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第25話 推しがうちに泊まった朝、俺の理性は限界突破した。

キッチンからふわっと香る、あたたかい朝の匂い。

 ゆういちはダイニングに座る安城を見て、思わず息を呑んだ。

 白いワンピースが朝の光をふんわり受けて、まるで絵本から抜け出してきたみたいだった。


(……やっぱ、似合いすぎだろ)


 自然と口が動いていた。


「……おはよう、安城。そのワンピース……すげぇ似合ってるよ」


 少し照れながら、頬をかいて言うと――


「ありがとう。私も気に入ってるわ。……男の子からプレゼントなんて、生まれてはじめてよ」


 いつも通りのクールな表情のまま、安城はさらりと答えた。


 その瞬間、ゆういちの脳内でレベルアップ音が鳴り響く。


(な、なにこの満足感……!? 推しに喜んでもらえるって、こんなに尊いのか!?)


(今ので俺の人間レベル、1から99まで一気に上がったわ……!)


「……って、どんだけレベル上がってんのよ」


 無表情のまま、パンをかじる安城が即ツッコミ。


「てか、元のレベル低すぎでしょ」


 さらに――


「そうよ!お兄ちゃんはもっと高いよ!……6から99くらいよ!」


 笑顔でフォローを入れてくる妹・姫花。だが、それはフォローではなく、ただの追い打ちだった。


「フォローしてんのかトドメ刺しにきてんのか、どっちかにしてくれないか?」


 ゆういちは軽く頭を抱えながら、姫花の「えへへー」に敗北を悟った。


 食事も終わり、安城が立ち上がる。


「……もう帰るのか?」


「ええ。朝ごはんまでご馳走になって……本当にありがとう」


そう言って、玄関でふっと微笑む安城は、

まるで“夢の続き”が目の前に立っているようだった。


ドアが閉まり、リビングに残されたのはゆういちと姫花のふたり。


 その姫花が、ふとスプーンを置いて声を上げた。


「安城さん〜、お料理教えてくれてありがとう! めっちゃ勉強になったよ!」


「ふふ、どういたしまして」


「また何かあったら、“LINE”するね?」


 

 ――カチン。


 ゆういちの箸がピタリと止まった。


(……LINEだと?)


(ま、待てよ……俺、安城のLINE知らないぞ!?)


 思わず漏れた心の声。


「……LINEだと?」


 つぶやくゆういちに、姫花はきょとんとし、

 安城は、コーヒーを飲みながら、心の中で静かに返す。


(聞かれてないからよ……)


(…こうなったら姫花に後でこっそり教えてもらうか)


悶々としながら、箸が再び動き始めた、その瞬間――


「そうそう、姫花ちゃん」


 安城がさらりと言った。


「私のLINE、あまり他の人に教えたりしないでね?」


 ――カチン。


 またしても、箸が止まる。


(……け、牽制!? 今の、牽制!?)


(俺の心、読まれてるのか……? いや、まさか……いやでも……)


 心の中で混乱が爆発しかけたそのとき。

 ゆういちは、ひとつの覚悟を決めた。


(……もう、自分で聞くしかない)


(でもあの安城が相手だ。「え? なんで?」とか、冷たく返される可能性が……)


 想像だけで胃が痛い。


(だけど! 推しと! LINEしたいっ!!)


 意を決して、彼は言った。


「……あのさ、安城。俺とも……LINE、交換してくれないか?」


 一瞬の沈黙――そして、


「ええ、いいわよ」


 即答だった。


「……え、あ、ありがとう!」


 目を泳がせつつ、なんとか交換完了。


(これが……“推しとLINE”の感触……ッ!)


 心の中でガッツポーズを決めるゆういち。


 「じゃあ、そろそろ帰るわね。朝から、ありがとう」


 手を振って去っていく安城の背中が、

 今朝見た夢よりも、現実の方が甘いことを教えてくれる。


 その日の夜。


 ゆういちは、何度も文章を打っては消してを繰り返し、ようやく一通のLINEを安城に送った。


『今日はありがとう。ワンピース、ほんとに似合ってた』


 ……送信完了。


 画面の「既読」の表示を、祈るような気持ちで見つめ続ける。


 ――そして。


 表示は、変わった。


 既読。


 ……だけど、それっきりだった。


(……あれ?)


静かに、心の中で崩れ落ちるゆういち。


(今朝のあの空気、夢じゃなかったよな? なあ、そうだよな?)


だが、返事はこない。


スマホを伏せて、ベッドにダイブ。


「……推し活って、こんなに……心臓に悪かったっけ……?」


 その夜、ゆういちは眠れなかった――。


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