ある日のデートのこと
今日の私はいつも以上に興奮している。ではなく、張り切っている。
いやはやそれにも理由があるのです。なんと、なんとですよ! 今日は初デートの日なのです!
といいつつも昨日ウキウキしているところを弟に見られ、なんとも冷たい視線を送りつけられたが気にしないもん。
あーいうやつはいつまでたってもガールフレンドはできないのさ。
でも、この前可愛い子連れてきたんだよね。顔に似合わず腕は立つのか?
「あー、緊張するなぁ」
初体験なんだ、仕方ないよね、ね。
何か初体験ってちょっとやらしい感じがする。
「ねーちゃん」
弟が入ってきたら奴はきょとんとした目のまま止まった。
「おめかししても変わんないね」
いきなり言うなり部屋の扉を閉めた。
私の中の怒りは有頂天だ! 今日は許さないぞ。
「祐作、ちょっとでてきなさい」
自分の部屋にいた弟は体を震わせていた。まー可愛らしい姿なことで。
説教を終えて、私は待ち合わせの場所に向かっている。
下校時にいつも別れる駅前だ。彼は、電車通学なので一緒に帰るとしてもここまでなのが残念だ。
時間まで少しあるので、スタバでコーヒーを入れておく。結構私の好きな柄が多いのが好きだ。
「ごめん、待った?」
女の子が言いそうな言葉、だけどそれを言っているのは私の彼氏だ。
「平気、ちょっと早くついたからここで待ってた」
席から立ち上がって店内から出た。
「で、今日の目的は遊園地なわけですが……」
彼は切符を買って私に手渡した。
「ですが?」
私は改札口を通って彼に聞いた。
「乗りたいものを先に決めとかないと乗れない可能性があるんだ」
へぇ、と私は言って彼の言葉を待った。彼はそれを感じたようで続けていった。
「で、何か希望は?」
ホームで急行電車が来たので乗り込んだ。休日なのでそれほど混んではいない。
「それ、昨日電話してくれれば良かったんじゃ?」
そう言うと彼は苦笑した。
なんだよ、昨日あれほど電話してくれると思って待ってた私が恥ずかしくなった。ああ、恥ずかしい。
「電話しようと思ったんだけど、もう沙耶は寝ちゃってそうだったからさ」
祐介はやはりいい人だ、そう私は思った。彼は、いつも私が何時くらいに寝るかを覚えていてくれていたんだ。
ついでに言えば、私が寝るのは午後十時前後。どこの小学生だよとよく言われる。
「まっ、寝てたけどさ」
と嘘をついた。
「だから今話しているわけなんだ」
「じゃあジェットコースターがいい」
すぐに言って後悔した。私は苦手なんだ。いや別に乗りたくない~とか乗れない~とか喚くほど嫌いな訳じゃない。
ただ、あの落下していく速度が異常なまでに早いのが苦手なのだ。
「了解」
と彼は笑った。まあ、苦手であっても乗りたい理由はここにあるのだが、私は絶対に言わなかった。
遊園地はそれほど人で混んではいなかった。
そのためか、あの恐怖の高速落下貨車に乗るのも早い訳で。
「もしかして苦手だった?」
そして彼に気づかれるのも早かったのだった。
「苦手だけど……好きなんだ」
彼は苦笑いで返事した。それは、嘲笑にも似ていてむっとした顔をすると、ごめんごめんと謝ってきた。
「ほらっ、乗りに行くよ」
彼に手を引かれて、私は乗り込んだ。
別に事故で落っこちるなんてないことはわかってるんだけど、それでもやっぱり苦手なものは苦手なんだなと改めて実感した。
何度絶叫したことだろうか。設置されたベンチに座って、私はどよ~んとした空気を漂わせながら買っておいたコーヒーをのんだ、甘い。
「まさか沙耶にも苦手なものがあったなんてな」
それはまるで私が驚異の無敵超人であるかの言い方だった。
「私にだって苦手なものはあるわよ、ったく」
悪態をつきながら、残り少なくなったコーヒーを飲み干した。
「次はあれ乗ろっ!」
切り替えだ、そう思って私はコーヒーカップを指さした。
入園者が増えてきたのか、コーヒーカップに乗るのにも待ち時間は長いようだった。
乗り終わった私は上機嫌だ。ああいう、急に落ちていったりしないものは好きだ。
「もしかしてなんだけどさ、沙耶ってメルヘンチックなものが好き?」
その時の私はどれほど顔が赤いことだったろう。赤面症だから赤くなってしまうのは仕方ないのかもしれないのかもしれない。
だけど、あれほど笑うこともないだろうと思った。まあ、そういう包み隠さないところが好きになった訳ではあるけど。
最後は観覧車に乗って遊園地から出た。
今はぬいぐるみを抱きながら、電車の中にいた。
遊園地の中にもゲームセンターがあって、そこにあったもふもふな羊のぬいぐるみを彼にとってもらった。
彼曰く、案外取りやすい配置に置き方だったとのこと。
私はぬいぐるみ一つとるのにも千円以上は使ってしまうからよく分からなかった。
今度ご教授していただこうかと思えた。
私が降りる駅が近づくほど無言で、電車の中にもそれほど人は居なかった。
だけど、私たちは一歩踏み出すことは出来ない。まだ付き合い始めたばかりだからとか初めてのデートだからとかそういうのがあるのかもしれない。
だから今日はこれで終わり、明日からはまた学校なのだ。
私は降りる駅まで彼の肩に寄りかかった。