5.『お絵かき』と『魔女?』
お読みいただき、有難うございます。
ブクマと評価、感謝ですm(_ _)m
椅子に降ろされ、オレンジジュースを出される。
さっきレモン水を飲んだというのに、オレンジジュースまでがぶ飲みするとは……! どんだけ集中して四つ葉のクローバー探してたんだ、私……。おかげでお腹がちゃぽちゃぽだ。げふっ。
用意されたスコーンを手に取って割り、苺ジャムを塗ってパクリ。うまうま。
この後、どうしようかなぁ……。足をプラプラ、口をモグモグさせながら考える。
……まあ、また執務室に拉致られそうではあるけど。
前世だったらマンガを読んだり、ゲームをしたり――鉛筆でらくがき帳とかチラシ裏に絵を描いたりして時間を潰せたけど、今世にはそういう紙が無い。
絵を描く、といったらキャンバスに油絵用の絵の具だ。筆が長いから子供向きではない。
スケッチブックは、ちょっと……お高いのよねぇ……。
キャンバスや絵の具に比べればそうでもないけど、落書きに使うには、ちと高い。
……私が知らないだけで、子供用の簡易的なお絵描き道具があるのかもしれないけど……。訊いてみよっと。
……子供といったらクレヨンかな。幼稚園の頃はクレヨンで描いてたし。
色鉛筆だと力が入りすぎて、すぐに芯が折れちゃう――クレヨンもよく折ってたけど。
まぁ、色鉛筆はまだ存在しないんだけどね。
クレヨンって、子供には丁度良い大きさなんだなぁ……って、今なら思う。
持ちやすそう……と、スコーンを持つ反対の右手をにぎにぎする。うん、小さい手だ。モグモグ。
クレヨン……クレヨンか。
クレヨンって、顔料――絵の具の元になるやつ……鉱石だっけ? 有名なのはラピスラズリだよね、フェルメール・ブルー。
絵の具にするには、砕いて砕いて、細かくして、粘りけのある液体――油? と混ぜる……のかな?
あとは蝋。
けど子供って何でも口に入れちゃうから――――私は入れないけどね!
ふむ。口に入れてもOKな物、ってなると……蜜蝋か。あとケーキとかクリームに着色するやつ――着色料? 野菜を粉にしたやつあったよなぁ……前世。
……なんかあったな、食べちゃっても大丈夫なクレヨンとか、色付き粘土とか。色付き粘土は小麦粉だっけ?
ふむ。クレヨンか、クレヨン。……イケる気がする……。
蜜蝋といえば
「……かるか、ハニービーを」
「ちょい待て。なんで、そーなった」
「え? ……あ」
あらやだ。声に出ちゃってた? 両手で口を覆う。
「抑えたって遅ぇわ。――それで? なんでハニービーを狩りに行くことになんだよ」
「……ミツローほしーかなぁ……。あと、ハチミツたべたい」
「……みつろう? ハチミツはわざわざ狩らなくてもあるだろ……」
「……それは、そー」
……蜂蜜はおまけです。
「なんでミツロウ? が欲しいんだよ」
「えー……っとぉ……」
「クレヨンが作りたいからですッ!」なんて言えない……。「クレヨンって何だよ」って言われるに決まってる。
前世の絵を描く道具、なんて言えないし……。
「うー」と唸ってたら、ため息を吐かれた。うむむむむ……。すまねぇ……。
「ハニービーを狩るって、いくらヤツらの殺傷能力が低いとは言え、お前は小さいし、細いから刺されたら人溜まりもないぞ」
「…………ごさいじは、ちーさいし、ほそいんですぅー」
そして狩りに行くのは、私は私でも子供の私ではなく、【変身魔法】を使った冒険者な私、です。そこ、間違わないように!
ハニービーとは、まんまミツバチである。ただし、巨大だ。
働き蜂は掌サイズ。女王蜂は両掌に乗るぐらいの大きさになるらしい。もちろん大人の掌だ。
危害を加えなければ、攻撃してこない穏やかな気性の魔獣――魔昆虫? の一種だ。
首? のフワフワが可愛いんだよね、フォルムもまん丸としてるし。
けど、大きいから針も比例して長くなっている。
五歳児の私の心臓ぐらいなら届く、かも……? 刺さりどころが悪ければポックリだ。
それは分かるんだけど……。
う~む、どうにかして蜜蝋を――――あ!
「そーだ! かわりの、あげればいーんだ!」
「代わりぃ~?」
「とーかこーかん――ミツローをもらうかわりに、ざいりょーになるもの、わたす!」
「ミツロウの材料……って何だよ」
「…………はちのすって、なにでできてるんだ……?」
「おい」
……蜂の唾液とかって聞いたような……。
「う~ん……みつがたくさんの……おはなぁ?」
「知らねー……」
「う~ん……まりょくあげたら、ハチミツくれたからワンチャン、まりょくでいける……?」
「は……?」
「うん? えーとぉ……バジリスクとーばつじに」
「はぁ?」
「あぁ……『らいてー』のときね、『らいてー』のとき。『らいてー』って、よばれるよーになってから、とーばついらいがふえて――」
……冒険者時代が懐かしい……。
拠点としていた『冒険者ギルド(支店)』は、王都を挟んで辺境伯領の反対側にある子爵領にあった。
そこから辺境伯領までは幾つかの領地を移動し、到着に一月半かかった。
もう一月以上、剣を握っていないのだ。悲しいね……。
「あれはたしか――さんかげつぐらいまえ、かな? バジリスクとーばつじ、おなじパーティーになったSきゅーランカーのまじゅつしさんのつかいま――つかいむし? が、ハニービーで……。そのときに、ハニービーのしゅーせーとか、きーた」
「……S級の魔術師って――『蒼焔の魔女』かよ」
辺境伯が驚いてる。いや、この空間にいる人、皆も。
おぅ……そんなに??
そうえん……蒼い炎?
確かに高火力の攻撃魔法使ってたけど……魔女……?
「……パパがおもったひとか、わかんないけど……スゴかったよ! バフとデバフのタイミングがてきかくで! ほしータイミングで、バフかけてくれるの!
あのひとの【しんたいきょーか】は、じふんの【しんたいきょーか】より、こーか、たかかったなぁ……」
凄いよね~、さすが魔術師!
ハニービーを使い魔? にした経緯は、一匹で衰弱していたから保護したそうだ。お世話をしているうちに情が湧いて……。ハニービーの方も懐いてたから使い魔? にしたらしい。……懐くんだね。
名前は『ミッチー』。まんまるフワフワで可愛かった!
「……それでハチミツ貰ったって?」
「……あまいの、ほしくて……」
そろりと辺境伯から目を逸らし、新しいスコーンを手に取り、ハチミツを垂らして食べる。
討伐依頼中に何してるんだ、って話は無しの方向で。
使い魔? を見てうっかり「ハチミツ食べたい……」って、呟いちゃったんだよね。そしたら魔術師さんが「魔力と交換でハチミツくれるわよ?」って教えてくれて……。
そのハチミツは今も【空間収納】内にある。
「あらやだ、雷帝ちゃん――魔力の練り方、上手いわね……。ついでだから“魔石の作り方”と“付与”も教えちゃうわ~♪」とノリノリで色々教えてくれた。
件の最上級冒険者な魔術師さんは、胸元まであるミルクティー色の髪をサイドで緩く三つ編みにした、淡い藤色の少し眠そうな垂れ目の中性的な人だ。
化粧もしてたから女の人って言われたらそう思っちゃうかもしれないけど、立派なお兄さんであって、魔女ではない。
『蒼焔の魔術師』――だったかな? 男の人にしては細かったけど、背は高かったし、着ている物も男物だ。
女性らしいところっていったら顔と口調ぐらい、だったと思うけど……。声なんて、まるっきり男だし。なのに、なんで魔女?
本人も「似合うから、こーゆう格好(化粧とか)してるだけで恋愛対象は女性よ~?」って言ってたからオネェさんじゃないんだよね。
戦闘に余裕がある時は女性っぽい喋り方だったけど、さすがのバジリスク戦はちゃんと漢になってた。「オラァ、喰らえ! このクソ蛇がァ!!」って――――ギャップが酷すぎる……。
ちょっとあの時のことを思い出して意識が遠退きそうになった。
危ない、危ない。頭を振る。
ギャップが凄くてバジリスクが記憶に残ってないんだよなぁ……。
……魔術師さんに“『魔石』の作り方”と“【付与】のやり方”を教わったことは、言わない方が良さげだな。辺境伯が眉間に皺寄せて、米神揉んでらぁ……。
何か呟いてるけど、何を言っているのか、声が小さくて……よく聞こえない。
なんか「これだからぁ……!」って頭抱えそうな感じなんだけど……。
◆
蝋が蜜蝋の代わりになると知った辺境伯に「蝋燭を用意するからミツロウ――ハニービーの狩りは諦めろ」「近いうちに魔獣討伐に連れてってやるから……大人しくしてろ」と言われた。
いや、まあ……蜜蝋だと口に入っちゃっても安全だよね? って思ったからで…………私は(口に)入れないよ?
そうかー、ロウソクがあったかぁ……。
――ロウソクでも作り方、一緒?
とりあえず。棄てる野菜屑やヨモギ、タンポポやお花を乾燥して、粉にしようと思います! 【乾燥】【粉砕】は『生活魔法』で使えるからね☆
お花は庭師さんに色々貰おっと!
ハニービーの巣へ行くまでに剣が振れると思ってたんだけど……残念。けど、楽しみができた。
そう言えば――魔獣討伐に連れてってやるとか言ってた……? え?
近いうちに? ……え?
剣がふるえなくって、しょんもり(._.)する五歳児
ちょっとお外、行きたかったな……(._.)
近いうちに魔獣討伐に連れていかれると知り、困惑する五歳児 (・∀・;)エッ
◇追記③◇何か急にブクマが増えたΣ( ̄□ ̄;)
[日間]ヒューマンドラマ〔文芸〕 - 連載中、10位(一瞬) 有難うございます!