2.『辺境伯』と『契約親子』①
主人公のセリフ、ルビ(漢字)やめました。読み難かったので……(; ̄ー ̄A
陽当たりの良い中庭はポカポカして温かい。
大きな傘の下にはテーブルがあり、クッキーやケーキなどのお菓子とスコーンやサンドイッチなどの軽食、ティーセットが置いてある。
その側にある椅子に短い足をプラプラさせながら座る私は、グラスを落とさないよう小さな両手で持って、オレンジジュースをちびちび飲む。
向かいの席には、私を辺境伯家に連れてきた男――サラサラの黒髪に灰青色の切れ長な目をした、この家の主になった諸悪の根源が長い脚を組んでコーヒーを飲んでいた。
今はラフだが、貴族だと言われても納得できる格好をしている。
出会った当初は傭兵崩れのような小汚ない格好だったが――服装でこうも雰囲気が変わるとは……。
どっちも黙ってれば美形なんだけど。
眉間に皺が寄り、ため息が出そうになる。
……ため息はジュースで飲み込もう。
「う~ん……」
「ンだよ、どした?」
「……おもったいじょーに、かんげーされてるなぁ……って」
早々に私が彼の子供じゃないとバレたのに、だ。
あの後、不承不承ギルドへ赴き、魔獣討伐の完了報告と証拠部位の提出。それから討伐した魔獣の買取をしてもらい、依頼報酬と買取代金と肉を受け取った。
【変身魔法】を解いて元の姿(五歳児)に戻ると、【色変魔法】で赤い髪を黒、黄金色の目を灰青色――男と同じ色に変えた。
元の姿の色違いな私を抱えた男と、男の実家へ向かう。
抱えなくても逃げないのにねぇ……。
え? 歩幅が短い? そら、さーせーん。
男に連れられ着いたのは――私が生まれた国の東に位置する隣国の辺境伯家だった。
そりぁ「衣食住を保証する」って言えるわ。
そして建物がデカい。
離宮もまあまあデカかったが、あっちは人の気配が全くしない寒い場所だった。でも、こっちは人がたくさんいる――賑やかで温かな場所だ。
男――アレクセイは『ハルバード辺境伯家』の次男として生まれた。
男の母親は辺境の一門である子爵家の(戦う)令嬢で、正式な婚約者ではなかったものの、“結婚するもの”だと、前辺境伯とお互い思っていたそうだ。だが、奥様(正妻さん)が王都から押し掛け女房してきたアグレッシブな公爵令嬢だったため、結婚に至らなかった。
――男の母は、現在もバリバリ戦うアマゾネスである。
妾? の子である男は、同じ邸で生活していた奥様の嫌悪の目と嫌味に晒されていたらしい。
邸での生活に嫌気が差し、成人を迎えて直ぐに家を出た。ついでに籍も抜いた。
この話を道中聞いた時、似た境遇の人間に遭遇する確率ってそんな高くないよな? むしろ低いよな? と来た道を見ながら思ったものだ。
まあ私は籍、抜けてないんだけど。成人じゃないから、自分で(籍)抜けないのよね……。
家を出てからあちこちフラフラしていたらしいが、まあまあ仲の良かった異母兄(嫡男)から毎月手紙が届くように――どうやって居場所を突き止めていたのか……辺境伯家の情報網、こわっ。
だが十年が経ったある日、その手紙が突然プツリと届かなくなる。
忙しいのか、何かあったのか……心配しはじめた頃、執事から父親と異母兄の訃報が――「……(ホント、どうやって居場所調べてんだよ……怖ーわ)」と配達人から手紙を受け取って思ったとか。
訃報の知らせの他に“奥様が辺境伯家は旦那様の直系に継がせたい”から、“戻ってきてほしい”と書いてあったらしい。
めんどくせーと言いながらも家へ戻って跡を継ぐことにしたのは、育ててもらった恩があるから、だそうだ。
戻る条件は“奥様が奥様の実家に戻ること”――――まあ、一緒になんて住みたくないもんね。
そして着いた邸で私を抱えた男が「こいつ、俺の息子」と辺境伯家の使用人達に私のことを(雑に)紹介したんだけど……。
『あの面倒臭がり屋の坊ちゃんに子供ォ?!』
『似てる……似てる、けど……嘘だッ!』
『絶対、子供なんて作らないでしょ!? 面倒は嫌だって避妊する。絶、対、避妊してる!』
『……結婚なんてめんどくせーって言ってましたよね? ……結婚しないための嘘ですね』
と、古参の使用人に即バレだった。
さすが。坊ちゃんのこと、よーく分かってらっしゃる。
口の堅い使用人達だが、対外的に私が“アレクセイの息子ではない”とバレないために私を辺境伯の息子として扱うことにしたのだが――――お客様扱いでも良いのでは?
「それはですね、坊ちゃま」
辺境伯の側に控えていた老執事が私の疑問に答える。
「坊ちゃんが『ガキを連れてく。認めねーなら帰らん』と」
「……いつまで俺のこと坊ちゃん呼びすんだよ」
「坊ちゃんが辺境伯領に戻る“きっかけ”となった坊ちゃまには、使用人一同、大変感謝しております。それに――」
「無視か? おい、無視なのか?」
「大きな坊ちゃんより、可愛らしい坊ちゃまのお世話の方がしがいがありますからねぇ」
「……はー」
フォッホッホッと笑う老執事に男はため息を吐いた。
扱いが雑……まあ、気心が知れてるから、ってのもあるのかもしれないけど……男も本気で嫌がってるわけでもなさそうだし――――諦めの境地かな?
まあ、普通の貴族家だったらクビだろうけどね!
「――つーこった。使用人もガキの世話がしたかったんだろ。
異母兄が結婚してりゃあ子供の一人や二人、居たんだろうが……辺境に嫁いでくるような奇特な女なんて居ないからな。それに、俺一人じゃ面白味の欠片もねーんだろうさ。
――歓迎されとけ」
「……むぅ」
眉を下げ、困り顔でジュースを飲む。
辺境伯家に着いて三日。お風呂や着替えなど、色々世話を焼かれている。けど――馴れないんだよねぇ……。
(一応)王族なのにそれはそれでどーなの? って感じだけど――――蔑ろにされてた弊害かな?
国を出る前は乳母が世話をしてくれていた。まあ、赤ちゃん~幼児だからお世話してもらわないと生活出来ないわけだけど。
母が亡くなってからは、今後のことを考えてか、一人で出来るよう色々教えてくれた。だから大抵のことは自分で出来る。
あ、さすがにお風呂は一人だと危ないから用意してくれてた――今は【変身魔法】があるから一人で出来るけどね。
だから、傅かれて、なんでもやってもらうってのは、今更なんだよねぇ……。遠い目しちゃうわ~。
「では坊ちゃ――旦那様、仕事を再開しましょうか」
「はぁ? また書類仕事しろって? 慣れねー仕事でまだ目ぇ痛ぇんだけど??」
「当主が不在だった分が残っておりますので……」
「……」
「……」
「はぁ……」
老執事の仕事再開発言に男は文句を言うが諦め、ため息を吐くと、カップに残ってたコーヒーをグイッと飲み干し、席を立つ。
そのまま立ち去るのかと思いきや……。
「行くぞ」
「う、わ! ちょ……!」
側にきたかと思えば、私の両脇に手を入れ持ち上げる。そして、ここ最近で定位置と化した男の腕に座る形での抱っこ? になった。
「……」
チベットスナギツネみたいな顔になるのは許してほしい。
そんな私を老執事は憐れみの目で見る――そんな目で見ないで……! 無力を感じずにはいられないからッ!
「坊ちゃん……坊ちゃまは置いて行きますよ」
「コイツが居ないなら行かない」
「(……巻き込むな)」
「……」
「……」
「……セバスさん、おかしとか、もってって、いーい?」
「…………仕方ありませんね……用意させます」
はぁ……とため息を吐く私と老執事は肩を落として諦めた。男だけがご機嫌だ。チクショウ!
老執事が私の持つグラスを受け取ると、待機していた使用人達に片付けの指示を出す。
――ということで、私も辺境伯の執務室へ向かうことになった。
まったく、もう……。
もうちょっと、のんびりまったりしてたかったのになぁ。
主人公の名前が出な……