21.『調査依頼』と『たまご』
お読みいただき、有難うございます。
ブクマ、評価、リアクション、感謝ですm(_ _)m
今回は約五千八百字(空白・改行含まない)
長くなったから、どこかで切りたかったんだけど……キリのいいところが見つからない……orz
……長くなりました( ̄Г ̄;)
※えーっと、一応、注意。
蛇が苦手な人は気を付けてね。
……十九話でバジリスク(名称)が出てる時点で察してるかと思いますが……。
……そこまでじゃないとは思うけど……保険
前に来た時よりも木々に葉が生い茂り、太陽の陽を遮っていた。
それで、少しでも夏の暑さを和らげてくれればいいのだが……そうとはならず、湿度が加わることで逆に暑く感じさせる。
動いているから余計にだ。体を動かすだけで、じわりと汗をかく。
襲ってくる小型や中型の魔獣を倒しながら、昼間だというのに、少し薄暗く感じる森の中を『生活魔法』の【点灯】を頼りに、隣国の『イースハルト辺境伯領』との中間地点を目指して歩いていた。
◆
ことの始まりは九日前。
隣国との国境を覆うように広がる魔獣が棲む『魔の森』に、未確認の大型魔獣が複数体、現れたことだ。
その報告を受けた辺境伯は、休暇中の騎士たちと共に『魔の森』へ向かう。
そこに居たのは、本来『魔の森』に生息しない、国が『災害級』『準災害級』と指定する大型の蛇型魔獣『バジリスク』だった。
確認されていたバジリスクは討伐。
五日前、辺境伯は辺境伯邸がある街に戻る。
そして四日前、『冒険者ギルド』と国に報告の書簡を送り――その日のうちに、ギルドへ向かわせた遣いが持って帰ってきたギルドマスターの返答と、ギルドからの遣いとの面会で『魔の森』の調査をギルドと共同で行うことが決まった。
私――『雷帝』も、ギルドからの依頼でこの調査に同行することになる。
三日前の早朝、街の入り口でギルドからの同行者――A級冒険者・三人、B級冒険者パーティー・四人二組と合流し、辺境伯騎士団、辺境伯、『雷帝』で『魔の森』近くの砦へ。
その日の夕方近くに到着、砦で警戒に当たっている部隊から『魔の森』の現状、イースハルト辺境伯家の動向などを訊き、その日はお開きとなった。
翌日に向け、体を休めることになった――のだが、この辺境伯、五歳児な私と寝たいと駄々をこねたのだ。
戦闘になるだろうから、できれば『雷帝』のままで体を馴らしておきたかったのだが……。
ハンスが居ないのに駄々をこねるな、と。まったく……。
……辺境伯的には? 私が『姿を変える腕輪』で『雷帝』になっていようと、『魔法の影響を受けない魔眼』だから、五歳児な私で視えているから関係ないのかもしれないが……。
狭いベッドに野郎が二人とか、絵面がよろしくない。
私的にも、抱き絞められるのはちょっと……。
辺境伯は気にならないかもしれないがな?!
私は休まる気がしない……。
なので、私が妥協し、渋々『姿を変える腕輪』を解除した。
因みに。辺境伯の側近であるハニーさんは、辺境伯騎士団副団長として、警備責任者として街に残っている。
◆
――そして冒頭に戻る。
この二日間、冒険者や辺境伯騎士団の騎士たちと『魔の森』を人海戦術で、バジリスクの痕跡や異変が無いか、数人一組になって探しているが――成果なし。
砦に一々戻っていては時間がかかるため、『魔の森』で野営をしつつ、イースハルト辺境伯領との中間地点を目指している。
私は最上級冒険者なので、一人行動だ。
イースハルト辺境伯家も、巡回でハルバード辺境伯領に来ていた騎士たちの話や、辺境伯からの書簡を基に、向こうのギルドと共同で調査をすることにしたそうで、『魔の森』の中間地点で合流することになっている。
【探知】をかけながら進む。
辺境伯たちが倒したバジリスクは、『魔の森』のハルバード辺境伯領側の中間よりも浅い、調査一日目、二日目に調べた辺りに現れたそうだが……。
今のところバジリスクや、その痕跡は見当たらない――――ホント、何処からやってきたのか……。
そろそろ『魔の森』の真ん中辺りになるのでは……?
そこでふと、魔獣の襲撃が減ってきていることに気づく。
ハルバード辺境伯領側の『魔の森』出入口付近や、調査一日目、二日目と比べると居ないといっていいぐらいだ。
【探知】にも引っ掛からない。
それに――薄暗いというよりも、暗くなったようにも感じる。
見上げると、空が見えないほどに、木々が鬱蒼としていた。
【点灯】によって出来た影が濃く見えるのは、そのためか。
暑さは引いたが、湿度は増したようにも感じる。
前回は、ここまで奥には来ていないが――――お約束だと、ボスが居る。
または、誰かが隠れ住んでいる。
…………考えすぎか。
……だけど、ここからが本番、といったところじゃないか?
再度、気を引き締める。
◆
……多分、森の真ん中。何も無い。
あるのは木木木木木――森林!
……あのバジリスクがたまたま『魔の森』に来ちゃっただけ、というやつか?
――にしたって、複数体ってのはなぁ……。
一体だけなら、迷いこんだのかも? と思えるけど……う~ん……。
……主は居ないし。誰かが隠れ住んでいる形跡もない――――まず、住めるような場所が無かった。完全に平地だし。
だけど、さっきより少し明るくなった。
あの鬱蒼としていたのは、一部だけだったようだ。
――さて。両辺境伯騎士団、ギルド冒険者たちなどの面々が到着するまで、何をして時間を潰そうか……。
こういう時、ぼっちってのが一番困る。
◆
何か無いか、辺りをうろうろ歩いていると――大蛇が視界に入った。
前世で云う、ニシキヘビぐらいの大きさかな? 四~五メートルぐらいはある。
にしても、珍しい。
『魔の森』にも普通の動物は生息しているから、居てもおかしくはないのだが、こんな奥に居るとは――蛇的には棲みやすいのか……?
ニシキヘビサイズを普通といっていいのか……。
大蛇が来た方を見ると、少し開けた場所になっていた。
そして少し温かい。
そこには、他の木より大きい木があり、根元には鳥の巣のような物があった。
ような物といったのは、木の根元にある上に、バカデカいからだ。
他の動物の巣……? ――にしては、小枝などで組まれ、枯れ草のような物が見える。
……器用な生き物が作った?
器用――猿? 猿なんて居たかな? いや、猿が鳥の巣みたいな巣を作るか? ……木の上では??
でも、パッと見、鳥の巣なんだよなぁ……。
地面にあるということは、飛ばない鳥――巣がデカいから大型?
飛ばない……大型の鳥?
鳥の巣? に近寄ってみる。
大きな卵が見えた。
大きさは、前世で云う、ダチョウの卵ぐらいで、楕円の形をしている。
卵は小枝で組まれた巣の中に六つぐらいあって、下からの冷気や湿気から守るためか、枯れ草が敷き詰められていた。
「コカトリスの卵か」
『コカトリス』とは、雄鶏のような姿をし、恐竜のような足をしていて、跳躍力と蹴りの威力がエグい。
そして尻尾には、意思を持っているような蛇がついている――しかも毒持ち。
最大三メートルになる(オス)――なるほど。確かに飛ばない大型の鳥だ。
こんなところにも巣があるなんてなぁ……。
しかし、行動範囲が広いな、コカトリス!
前回『魔の森』に来た時、森の出入口付近で遭遇したぞ?!
『魔の森』は俺の庭! ってか? ――コカトリスは雄鶏な見た目だが、ちゃんとメスもいる。鶏冠が少々オスより小さいのだ。
それはさておき。
コカトリスの卵は栄養が豊富だ。
ヒヨコ時代をすっ飛ばし、鶏サイズで孵化するぐらいには――――殻がダチョウの卵並みに固いから、そこそこの大きさに育たないと自力で出れないから、なのかもしれないが。
コカトリスの卵はほぼ卵黄で、白身は気持ち程度……だからか、味が濃厚だ。
それで作ったオムレツは絶品で――まあ、YASEIの味はするが、冒険者の間で、“そこそこ” “まあまあ”人気がある。
――なので、卵を一つ、頂戴しようかなぁ~と……。
卵を採るため巣の前で膝をつき、卵が大きいから両手で掴もうと――――
もにゅ……
驚き、手を引っ込める。
「…………もにゅ?」
思っていた感触と違い、卵に触れた手を見ながら、思わず首を傾げてしまった。
コカトリスの卵は、ダチョウの卵のように殻がクソ硬い。割るのに専用の道具がいるぐらいに硬い。
……大事なことなので、何度でも言う。硬い!
だというのに、私が今、持とうとした卵は本来とは違う、“ぷにゅ”とか“むにゅ”とか――水風船や、もちもちのビーズクッションのようなやわやわ触感。
「……もにゅ……」
……これは、アレか? 前世でもあった“鶏が夏バテで殻を形成できなかった”――ってやつ。
……コカトリスが夏バテ……?
……いうほど暑くは――いや、暑さの感じ方はそれぞれだしなぁ……。
人間が平気でも、コカトリスがダメな場合だってあるだろうし――――知らんけど。
カコーン!
う~んと腕を組んで唸っていると、鹿威しのような音が頭に響いた。
「……なんだ?」
すると、使っていない『愛し子』スキル:全てを見透す『神の目』――【鑑定】の結果が視界に表れる。
〔バジリスクの卵〕
〔もうすぐ孵化する〕
「…………は?」
バジリスクの卵……?
いや、ぷるっと、もにゅっとしてたけど、コカトリス――
〔バジリスクの卵〕
〔もうすぐ、孵化する〕
再び表れた『鑑定結果』が自己主張してくる。
自己主張してくる【鑑定】って、なんだ? 視界が煩い。
「はいはい! バジリスクね、バジリスク! わかった、わか……もうすぐ孵化する? ……孵化ぁ?!」
卵に亀裂が入っていくところが目に入り、思わずコカトリスもとい、バジリスクの卵を巣ごと【結界】で覆う。
いや、これ、どーしろと?!
このままだと孵化――――燃やすか? いや、無理だわ!
本物のバジリスクなら『生活魔法』の【着火】程度じゃ、殺せねーわ!
【結界】内の卵にどんどん亀裂が増える。
何か、何が……!
焦って、考えがまとまらない。
――ふと、前世の記憶が浮かぶ。
蛇……爬虫類……変温動物
温度……寒さに弱い……冬眠……
――バジリスクも蛇だから体温を下げれば……?
冬眠、する?
「――【冷凍】!」
思い浮かんだことを実現させるため、『生活魔法』の【冷凍】を発動させ、【結界】内の卵を凍らせる。『氷魔法』の代用だ。
……焦っていたからか、力みすぎたようで――少し、込める魔力が多くなったようだ。思った以上に凍りついてしまった。
冬眠っていうより、凍死してそう……。
生まれる前で可哀想なことしたかなぁ……なんて思うが、この開けた場所と巣に気づけなかったら――気づいていなかったら、六体近くのバジリスクが誕生していたことになる。
そう思うと背筋が凍る……。
「……いや、ホント……どーするよ、これ……」
巣の前に座り込み、カチコチに凍っている【結界】内の卵を見て、ため息を吐く。
う~ん……このままだと溶けるしなぁ……。
凍死してるなら問題無いが、冬眠状態なら――――とりあえず【収納】しとくか……?
【空間収納】なら、時間経過しないから【冷凍】されたままで、安心だ――安心?
しかし、なんでバジリスクの卵なんて……。どう見てもコカトリス――――まあ、バジリスクの卵なんて見たことないから、違いなんか分からないけど。
【鑑定】が嘘を吐くとは思えないしなぁ……。
【冷凍】状態のバジリスクの卵を【鑑定】してみる。
〔バジリスクの卵/凍結中〕
〔元コカトリスの卵〕
〔大型の蛇が長時間側に居たため、バジリスクの卵に変化した〕
…………やっぱ、コカトリスの卵じゃねーか!
……おん? 大型の蛇が長時間側に居たため変化した……?
大型の蛇?
さっき、近くに――
「さっきの大蛇ぁぁぁぁ!!」
もうすでに居なくなっている大蛇が居た場所を睨み付ける。
アイツ……! コカトリスの卵を食うつもりで巣の近くをウロチョロしてたのか?!
いや、食ってるな。コカトリスの卵が六つとか、少ないと思ったんだよ!
二~三日おきに産んでるらしいから、常に十個はあるのに!
食ってる、食ってる――丸飲みしてる。四~五メートルの大きさなら、丸飲み出来るだろ、きっと。
……燃費いいからなぁ、蛇――じゃなくって!
コカトリスの卵じゃなくなったから移動したのか? あの大蛇……!
……実は他のバジリスクもコカトリスの卵から、とか?
……側に居ただけで、コカトリスからバジリスクの卵に変わるって――――いや、待て。前世の記憶に何か……あったはず……。
思い出せ、思い出せ……オタク知識――
元は別々……
バジリスクは『蛇の王』……
コカトリスは『若い雄鶏』……
――違う、これじゃない。
肉、うまい。尻尾の蛇、毒持ち。
――これ、前世じゃねー……。
コカトリスの伝承……徐々に取り込んで……
バジリスクとコカトリスが混同、同一視……
――おぅ?
ヘビの要素が多い姿がバジリスク……
ニワトリの要素が多い姿がコカトリス……
――うん、そう。
まあ、バジリスクは超大型蛇だけど。
ニワトリの卵をヘビが孵化させると『バジリスク』……
ヘビの卵をニワトリが孵化させると『コカトリス』……
…………鶏の卵を蛇が孵化させるとバジリスクになる……?
―― そ れ だ !
コカトリスも蛇も『魔の森』に居る。
卵を食べる目的で蛇がコカトリスの巣に居座ったのなら――――ハッ!
「辺境伯に知らせないと……!」
【瞬間移動】を発動する。
バジリスクの痕跡や異変を見つけたら直ぐに知らせるため、辺境伯に【目印】をつけてきた――了承は得ている。
*
*
*
大きな木の下から辺境伯の近くに【瞬間移動】――したはず……。
さっき居た場所より少し薄暗い。
辺りを見渡す。
木木木――近くに辺境伯が居るはずだが……。
「あ、いた」
少し歩くと、木の影に隠れるように立っている辺境伯の後ろ姿が見えた。
声をかけようとして(なんて声をかけたらいいんだ……?)と、ちょっと悩んだ。
『辺境伯』が無難かな?
『閣下』は――前に嫌な顔、された。
『名前』は……なんか……う~ん――知らない訳じゃないぞ?!
辺境伯がしゃがむ。
どうしたんだろ? と首を傾げ、辺境伯の前にある物が何なのか、気にしながら近寄る。
カコーン!
またあの鹿威しのような音が頭に響く。
これは【鑑定】じゃなくて『危機察知』の警報なのでは?
さっきは目の前に卵があったから【鑑定】だと勘違いしたが、あの時も今も、私は【鑑定】を使っていない。なのに音が鳴った。
私に危険を報せているのでは……?
しかし……なんで鹿威しみたいな音なんだ……。
辺境伯の前には鳥の巣。
――視界に入る。
辺境伯が中身に触れようと手を伸ばし――
――走る!
「触るな!」
「……アレックス?!」
私の声に反応した辺境伯が振り返り、驚いたような声で私の名前を呼んだ。
「【結界】――【冷凍】!」
目標は辺境伯の側にある鳥の巣。
走りながら目標を視界に収め、さっきと同じように【結界】と【冷凍】を発動させた。
魔法が展開し、辺境伯の側にあった鳥の巣が【結界】に覆われ、中身が凍る。同時に『危機察知』の内容が視界に表れた。
〔バジリスクの卵〕
〔もうすぐ孵化する〕




