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第11話 金髪ギャルの正体は、全国優勝の"心眼の剣姫"だった件

昼休みの喧騒の中――

俺の胃袋は、完全に安城に鷲掴みにされていた。


目の前に並ぶのは、彼女の手作り弁当。

その中でも、ひときわ存在感を放っていたのが――卵焼き。


たった一口で、俺のバカ舌は目覚めた。

いや、覚醒した。悟った。進化した。


(可愛い上に料理もできるって……

 可愛い上に料理もできるって……)


そんな俺の呪文は、いくら唱えたところで何も起こらない――

そう思っていた、その矢先だった。


隣の安城が、すっと視線を落とし、

スカートの裾をギュッと握りしめていた。


頬はほんのり赤く、耳まで熱を帯びている。


(も、もう……なんなのよこの男……

 さっきから “可愛い可愛い” ばっかり!!)


頬を赤くして俯く彼女が気になって、思わず心の中で呟いたその矢先――

話題を変えるかのように、聖が勢いよく俺へ話しかけてきた。


「そういえばさ、ゆういちってさ、部活、決めたの?」


白髪の美少女(男)はもぐもぐパンを頬張りながら、キラッとした目で無邪気に問いかけてくる。


「やっぱ中学と同じ、バスケ部に入るの??」


その瞬間――俺の胸がチクリと痛んだ。


(あぁ……そうだ。こいつ、知らねぇんだったな)


“本郷愛理”――中学時代、俺が本気で惚れた女の子。


盛大にフラれて、最後は親友の真田蓮也に奪われるという、笑えないオチつき。

……そして何が一番トラウマかって――


笑ってたんだよ、あのときの愛理。俺を振るときに。


いや……もしかしたら、記憶違いかもしれない。

あんなのは幻だったのかもしれない。


それでも――たとえ幻でも。

あの笑顔だけは、今もずっと俺の心を刺し続けている


「……わりぃ。バスケは、もうやらねぇんだ」


無理やり笑って、そう答えた俺に、

聖は“今日いちのびっくり”って顔で勢いよく食いついてくる。


「えぇ!? あんなに頑張ってたのに!?

放課後もずっと練習してたじゃん!」


――そうだ。

誰よりも夢中になってた。誰よりも、好きだった。


(……そりゃ、知らねぇよな)


アイツは知らない。

俺が、バスケごと“青春”を投げ捨てた理由を――

何ひとつ、話してこなかったんだから。


視線を逸らすように横へ向けると、そこには――

金髪をふわりと揺らしながら、黙々と弁当をつついている安城の姿があった。


……でも、ほんの一瞬。


彼女の横顔が、

ほんの少しだけ――寂しそうに見えた。


(……あれ?今安城……どうしたんだ)


安城の、あの一瞬見せた表情が気になって――

つい、口が勝手に動いていた。


「安城は……何部、入るんだ?」


(可愛い上に料理ができて、成績優秀……

 もう何が来ても、さすがに驚かないわ……)


心の中でそう呟く俺の問いに、

彼女は箸を止め、静かに答えた。


「私は、剣道部よ」


その瞬間――

金髪ギャルというビジュアルと、“剣道”という単語のギャップが、

容赦なく俺の脳を殴った。


今世紀最大に驚いた。


「え!?!?」


思わず、変な声が漏れる。

いや、漏れるしかないだろ……!


金髪美少女 × 剣道。


その組み合わせ、反則級にカッコよすぎるだろ……!


(可愛い上に料理ができて、その上剣道部……

 可愛い上に料理ができて、その上剣道部……

 可愛い上に料理ができて、その上剣道部……)


同じフレーズを呪文みたいに繰り返していたら――

突然、頭の中に電流が走った。


(……はっ!?)


(このスラッとしたスタイルに剣道着……

 絶対に可愛いに決まってる……!


 面をつけていても、マスクの隙間から覗く圧倒的ビジュアル……

 あの雰囲気で竹刀を構える姿……絶対に反則だろ……


 ていうか俺、攻撃なんてできねぇ……

 いやむしろ、もう俺が攻撃“されてる”と言っても過言ではない!!)


完全に妄想が武道大会を始めていた。

もちろん、その心の声は安城に届いていた。

そんな声に安城は呆れながら心で呟いた。


(……この男、また訳わからない事をベラベラと……)


俺は、自分の心の声が彼女に聞こえているなんて夢にも思わず、

完全に欲望に支配されていた。


(……見たい。マジで見たい……!

 安城の剣道着姿!!)


(よし、今度放課後こっそり覗きに――)


その瞬間――

隣で弁当をつついていた安城が、ビクッと肩を震わせた。


「――はっ!?」


思わず素の声を漏らし、俺の方をバッと見た。

俺はポカンとしたまま、状況が飲み込めない。


「安城……どうしたんだ??」


咳き込む彼女に慌てて声をかける俺。

安城は小さく咳払いをして、何事もなかったかのようにおかずを箸でつまむと、

そっと口元へと運んだ。


頬に残る赤みを隠すように、ほんの少しだけ顔を背けながら。


(……ちゃんと、窓、閉めておかないと)


その瞬間――


「え、ゆういち、知らないの!?」


割り込んできたのは、またしても聖だった。


「安城さんってさ、中学で全国優勝してんだよ!?

“心眼の剣姫”って呼ばれてたくらい、マジで敵なしだったんだから!」


「し、心眼……!?」


俺の脳内が真っ白になる。


(可愛い上に料理ができて剣道部で全国優勝者……

 可愛い上に料理ができて剣道部で全国優勝者……

 可愛い上に料理ができて剣道部で全国優勝者……)


呆然としながら、もはや呪文のように同じ言葉を心の中で唱え続ける俺。


そんな俺の隣で――

安城は涼しい顔でサラダをつまみながら、

ほんの少しだけ、得意げに微笑んだように見えた。


……それが、“心眼の剣姫”と俺の、まだ始まったばかりの物語。


 

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