8.『初めての外出』
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起きて着替えをし、朝食を摂って。いつものように子供部屋でお勉強――をするものだと思っていたら、着替えさせられた。
“良いとこのお坊ちゃん、おでかけスタイル”、といったところだろうか?
訳が分からず、頭の中は疑問符だらけだ。
そこへ、これまた着替えた辺境伯がやってきた。こっちも“若旦那のおでかけスタイル”だ。
くぉれはぁ――
「どこかにおでかけ?」
「『スケッチブック欲しい』言ったろ」
おっと、口に出てたようだ。
暇をもて余したお子ちゃまな私――ロウソク、入手す。
なので先日、辺境伯と老執事と辺境伯の側近さん(蜂蜜色の髪の人と黒髪の人)に監視されながらクレヨンもどきを作ったのだ。
お外で。
調理場だと料理人さんたちの邪魔になるし、臭いがつくかもだし……。
場所は、例の如く中庭で。
地面を燃やしたり、焦がしたりしないようにレンガを積んで――【空間収納】内にあるレンガを指定した場所にポポンと出すだけなんだけども。
火を起こす場所を作っていると、辺境伯が「野営に使えるな……」とポツリ。
振り向いたら米神揉んでた。またか……すまん。
冒険者の時は大変お世話になりましたとも。
焚き火と違って風避けがあるから早く火が着くし、網や鉄板置けるし。
――あの時は冒険者の姿でせっせと積んだけどね。
試し描きの結果、クレヨンっぽくは出来た。
まあ、試験管のようなポーションの空き瓶で作ったから少し……太い。この太さなら短い方が持ちやすいかな? あとは削いで持ちやすい太さにするとか。
タピオカミルクティーのストローぐらいの太さが良さそう。普通のストローだと細くて折れそう……。
それで(型、作った方がいいかなぁ……)とか。(やっぱクレヨンは厚めの紙に描いた方が良さげだなぁ~)とか。(けど、画用紙ないもんなぁ……)で、ボソッと「スケッチブックほしいかも……」ってポロッと言っちゃった、と思われる。
私のお口、ゆるゆるじゃない? 心の声がポロリしてるんだけど……。
そして、そんな大きな声じゃなかったはずなのに聞こえてるとか……耳、良いな。
「それでおでかけ……?」
「坊ちゃん、『青色が欲しい』って言ってましたよね? 絵の具とか、画材が売ってるお店に行きますよ~」
辺境伯の後ろから側近の蜂蜜色――ハニーさん(仮)がひょっこり現れ、行き先を教えてくれた。
おーっと。それも口に出てたかー。
青は好きな色だから欲しいんだよね~。他にも赤とかオレンジとか……。
緑はいっぱい作れるんだよ、緑(草)は色々あるから。
そんなわけで、辺境伯領に着いてから初めての外出だ。
◆
馬車で移動する――――ここでも辺境伯の膝の上である。何故だ……!
馬車の中は私と辺境伯、その向かいにハニーさん――筋肉二人で中々に暑苦しい。
辺境伯の膝の上でチベスナ顔になっている私を見て、ハニーさんは苦笑している。するなら止めてよッ!
ガタゴト揺られ――は、しなかった。石畳で舗装されているからながら、あまり揺れない。……膝の上、というのもある……?
そしてふと、画材屋さんへ行くのは確定しているが、他にどこに行くのか知らないことに気づいた。浮かれすぎでは……?
見上げて辺境伯に訊ねる。
「がざいやさんは、かくてーとして――ほかに、どこかいく?」
「お前の服」
「ふくぅ~!? まだ、そでとおしてないの、たくさんあるよ?!」
「多いに越したことはないだろ」
「……だとしても、こどもはすぐ、おーきくなるんだよ? きないですぐ、たけがたりない! なんてことになるよ?」
「そんなの気にすんなよ」
気にすんなよ、じゃなくてさぁ……。
そのお金が、いったい何処からきているのか、ちょっと考えよう? ……税金だよ?
少し前まで払ってた側だよね? 今、集める側だよね? 無駄遣いしちゃダメじゃね? もっと有効活用しよ……?
それとも何? 魔獣や魔物の素材で辺境伯領は潤ってんの?? ……まあ、キレイに仕留めれば、高く売れるけど……。
「まぁまぁ。これから暑くなるから汗もかくようになるし……水遊びなんかしたらすぐ着替えなきゃだよ? 無いより有る方がいいでしょ――それに寸足らずになったら寄付するのは?」
「むむむ……みずあそびかぁ……」
ハニーさんが仲裁に入る――が、私は水遊びにちょっと心が惹かれ……はっ!
ホント、五歳児だとすぐ思考があっちこっちに……。
肉体年齢に引っ張られるってマジなのか……。
「はは……これは庭に大きな盥があるといいかもな~。あと肌着も追加、と」
「……水遊び」
「……こりゃあ、玩具屋も追加か……?」
――ってことで服屋さんも確定だ。
実は辺境伯領に来る時、まだ肌寒い時季だったから毛布に包まれ、辺境伯に抱えられながら馬で移動していたから、よく外が見えなかった。だから町並みとか知らない。
今は緑が生い茂り、過ごしやすい季節になった。
どんな雰囲気なのか外が見たくて、行儀が悪いが、靴を脱いで座面の上に立ち上がり、窓から外を見る。
「おぉ~」
辺境伯邸を出て数十分、屋敷から真っ直ぐに伸びる大通りのサイドには、ヨーロッパの町並みを彷彿とさせる風景が広がっていた。
他領地よりも魔獣や魔物の出現率が高い辺境だが、とても賑わっている。
……やっぱ、辺境伯のお膝元だからだろうか?
「危ないから座れ」
「はーい」
辺境伯に言われ、いそいそ座る。
脱いだ靴を渡されたので履く。
屋台とかで買い物できるかな?
馬車止めに停まる。どうやらここからは歩くようだ。
先に降りた辺境伯に持ち上げられて降ろされた。
おぅ? 地面に降ろされたぞ? これは――自力で歩け、と? ……珍しいこともあるもんだ。
乗っていた馬車の隣に同じような馬車が停まる。中から老執事とメイドさん二人が降りてきた。
……もしや、三人が乗っていた馬車は買った物を乗せるために用意した馬車か……? 恐ろしや、貴族……!
大所帯なため人目につく。お忍びスタイルの方が良かったのでは?? 変わらない? そだねー。
うわ……と思いながら辺境伯の後を追う。その後にハニーさんと老執事、メイドさんが続く。
護衛? 今回はハニーさんが護衛も兼ねている。――というか、この中で一番強いのは辺境伯だ。辺境伯だけでオーバーキル。正直、護衛って要るぅ? ってレベル。
ハニーさんも辺境の男だし、見せる筋肉じゃないだろうから強いはず……。
――というか。まず、辺境伯とハニーさんを見て襲撃するヤツはいないと思う。
……襲うのはバカか、目が悪いヤツだ。どう見たって返り討ちに合うだろ、これ……。
それに、なんだったら私が【拘束】とか【シールド】とかの魔法を使えばいい。
転生チートなのか、魔力量はわりと多いし……。六人ぐらいなら、頑丈な【シールド】を展開することだって出来る。
久しぶりの街にキョロキョロしてしまう。
屋台、ありませんかね~? 甘い物だと、尚良し! ――後ろからついてくるハニーさんに笑われてるけど……。甘い物は別腹ですけど、何かぁ?
ふと、前を歩く辺境伯の手が目に入る。
…………。
手、握ってみてもいいかな?
今までの感じからいくと振りほどかれるってことはないと思うけど……。
近づいて――辺境伯の手を握る。手の大きさが違いすぎて指三本になっちゃったけど。
歩みが止まる。
見上げると、こちらを見る辺境伯と目が合う。一瞬、目を瞠ったように見えたが、何事もなかったかのように前を向いて歩き出す。
手は――強くない力で握り返され、振りほどかれることはなかった――
そして着いた服屋さんで寸法を取られ、あれこれ試着させられ――――買われた。
いや、あの……そんなに要らないのでは?! まだ着て行く場所、ないでしょ? 要るぅ??
お子様のお披露目は、七歳の誕生日だ。
何故なら事故死や病死など、子供の死亡率はわりと高い。異世界で魔法があっても防げないものはある。
“七歳までは神のうち”と云うやつだ。
隣り合った領地同士での交流はあるだろうけど、お子様の社交界――お茶会と云う名のお友達作りの交流会は『魔力判定』を行って『魔法属性』が判明してからになる。
その『魔力判定』は、七歳の誕生月(月頭)に王都の教会で執り行われている。
なので、七歳まで着る機会のない服を買うっていうのは……。
二年もあったら背も伸びるしねぇ……?
それにそのお金、税金だよね? 領民から徴収した税金だよね?? 領地発展や魔獣対策に使うならまだしも、私の服に使うのはどうかと……。
…………使ってお金を回してるって思えばいい、のか……?
だけど、こっちが焦るぐらい買うの、どうかと思う……。
服屋さんでぐったり。
着せ替え人形ってこんな気分なのかなぁ……と、本日二回目のチベスナ顔だ。
抵抗も抗議もする気が起きず、されるがままに抱っこで移動することにした。疲れたよ……。
ハニーさん、老執事、メイドさん(一人)は服屋で買った物の運搬――馬車を店の裏に回して行っている。
そして、もう一人のメイドさんは私たちと行動だ。
服屋さんから移動して、入ったのは古くからやっていると思われる町の食堂。
なんと! そこの女将さんと辺境伯が知り合いだった。二人の会話から察するに、辺境伯が小さい頃からの知り合いっぽい。
女将さん、使用人として辺境伯邸で働いてたことがあるのかな?
――食堂で食べた昼食のオムライスがおいしかったです!
皆と合流して休憩。一服してから画材屋さんに向かう。
◆
画材屋さんは古くからあるアンティークショップのような外観で、落ち着きがある。
木製の両開きのドアを開けると、正面の壁一面に、びっしりと彩り鮮やかな瓶が飾られていて、思わず「ほわぁ……」と感嘆の声が出た。
近くに寄ると、瓶が色ごとに分けられ、グラデーションになるよう並べられていた。圧巻だ。
「レック」
どれぐらい見とれていたのか、辺境伯に声をかけられるまでカラフルな瓶を眺めていた。
“レック”というのは、辺境伯が私に付けた名前『アレックス』の、辺境伯が呼ぶ愛称だ。
私は母と乳母から愛称だと思われる“アレク”と呼ばれていた。本名は、呼ばれたことがないから分からない。それで、辺境伯がアレクと云う愛称になる名前を付けてくれたのだが――“アレク”じゃなく、“レック”と呼ぶのは何故にぃ……?
「どれにするんだ?」
そう言うと、辺境伯は青い顔料が入った瓶が置かれた棚の前で、私の手が届くように持ち上げてくれた。
悩む。悩む……。たくさんあって悩むんだよ……!
うーん、うーん……と悩んでいると、抱っこになった。ぶら下がってると重いものね、すまん。
「……とりあえず、欲しいの入れてけ」
いつの間にか膝の上に瓶を収めるカゴが……!
とりあえず、気になった物を入れてこっと。
あれこれ入れ、吟味に吟味を重ねた結果! マリンブルー、深紅、オレンジの三色にした。
六つぐらいカゴに入れて、選ぼうとしてたんだけど、辺境伯が全部買おうとしたから慌てて止めた。某黒縁メガネ芸人の如く。
どえらい値段になるのに全部とか……アッカーーン!
――結果的に欲しいと思っていた三色だ。
ウルトラマリンも良かったんだけどね……。綺麗だったんだよ、マリンブルーの方が。
深紅は、作るのが難しそうだし……。オレンジも以下同文。
スケッチブック? 私が悩んでる間に購入されてたよ。なんか他の物と一緒に。
マリンブルーの顔料が詰められた小瓶を両手で大事に持ちながら、ホクホク顔で画材屋さんを後にした――――抱っこされたまま。