ある日のあくるひのこと
その日、長峰明は暇だった。
いつも暇なしに仕事に熱を入れていた彼にとって、休日とはつまらないものだった。
くわえていた煙草の火を灰皿に押しつぶした。
何もすることもない長峰の部屋の灰皿はすでに煙草の山。
もう一本吸おうと、ラッキーストライクに手を伸ばしたが、届くこともなくだらんと床へと落ちた。
外へ行ってみっか、とただ長峰は思った。
いや、この部屋にいること事態に彼は空きを感じ始めた。
何もすることがない、彼には生き甲斐が何もないようで嫌だった。
外は春になったからか、暖かい風が吹いていた。
歩き煙草をしながら、周りの風景を見ていた。
随分と様変わりしたものだと長峰は思う。昔は、田舎町だったこの場所もたった数年という短い期間で、急速に都市化した。
近くにあった商店街は、多くの店にシャッターを下ろし、新しく作られたデパートが商店街通りを見下ろしていた。
長峰は鳩を見つけた。
餌をもとめ、地面に降りてきた彼もしくは彼女は長峰の前を歩いていた。
その後ろをついて行くと、ある場所で鳩は飛び立っていってしまった。
目の前にあるのは家の近くにある公園だった。
長い時間を掛けて来た場所は、いつもならほんの数分で来れる場所だった。
なんてことだと彼は思った。鳩の尻尾を追いかけて街中を歩いて、ついてみれば変哲もない場所ではないか。
毎日がいつもこうだった。
代わり映えのしない日々、そしてファクターを見つけたとしてもそこにあるのは日常だけだと改めて気づかされる。
長峰は腹の中に漂うものを留め、公園に踏み込んだ。
今の時間、公園にいるのは元気にはしゃぐ子供や犬を連れて歩く老人だけで、彼のような若者は居なかった。
当たり前か、子供たちの母親たちは談笑しながらも長峰の方に視線を向けていた。
気分が悪い、平日にこんな若者がいるのはそれほど変なことなのか。
長峰は煙草を口へと移したが、園内にある禁煙マークの看板を見つけて、そそくさとその場を立ち去った。
ここには居場所がないと彼は思った。仕事場では、自分のやるべき役割があった、自分の存在価値が認めてもらえた、それだけで十分だった。
携帯が鳴ってすぐに確かめる、だがそれはどこかのサイトのフリーメールだった。
煙草に火を点ける、赤く燃える場所から煙が立ちあがっていく。
自販機で、コーラを買って乾いた喉を潤した。たが、気分が晴れることはなかった。
家へ帰ろう、長峰はそう思い歩き始めた。
それと同時に女性から電話がかけられようとしていたことを彼は知らない。