16.『一人の朝』と『できること』
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お久しぶりです。
辺境伯がいない朝を迎える。
…………。
ひゃー! やらかしたぁーー!
布団をバッ! と、めくってベッドから勢いよく下りる。
シーツが……シーツには巨大な地図が描かれていた――――所謂、おねしょ、というやつですね、はい。
おー、まい、がー。
パジャマもパンツもしっとり……。
手で顔を覆う。うわ~、恥ずかしー!
うぅ……はじめてだよぉ……。オムツ取れてからは、はじめてだよぉ……。
いつもと変わらないのにぃ~。
……ハッ! 証拠、隠滅しなきゃ……!
まず、私を【洗浄】! それから【温風冷風】!! そんで【浄化】!
【温風冷風】の勢いがよかったからか、数歩、後退しささった。おとと……!
次いで巨大地図を中心に球体状に【結界】を張って――【洗浄】! 気持ち【石鹸】の香りを……いや、これは仕上げか?
排水作業に入りまーす!
小さめの球体に管をつけた――丸いフラスコのような【結界】を【洗浄】中の【結界】に取り付けて……【排水】!
フラスコ【結界】を外して、球体【結界】を塞ぐ。【洗浄】が終わった布団には【乾燥】! ――乾いたら、停まってねー!
布団を乾燥させている間、フラスコ【結界】の中身に【浄化】をかけてキレイにしたら、元汚水はトイレに、じゃばーっと。【結界】解除。
ベッドへ戻り、球体【結界】を解いて確認――――ポンポン、大丈夫なようですね、乾いてます。くんくん、臭いもしないようです、成功です!
仕上げに【浄化】! 【石鹸】の香りを添えて……。
ベッドに転がり、一息吐く。
証拠隠滅、完了! ふへ~、つかれたー……。
寝る前は、いつもと同じ量のホットミルクと水しか飲んでないんだけどなぁ……。なんで、おね……巨大地図描いちゃったかなぁ……。うむむぅ~。
◆
二度寝ました、おはようございます。
お子様一人には広すぎるベッドで、枕を抱えて寝てました……。
求めてた安眠なんだけどなぁ……――――今日はアクシデントが起きたけど!
枕抱えて寝るって……。抱き枕ってある?
起きて身支度を整えながら、広いベッドを見て(辺境伯が戻ってくるまで、子供部屋で寝起きしようかな……)と考える。
広すぎて、なんか淋しい……。
辺境伯のいない朝食。これにも慣れないと……。
もそもそパンを食べる。けど、なんか食欲がない。あれだけ朝、ワタワタしたのに――自業自得ですね、うん……。
……食べないと……。
食の進まない私に「坊ちゃま。しばらくの間、お勉強はお休みにしましょうか」と老執事が話しかけてきた。
「え、でも、きのうもしてないよ?」
「昨日は、仕方がないです。急遽、坊ちゃんが予定を入れてきましたから……」
……なんか『予定ぶっ込んできただろ、アイツ』って副音……いや、なんでもない。
「それに実は――坊ちゃまに教えることが無くなってしまったのですよ……」と苦笑する老執事。
え。基礎が終わった、ってこと? 五歳児、やることないの? ……遊ぶだけか??
「……でもやることないよ……?」
「思いきって、だらだらしてみては? ――坊ちゃんが居たら出来ませんし」
あーね。なにかと構われるからねぇ……。いじられるっていうか。
サラダを口に運んでモシャモシャ。スープをちびちび飲む。
「だらだら……」
う~ん……あ!
「そーだ、セバス。とりでに、おとどけものって、する?」
「お届け物、ですか? えぇ、まあ……。第一陣は昨夜の内に出立しましたが……」
「でちゃったの?! ……きのうのうちに、きいとけばよかった……」
「……何かありましたか?」
「うん、あのねー……」
そう言ってテーブルの空いているスペースに【空間収納】から失敗作だと思っていた『回復薬』を出す。
冒険者成り立ての時に生産系の依頼が気になって、一回だけ講習を受けてみたこと。その時に渡された説明書を読んで回復薬を作ってみたこと。魔力の込めすぎで失敗したこと。
昨日『神の目』で、失敗作の回復薬を【鑑定】してみたら『(中)もどき』になっていたこと、などを話した。
「それは、また……」
「ずっと、しまっておくのもなぁ……って。つかえるなら、つかってもらったほーが、いーし……。けど、ふつーの『ポーション』とまざっちゃうのは、さけたいんだよね」
『雷帝』でパッと行って、説明して置いてくることも出来るけど、辺境伯に『街を護ってほしい』って言われたし。約束したから離れられないし……。
怒られたくないし……。
「では、お手紙を添えてみては?」
「てがみ?」
「回復薬の効能と、坊ちゃまが作られた物との見分け方、坊ちゃんが管理した方が良い、などを書くのです。
――坊ちゃんの励みにもなるでしょう」
「うん……? そーする!」
励み……? ――と云うことで! 離れて一日すら経ってもいないけど、お手紙を書くことにした!
あとは『魔力回復薬』もあると良いんじゃないかな?!
朝食をモグモグ食べる。
エネルギー、使うからねッ!
◆
回復薬などの『魔法薬』の作り方が載った本――なんていうんだろ……?
講習会で貰った説明書には『体力回復薬(小)』の作り方しか載ってなかったんだよね……。初心者向けだし、講習一回目だったから、かな?
だから、魔力回復薬の作り方が載ってる本って何処に売ってるのか、魔法薬の材料が売っているお店の場所とかを訊いたら――
「市販の回復薬に坊ちゃんの魔力を混めてみるのは……?」と、メイドさん。
一から作るのは手間だし、材料集めに時間もかかる――目から鱗だね。
因みに。魔法薬の作り方が載っている本は、魔法や術式、魔法薬、魔道具などの『研究』『解析』『開発』『製造』をしている魔術師のフリーランスが登録している『魔術師ギルド』の取り扱い、なんだそうだ。
普通の書店だと取り寄せになって、時間がかかる。それと、悪用を防ぐため誰が購入したか判るよう、身分証の提示が必須なんだって。
まあ、書店で買う人の方が稀らしいけど。
なので、回復薬各種と、レターセットを用意してもらった。
まずは市販の体力回復薬(小)に魔力を混める練習だ。
注ぎすぎて、また『もどき』なんて付いたら困る――――いや、瓶がパーン! なんて割れても困るか。
どのぐらいの魔力を込めたらいいのか――その前に、市販のやつに魔力って混めれるかな……?
【鑑定】しながらやってみよう!
体力回復薬(小)を両手で持ち、魔力で包むようにして、魔力を少しずつ込めて――――
……。…………。……いいかな?
目を閉じて、目に集中――目を開け【鑑定】!
『体力回復薬(小)』
〔市販の『体力回復薬(小)』〕
〔少しだけ『愛し子』の魔力が混められている〕
……ちょっと少なかった――弱かったかな? 中身もキラキラしてないし……。
ンじゃあ、手が光るぐらい、魔力、込めてみますか!
*
*
*
……なるほど。回復薬の瓶は、他の魔力の影響を受けないように加工されているんだな……? じゃないと、他の魔法薬や魔石、魔道具の影響を受けちゃうもんね。なるほど、なるほど……。
『愛し子』パワーを以てしても難しいとは……。ぐぬぬ……! 己れ、回復薬の瓶めぇ……!
中々、魔力が混められなくて疲れた。
……瓶が壊れる覚悟で魔力を込めないといけないのか……? 中々の重労働になりそうだぞ? こいつは……。
――それで出来た物が、こちら!
『体力回復薬(小)』
〔市販の『体力回復薬(小)』に『愛し子』の魔力を混めた物〕
〔市販の『体力回復薬(小)』より効果がある〕
〔ほんのりマスカットのような味がする〕
自分で作ったやつと同じようになった! 中身も少ーしキラキラしている。成功です! ――けどぉ……一から作った方が楽だなぁ……。それじゃあ元も子もない。
【鑑定】を解除して、おやつを食べてエネルギーチャージ!
もう少し、要領よく出来るようにしないと、時間がかかるし、疲れちゃうなぁ……。
……あ。もうちょっと甘い物、お願いできますかぁー?
◇◇
「坊ちゃん、朝から元気がなくて心配だったんですよね……。元気が出てきて良かったです!」
「できることが見つかったからでしょうね。そちらに意識が向いたことで、坊ちゃまの不安が薄れたのでしょう……」
「……旦那様、早く戻ってくるといいですね……」
「……ですねぇ」
――と、老執事とメイドさんが話していたことを、おやつに集中していた私は知らない。
◇◇
おやつの後は、コツを忘れないようにと、せっせと体力回復薬(小)に魔力を込めていく。
――数本、『(小)もどき』という、『小』と『中』の間のようなモノが出来たり、『体力回復薬(中)』が出来たり……。
同じように魔力を込めてるはずなんだけど?? ま、魔力のコントロールが難しいぞ……?!
昼食の後は、辺境伯へお手紙を書くことにした。ちょっと疲れたので。
[パパへ]
[はじめてお手紙をかきます。]
[ま、いつもいっしょだから、かくことなんて、ないのは当たり前、なんだけど。]
[……これを手紙といっていいのか、なぞですが。]
う~ん……。何を書いたらいいかなぁ……。
とりあえず、回復薬を作ることになった‘’きっかけ”と、『神の目』による鑑定結果。私が作った(魔力を込めた)回復薬がキラキラしていること、辺境伯に管理してもらいたいことは書いた。必須事項だしね。
市販の回復薬より効果があるらしいし、鑑定結果通りとも限らないし――いや、【鑑定】が間違ってるってことは無いと思うけど……。
あとは――私が作った(魔力を込めた)やつは、どーーーーーしても……! って時に使ってほしい旨も書いておいた。
使ってほしいけど、『もどき』だからね。どうなるか分からないし……。鑑定結果通りなら問題無いんだけどね……?
私が作った(魔力を込めた)やつには目印を付けた。
瓶の蓋に四つ葉のクローバーを描いた――――見えなくても四つ葉だよっ!
瓶にも私が作った(魔力を込めた)やつには『(中)もどき』『小』『(小)もどき』『中』『魔力回復薬』とも書いておいた。
別で箱詰めするけど、念には念を、だ。
因みに。魔力回復薬は、薄ピンク色をしていて〔イチゴのような味がする〕と【鑑定】の説明文に書いてあった。
書いた手紙? を老執事に見てもらう。
「――よく書けていますね。あとは……もう少し字を小さく書けるようになると良いですねぇ……」
「はーい」
うむ、これからは字を小さく書く練習だな。ちょっと不揃いで不恰好だしねぇ……。あと単語。
さらさら~と書けるようになりたい。
「それと……坊ちゃんに一言書いてあげてください。喜びます」
「ひとこと……?」
喜ぶ、とは……?
う~ん……。
「[ついしん。パパ、がんばってー]……っと。[アレックスより]――どー?」
「はい、有難うございます」
……これでいいのか。
体力回復薬(作ったやつ五本)(魔力を込めたやつ五本)、魔力回復薬(魔力を込めたやつ五本)を詰めた箱に手紙? を入れた封筒も入れる。
砦まで配送、お願いしまーす!
『丸底フラスコ』っていうんですね、丸いやつ。
私はフラスコといったら丸底フラスコの方を思い浮かべるので『フラスコ』のみにしようと思ったんですが、『三角フラスコ』という三角柱の形をしたやつもあるので……。
(調べたら他にも色々あった)
「一般的に『フラスコ』と言ったら、どっちを思い浮かべるのかな?」と思い、紛らわしくならないように。それと、アレックスが丸底フラスコと云う名称を知らないので、『小さめの球体に管をつけた――丸いフラスコのような~』という描写になりました。
――――えぇ、どーでもいいことですね。




