20.『いつもの朝』と『証拠隠滅』
お読みいただき、有難うございます。
ブクマ、評価、リアクション、感謝ですm(_ _)m
感想? も、有難うございます!
二十一話を書くのが楽しくなっちゃってw つい更新するの忘れてたm(_ _;)mスマヌ...
今回は約五千字です
朝、ぐえっと言う声を上げて目が覚めた。
抱き枕代わりに、自分と同じ大きさの“クマのぬいぐるみ”を抱っこして眠る私を抱きしめて寝る辺境伯のせいだ。己れ、ゴリラめ……!
目覚めて最初にしたのは、クマのぬいぐるみを【空間収納】に【収納】すること。
だってそうしないと、私が見てない隙に“ぽーい”とかやりそうなんだもん。
実際に捨てはしないだろうけど……でも、なんか何処かに隠しそうだなぁ……って。
寝る前の辺境伯の声が、ちょっと恨みがましそうだったんだよね……。気のせいかもしれないけど。
だから【収納】する。
大事な物は隠しとこーねー。はい、【収納】【収納】っと。
クマが居なくなった分、余裕ができて圧迫感も少なくなり、ほっとする――のも束の間。またぎゅーって、される。
辺境伯は密着するのが好きなのか?
……まあ、いいや。
そのまま、いつも通りに二度寝する。すやぁ……
◆
頭を撫でられるような、髪を梳かれるような……くすぐったい感覚に意識が浮上する。
うぎぎぎーっと、声を出しながら布団の中で伸び。手足をぐーっと伸ばす。
「起きたか」
「うむぅ? ……おはよぉ……?」
ぅん?
回らない、寝起きの頭の中が疑問符だらけだ。
なんで私の頭を、横向きに寝た辺境伯が優しい顔で撫でてるんだろ……? なんで――――あぁ、そうだ。辺境伯、昨日、帰って来たんだ。忘れてた。
布団を捲って起き上がり、目を擦る。
ふわぁ……と欠伸をして伸び。ぐぎぎー。
ふぅ……と息を吐いて腕を下ろす、と。
むむ? クマ……?
クマのぬいぐるみが無いことに気づき、辺りをキョロキョロ見回し――――あ。そうだった。
「? どーした?」
「んーんー、なんでもなーい。かいけつしたー」
ふぁ……と、もう一回欠伸をして、もぞもぞと“後ろ向きハイハイ”でベッドから下りる。
クマは二度寝前に【収納】したんだった。そういえば。
……うっかり、辺境伯を疑うところだった。
私が床に着地したのを見た辺境伯もベッドを出る。
チリンチリ~ンと、辺境伯がベッドサイドに置いてあったベルを鳴らし――お着替えでーす。
◆
朝食を終え、日本で謂うところの居間のような部屋へ移動し、まったりティータイム――辺境伯はコーヒー派みたいだからコーヒーブレイク、か。
私は辺境伯に抱っこされ、膝の上でオレンジジュースを飲みながら足をぷらぷらさせる。
……まったりしてる場合ですかね……?
「パパ、しごとは?」
……「パパ、しごとは?」って、これ――何回言ってるかなぁ……。
上を向いて、後ろにいる辺境伯に言えば、項垂れるように辺境伯が私の右肩に頭を乗せる。……ちょっと重い。
首に辺境伯の髪が当たって、もぞもぞする。
「最重要かつ優先事項は、昨日のうちに終わらせた」
終わった、じゃない辺りがホントっぽい。
「ふむ?」
「ギルドへの書簡は昨日の内に書いて今朝、送った」
「ほー」
「イースハルトには、帰ってくる前にイースハルトの騎士に持たせた」
「うん」
「……丁度、イースハルトのガキが居たからな。『そっちでも調べとけ』言っといた」
「おー」
『イースハルト』とは、国境を覆うように広がる魔獣が棲む森――『魔の森』で『ハルバード辺境伯領』と繋がっている隣国の辺境伯家の名前だ。
どうやらタイミング悪く、隣国から巡回で来ていたみたい――いや、タイミングが良かった、と言うべきか。
来てなかったらハルバード辺境伯家から書簡を持って、イースハルト辺境伯領へ行かないといけなかった。それだと被害が出ていたかもしれないし……うん、ナイスタイミング!
“イースハルトのガキ”ってのは……イースハルト辺境伯家のご子息、ってことかな?
辺境伯がガキっていうぐらいだから……確か――みんな辺境伯より年下だったはず。誰だろ?
有力なのは次男さんかな?
前に砦に行った時、私は会わなかったけど、次男さん、巡回でこっちに来てたみたいなんだよね。
それに、砦の騎士さんたちの口振りから、よく巡回で来るみたいだし――――ま、そーゆうことにしとこ。
「仕事は終わった。今日ぐらいゆっくりさせろ」と私を抱きしめる手に力を入れた辺境伯が、私の首の辺りで頭をグリグリする。駄々っ子か。
辺境伯の髪が首を擦れて、くすぐったい。
手で口を抑えるが、くふくふ笑い声が出ちゃう。
強行軍で帰って来たようなもんだしねぇ。
多分、『冒険者ギルド』からの返事次第では、明日にでも砦に戻ることになるのだろう。
……今回は私もついてくぞ――『雷帝』で。
「……あれ? でも、くににもほーこく、しないとダメじゃなかった?」
『バジリスク』は『災害級』『準災害級』に指定されているから、発生、討伐の報告は国にしないといけない。
「……ギルド経由で出した」
「なぁに? その『ぎりははたした』てきな、いーよーは」
「……辺境伯領から王都の距離を考えてみろよ」
「…………あー……ふつーにいったら、ひとつきは、かかっちゃうねぇ……」
そうだった、めっちゃ遠かった。
『魔の森』にバジリスクの生息(発生?)を確認(討伐済み)
→報告する ※今ココ
『魔の森』に調査に行く ※これから
→バジリスクが残ってたら殲滅
→討伐の報告をする
……お城に第一報が届く頃には討伐が完了してそうだし、お城から返信くる前に、調査結果の報告を出しそうだし……。
そうなると、“事後報告でよくね?”ってなるかぁ……。
「……じごほーこくがあたりまえ?」
「時間に余裕があって、数が必要な時は事前報告だな」
「なるほど。じごほーこくがあたりまえ、と」
物理的に距離があるから仕方がないか。
人、国が相手なら許可が必要だけど、魔獣が相手だしねぇ……。
魔獣に関しては、辺境貴族と冒険者に分があるわけだし――仕方ないね。
……まあ、一日ぐらいゆっくりしてもバチは――
コンコンと戸を叩く音がし、次いでガチャっと扉の開く音がした。
入ってきたのは辺境伯の側近だと思ってた黒髪の人。実は家令さん!
辺境伯が居ない間、辺境伯じゃなくても大丈夫なお仕事をこなしていた功労者である。
お疲れ様~ご苦労様~ありがとー!!
「失礼します、旦那様――冒険者ギルドへ遣いに出ていた者と共に、ギルドから使者の方がお見えです」
「あ゛……?」
顔を上げ、私の肩に顎を乗せた辺境伯がドスの効いた声を出す。ひょえ……
間近で聞く、ドスの効いた辺境伯の声……こわ。
ゆっくり出来ないようですね……。ブルブル。
◆
ギルドから来た使者さんが『雷帝』にも用があるらしく、私も使者さんに会うことになった。
「なんで、雷帝が辺境伯邸に居るって、知ってんだよ」
「それはね? 『らいてー』が、まじゅーとーばつで、『まのもり』にいったからだよ?」
「俺が居ない間に雷帝で街に出たのか?」と言いたそうな辺境伯に睨まれたけど、『雷帝』が『魔の森』で魔獣討伐に参加したのは街でも有名になっている。
それを言えば「あ。忘れてた……」というような顔をされた。おい。
まあ、辺境伯が居ない間に街へ行ってましたけどぉ――あれ? そのこと、使者さんからバラされる可能性……?
ハッ!
辺境伯にコップを渡して握らせると、膝からぴょいっと下りる。
「『らいてー』きがえてくる!」
「は? おい、ちょ……!」
バッと挙手するように右手を上げて言うと、辺境伯の返事を聞く前に、家令さんの横をすり抜け、ぴゃーっと走って部屋を出て行く!
『雷帝』、剣を持った冒険者スタイルのままだった! 気づけて良かったー。危ない、危ない。
『姿を変える腕輪』は、なりたい姿に姿を変えれる『魔道具』だが、常にそうとは限らない。
私がこれから『姿を変える腕輪』を使った場合、“魔道具を解除する前”の姿に変わる。
ゲームで云う、“セーブした場所から始める”みたいな。
あれって、HPもMPも減った状態でセーブをしたら、そのままの状態で始まるでしょ? そんな感じで、最後に魔道具を使った時の姿で記憶されるのだ。
だから今、冒険者スタイルの『雷帝』状態なんだよね……。うっかり忘れてた。
どうも辺境伯は、私が剣を持つのを嫌がる節がある。
戦力としても雇われているんだけどなぁ……。
辺境伯の前で、冒険者スタイルの『雷帝』になんてなったら、何を言われるか……。使者さんに会った後にネチネチ言われるかも?
そう思って、脱兎の如く逃げ――証拠隠滅に向かうのだ!
部屋の前で待機してた護衛さんがついてくる気配……! チラッと後ろを見ると、私を抜かない速度でついてくる。護衛だから仕方ないね。ご苦労様でーす。
すまんね、遅くて。これでも結構、マジで走ってるんだよッ!
子供部屋に到着し、部屋の前で膝に手をつき、はーはー息をする。
ちょっと……速度、落とせばよかった……。うぇ、ジュースでそ……。
すー……はー……と息を整え、「『らいてー』きがえるから!」と、護衛さんに一言告げて部屋に入る。
扉を閉め、戸に耳を当て――――護衛さんの動く音。辺境伯が来た気配、なし! よし!
扉に【施錠】をかけ、侵入防止だ!
辺境伯、ノック無く入ってくるから……。お着替え中に入ってこられたくないもんねー。
タタタっとベッドに近寄り【空間収納】から『雷帝』用の服を取り出すと、【色変魔法】を解いて――“黒髪”を赤、“灰青色の目”を黄金色に戻す。
そして、左手首にフィットした『姿を変える腕輪』に右手を添えて魔力を流――そうとして一時停止。
うーん……【変身魔法】でも良かったかな? いや、カジュアル過ぎず――かといって、フォーマル過ぎない格好とか、大人のお出迎えスタイルとか見たこと無いから想像できない……。
想像力が足りなかった……残念。
それに、魔法を解除した後の五歳児な私が『雷帝』の服に埋もれる未来が――――やっぱ『姿を変える腕輪』の方がいいね、うん。
なんで分かるかって? すでに数回【変身魔法】でやらかしてるからだよ!
どういう原理か分からないけど……【変身魔法】だと着替えた服が。『姿を変える腕輪』だと着替える前の服が残る。
ホント、どーなってるんだか……。
『姿を変える腕輪』に魔力を流す。
『雷帝』になると、直ぐに腰の剣帯と共に剣を【空間収納】へ。
剣を【収納】したら、腕、足、胸、肩の防具も外して【空間収納】にポイ。
あ、手のグローブも忘れるとこだった……ポイっと。
ベッドに出した服を物色する。
……まともなのが白いシャツぐらいとか、終わってんなー。着る物に頓着しなさすぎー……。
あ、黒の七分丈のシャツ。これ、中に着よ。
上を脱いで――――そう言えば……『雷帝』で最後に風呂に入ったのいつだ……?
いや、【浄化】使ってるけど! 一応、キレイにしてますけど!
…………『魔の森』が最後……? 説得力がなさすぎる。
着ていた服に【洗浄】【乾燥】【浄化】をかけて【空間収納】へ――後で、防具も手入れして【浄化】かけよ。
自身にも【洗浄】【温風冷風】を使い、仕上げに【浄化】をかけ、まずは黒の七分丈のシャツを着る。
次いで白のシャツを羽織りボタンをしめ、裾はズボンに入れる。白シャツの袖は腕捲り……っと。
……。
姿見に写る『雷帝』を見て『黒の腰エプロンしたら、どっかのウエーターだな……』と頭を過った。
オシャレとか気にしなさすぎた弊害か、これ。
……五歳児な私も与えられた服しか着てないしなぁ……と、ちょっと遠い目になる。
因みにズボンは黒。靴も黒の編み上げブーツである――――血が目立たない色を選んだばかりに……。ガクッ。
自分のセンスの無さに凹みつつ、扉にかけた【施錠】を解除。戸を開けるためにノブを握ると、回る感触がした。
外からも開けようとしていたようで、外開きの扉に引っ張られる。
ノブを離せばよかったのだが、咄嗟のことに動けず、そのままの勢いで、前に居た人物に飛び込むようにぶつかった。
「おわっ、と……すまん」
「……なにやってんだ、お前」
私を抱き止めたのは辺境伯で。顔を上げた私を、辺境伯は怪訝な顔で見ていた。
『雷帝』がぶつかったぐらいじゃ、びくともしない――――やっぱ、筋肉……。
「……なんでもありません……」
踏ん張れず、引っ張られたとは言えず――そろりと目を反らし、そっと辺境伯から離れる。
体格の違いと筋肉量に――ちょっと羨ましい、とか。
いつもより近い距離と大人の余裕に、ちょっとドキッとしたり。
何よりも、腕力に――圧倒的な差を感じさせられた。
これでも一応、最上級冒険者なんですけどねぇ? 自信、失くすわー。
あらすじに書いているとはいえ、ぐだぐだですねー(白目)
最後の方の説明、という名の言い訳。
(BなLに勘違われたくないのでぇ……)
ちょっと長いよ。
◆ちょっと羨ましい◆
辺境伯の体格と筋肉が主人公の理想で憧れだから「羨ましー!」ってなってる。
筋肉、筋肉言ってるのはそのせいですw
◆いつもより近い距離◆
五歳児115cmぐらい、雷帝180〜185cmぐらい、辺境伯190オーバー……物理的に近いんですよ。
75cm差と5〜10cm差ですからねぇ……。
◆大人の余裕◆
主人公には、余裕があるように見えた。
自分も「何でもないですよー」的な感じに対応できるようになりたいな〜と思った。これも憧れですね。
*辺境伯的には多分、余裕ないです。ぶつかった瞬間、内心「ぐふっ(吐きそう)」ってなってると思うw
◆ちょっとドキッ◆
(物理的に)いつもより近い上に、“前世の推し”に似てるので……。前世の思考がひょっこりw「別人、別人! 推しは大人ですぅー」
あと「これが包容力か……!」とか思ってるw
◆何よりも、腕力に――圧倒的な差を感じさせられた◆
劣等感とか。「やはり筋肉か……!」になってるw
……BなLのタグって付いてた方がいいですかね……?




