ある日の戦争のこと
戦場を駆け回り、敵兵を殺す。
それが僕の仕事だ。
いつぐらいからだろうか、そうだ弟が物心ついた頃には僕は銃を握りしめていた。
子供の僕には重い鉄の固まり、そこから発射される弾丸は、本当に小さい。でも、その一発で人の命を奪う。
「ジョン、戦争だ」
そう言われて、用意された機関銃を手に入れた。
「撫でるのはよしてくれ」
急に頭を撫でられて、嫌そうに払った。それでも大人は頭から腕をどかさなかった。
「ジョン、死なないでくれよ」
そんなの当たり前だ。僕はまだ死にたくない。
「分かってる、カナリア、ありがと」
そう言って、僕はトラックに乗り込んだ。
周りの人間は皆大人、少年兵は今では僕しかいない。
「へいジョン、今日も元気がねえな。カナリアに子供扱いされたのか?」
「うるさい、コー」
コー、本名コーディ。僕が少年兵になった日に出会った男だ。
女みたいな名前はカナリアにつけられたそうで、本当の名前はないらしい。
「カナリアは綺麗だけど、ジョンなんて相手にしてねーからなぁ」
そう言われると本当のことを言われているみたいで、嫌だった。
「コー、やっぱりうるさい、少し黙って」
これから行くのは戦場だよ、と僕はそう付けていった。
彼は機関銃を持ち直して、黙り込んだ。
「ジョンは怖くないのか?」
コーが口を開く。それは銃撃戦の音が聞こえてくる場所に着いた時だった。
「怖いよ、でも戦争はもういらない」
「戦争はなくならないさ」
トラックが止まって、僕らは外に出た。
彼の目は人殺しの目になっていた。
誰も寄せ付けない雰囲気を持つコーはすぐに敵兵を見つけると、腰に付けたナイフを抜いて喉元を切り裂いた。
「ジョン、早く帰ってまずい飯でも食おうぜ」
僕らは手の甲をあわせて、別れた。
終わる時間など分からない。もしかしたら終わりなどない戦場に駆け込んだ。
「一人……二人……」
トリガーを引けば、人が死んでいった。
脳を地面にぶちまけて、血の池に体を埋めた。
「! 三人」
ビルの三階窓から現れた敵兵を打ち抜いた。そこから落ちて、グシャという音が聞こえた。
昔はこんなことはなかった。みんな平和に生きていた。だけど、いつからなったのかも分からない、ただ僕が生まれた時にはすでにこの状況だった。
「あー、あー……ジョン聞こえるか帰還信号が撃たれた」
空を見ると赤い信号弾が見えた。それは、休戦の合図。
拠点に戻るとすぐに夕飯の時間。
僕とコーはこの中で唯一お代わりをする奴らで、僕はその時にみるカナリアの笑顔が好きだった。
夜になって僕は目を覚ました。
それは、緊急警報の音で、敵兵の侵入の合図でもあった。
僕はすぐに部屋から出ようと思ったが、出来ない。
今の僕の手には武器がない。
たったそれだけ、でもその鉄の固まりがなければ安心できない。
急にドアが開かれた。
「ジョン、逃げるよ」
カナリアが、手に機関銃を持ってこちらに近づいてきて、抱きしめてくれた。
「大丈夫、ジョンは男の子だろ」
僕は頷くだけで、カナリアに機関銃を渡された。どうやら彼女は腰のホルスターに掛けられた拳銃を使うようだ。
彼女の顔が瞬時に険しくなった。
それは兵士の駆け足、僕らのとは異なるほど整った集団の音。
「ジョンはここに隠れてなさい」
カナリアに言われて、手紙を渡されベッドの下に潜り込んだ。
乱暴に開かれた扉、開けたのは敵兵。僕には分からない言葉を用い、叫びあげた後銃声が響いた。
連続的に聞こえる銃撃の音。
それは、戦場に響く鈍い機関銃の音だ。
僕は、機関銃を握り思った。
カナリアは、これを僕に渡していた。
どさっ
目の前には私服をきたカナリアが倒れ、こちらを見てほほえんでいた。
腹部に空いた弾痕からは血が流れだし、僕はそれを止める術を持っていない。
カナリアが倒れ込んで、一層奥へと入り込んだ。
アイツ等が消えるまで僕はここにいなくちゃいけないんだ。
それは義務感や使命感ではない、恐怖から来るものだと分かったのは、再び夜の静けさが来たときになってからだった。