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第10話 手作り弁当を分けてくれるギャルが、どう見てもヒロインすぎる件

キーンコーンカーンコーン――

退屈な授業の終わりを告げる鐘が、ようやく俺たちを解放した。


俺は右頬に手を添え、天井を見つめたまま、ぼんやりと時間が流れるのを感じていた。


(やっと昼休みか……)


と、そのとき。


「ゆういち〜っ! お昼、一緒にたーべよっ!」


女の子のような声。

目を瞑って聞いたら、きっと誰もが“可愛い女子”だと信じるだろう。


……だが俺は知っている。

その声の主が――俺の昔からの男友達(俺は信じたくはないが)だということを。


**如月きさらぎ ひじり**。

雪のように白い髪がふわりと揺れ、まるで少女漫画のヒロインのように俺の元へ駆け寄ってくる。


「一瞬……美女に逆ナンされたかと思ったぜ」


「もう、またそういうこと言うでしょ!?さすがの僕もそろそろ怒るからね!!」


ぷくっと頬を膨らませながら顔を真っ赤に染める聖。


(あざとすぎるだろ……そういうとこだぞ、マジで)


その手には、なぜか 自分の机と椅子。

聖とは席がかなり離れているはずなのに、わざわざそれらを抱えてここまで運んでくるあたり――

よっぽど一緒に昼飯を食べたかったらしい。


こういうところ、ほんと可愛いんだよな。

……まあ、残念ながらこいつは“男”なんだけど。


「ほらっ、馬鹿なこと言ってないで!!早く食べよーよっ!」


恥ずかしさを誤魔化すように、聖は机を ガタン と俺の机に並べた。

その横で、俺はカバンに手を伸ばし、妹の姫花が作ってくれた弁当を取り出そうとして――気づいた。


「……え? 嘘だろ?」


俺は――今世紀最大のミスを犯してしまっていた。

最愛の妹が、早起きしてまで作ってくれた弁当を……よりによって 家に忘れてきた のだ。


「……弁当、忘れた……」


学校での唯一の幸せ――妹の弁当を忘れてしまった俺だが、

落ち込んでいても仕方ない。

「まぁ、こういう日もあるか」と自分に言い聞かせ、すぐに気持ちを切り替えて席を立つ。


「はぁ……仕方ないな……購買でパンでも……」


そう思ったそのとき――

ふわりと甘く、優しい香りが鼻をくすぐった。


隣の席、安城恵梨香。


金髪ギャルで、ツンツンしていて、ちょっと近寄りがたい――

それでも俺にとっては、ほんの少しどころか だいぶタイプで、“女神”みたいな存在 の彼女。


その彼女の弁当から、

信じられないほど 旨そうな匂い がふわりと漂ってきた。


(あかん……安城のお弁当、めちゃくちゃ美味しそう……)


気づけば俺の脳は、完全に“食欲”という名の魔物に支配されていた。


(……はっ!? いかんいかん! 下品だぞ俺!)


まさか顔に出てないよな……?

そう思って恐る恐る横を見ると――


安城が、じっと俺を見つめていた。


「あなた……お弁当忘れたの??よかったら、ひとつ食べる?」


怖い印象しかなかった彼女が、ふっと微笑みながら差し出してきた弁当――

それは、明らかに素人の域を超えた、まるでプロが作ったかのような彩りの弁当だった。


俺は頬をかきながら、恐る恐る彼女に訊ねる。


「もしかして……お、俺、顔に出てた……?」


その問いに、安城はため息まじりの呆れ顔で返した。


「もはや顔に“書いて”たわよ。“弁当忘れました。分けてください”って」


羞恥心のあまり、今すぐにでも消えてしまいたい――

本気でそう思った。思ったのだが。

彼女の弁当の、あの色鮮やかな一品たちを目にした瞬間、

俺の中で何かが吹っ飛んだ。


……と、とりあえず、一品だけ。

一品だけ頂こう――そう固く決意した。


「じゃあ……この卵焼き、ひとつ……もらっていいか?」


俺の問いに、安城は小さく コクリ と頷いた。

その手からそっと卵焼きを受け取り、口へ運ぶ。


――ふわっ……じゅわっ……。


卵の甘みが広がった瞬間、俺の脳天に電流が走った。


(あ、あかん……!! う、う、うますぎる……ッ!!)

(顔も可愛くて、スタイルもよくて、料理まで完璧って……

 もう完全に“メインヒロイン”じゃん、これ……!)


俺の“全力賞賛”の心の声が届いたかのように、

安城はふいに頬を赤らめながら、ジトっとした目で俺をにらんできた。


「……あんたね、いちいち声デカいわよ」


「……え?」


声なんて出していない。

なのに、なぜか怒られている――

俺はその意味がまったく分からず、ただ呆然と彼女を見返した。


安城はハッとしたように目をそらし、慌てて取り繕うように言った。


「な、なんでもないわよっ。

はいはい、美味しいなら――ほら、早く食べなさいよ、もう!」


少しだけうつむきながらそう言った彼女の横顔は、ほんのり朱く染まっていて――


俺の昼休みは、空腹よりも甘さでいっぱいになっていった。


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