瞬間、テンション高めの声が耳を打った。


『おっ、最愛の妹よ! 可愛い妹がちゃんと元気にしとるかと思って、電話してみたぞ〜』


「なにそれ、ウケる。……いつも通り、可愛くて元気よ?」


『ははっ、相変わらず自分の可愛さに疑いがないな』


「当然っちゃろ?」


『おっ、博多弁、ひさしぶりやね!てか東京来て何年経ったっけ?』


「んー……高校卒業してすぐやけん、もう……五年くらい?」


『そうかぁ。あのときは、お前、アイドル目指すっち言って上京したんだもんな。懐かしか〜。今じゃ学校の先生とか、びっくりやわ』


 ――その瞬間。


「……その話は、やめて」


声のトーンが、ふっと落ちる。

いつもの強気な華恋の響きが、微かに揺らいだ。


『……あー、ごめんごめん! 深く考えずに言った。悪かったな』


兄の声に、わずかな後悔の色がにじむ。

でも、空気を変えるように、すぐにおどけた調子へと切り替えた。


『でさ、話変わるけど。彼氏のひとりでも、できたんか?』


「彼氏なんて、いらんよ。それに……男、まだちょっと苦手やし」


『いやいや、こんだけ見た目よくて、なんで今まで一人もできとらんと!? 逆に珍しかばい』


「もう……ほっといて!」


『じゃあさ、最近ちょっとでも“かっこいい”って思った男とか、おらんかったと?』


「は? いるわけ――」


……その瞬間。

脳裏に、朝のあの光景がよみがえった。


階段から崩れそうになった自分を、無言で受け止めてくれた、あの腕の感触。

静かに支えられたぬくもりと、真っ直ぐな目。


(なっ……なんで今、あいつの顔が浮かぶとよ……!?)


「……いるわけ、ないやろっ! もうっ、じゃあ切るけんっ! バイバイっ!!」


そう叫んで、勢いよく通話を切った。

スマホをベッドに放り投げ、枕に顔をうずめる。


「……なんで。なんで、あんな豚のことなんか思い出すとよ……」


頬が熱い。心臓がやけにうるさい。

そして、口をむっと曲げながら、ぽつりとつぶやいた。


「……男なんて、全員、豚っちゃん」


その声は、どこか震えていた。

“恋”なんて、そんなもの。


彼女はまだ知らない。

その否定こそが、すでに――新しい“はじまり”だったことを。


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